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Side青
「好きです。付き合ってくれませんか」
他人行儀に敬語で慎太郎からそう告げられたのは、つい2日前のこと。
6人での仕事のときに呼び出された。
少なくとも俺は、あんな大真面目な顔の彼を見たことがなかった。だから冗談ではないことは一目瞭然だった。
しかし急にそんなことを言われても、俺にとってはメンバーの一人という存在。
「大事な人」とも言えるけど、それはきっと慎太郎が俺に抱く感情とは違う。
「ちょっと待って」と言葉を濁し、逃げるようにその場を去ってしまった。
あれから慎太郎とは会話を交わしていない。どうしたらいいのか。
こんなデリケートなこと誰にも言えないから、メンバーにすら相談できていない。
6人集まっている楽屋でも、俺が珍しく口数が少ないからかジェシーが心配してきた。
「どうした樹、もしかして体調悪い?」
ううん、と首を振る。
「ちょっと考え事してただけ」
取り繕いの笑顔も、自信はない。
「そっか」
ジェシーはあっけなく前に直った。
慎太郎のほうを見ると、楽しそうに北斗や高地と話している。その様子では俺を気にしている感じはしない。
北斗はニコニコの笑顔で、高地はあのくしゃっとした笑み。慎太郎は満面の笑みで。
きょもは相変わらずイヤホンを付けて音楽を聴いているし、ジェシーも何やらスマホでMVを見ている。
俺から見たらただの「大好きなメンバーの一人」なのに。
慎太郎から見た俺は「大好きな人」なのだろう。
そのことを飲み込めない自分がいる。本当だなんて信じたくない。
もしかしたら夢だったのかも、なんて思う。それか俺の勘違いかもしれない。
と、慎太郎が顔をこちらに向けた。
俺とほんの一瞬、視線が合う。俺はつい目をそらしてしまった。
あのことを言われてから、彼に合わせる顔がない。彼はあまり気にしていないようだけど。
でも、明らかに前より隙間の空いた二人の距離。
まるで地元の友達のように絡んでいた関係は、今はもうない。
慎太郎はそこから進みたいのかもしれない。
でも俺は、できない。戻りたいんだ。今までの俺らに。
戻すには、答えを出さなくては。
俺は立ち上がった。慎太郎の肩を小さくたたき、
「ちょっと話がある」
ほかのみんなは不思議そうに俺を見た。
部屋を出る。あとから彼も出てきた。
そのまま廊下の突き当たりまで進む。非常口の手前で、人はほとんど来ないからこういう話にはうってつけだろう。
「……考えてくれた?」
どこか恐る恐るといった口調で、慎太郎が切り出す。やはり俺の態度から何かを感じ取ってはいたのだろう。
いざそれを話そうと思ったが、口が動かない。まるでのりか何かで貼り付けられたみたいだ。
カサカサに乾いた唇を舐め、どうにか息を吸う。
この俺の気持ちを話したら、絶対に慎太郎が傷つく。それをわかっているからためらってしまう。
慎太郎は静かに俺の言葉を待ってくれている。
傷つけるのは嫌だけど、もし受け入れてしまったらその後も彼の思い描いていた未来とは違うものになる。
俺が好きじゃないってわかってるから、慎太郎も思いに蓋をしないといけないかもしれない。
俺は彼を見据え、口を開いた。
「ごめん」
続く