テラーノベル
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「違う……僕は彼らとは違うんだ!」
僕は、闇の中から僕を見つめる三人の視線を振り切るように
再びエレベーターへと駆け込んだ。
溶けかかっていたはずの箱は
いつの間にか元の無機質な姿に戻り、僕を招き入れるように扉を開けていた。
「閉まれ!閉まってくれ!僕は告白した、罪を認めたんだからここから出してくれ!」
狂ったように「1」のボタンを連打する。
扉がゆっくりと閉まり、視界から山下のデスクと、血に濡れたオフィスが消えていく。
ガクン、と大きな衝撃。
エレベーターが再び動き出した。
上へ行くのか、下へ行くのか。重力の感覚が狂い、吐き気が込み上げる。
……ふと、足元に違和感を感じた。
「……何だ、これ」
エレベーターの床に、一冊の古い「卒業アルバム」が落ちていた。
なぜこんなところに?
震える手でそれを開く。
ページは泥と血で汚れ、判別しにくい。
だが、あるページを開いた瞬間、僕の呼吸が止まった。
そこには、小学生時代の僕が写っていた。
笑顔の僕の隣で、顔を無残に塗りつぶされた一人の少年。
『──思い出した? 佐藤くん』
スピーカーから流れたのは、山下の声でも、あの加工された声でもなかった。
幼い、しかし、凍りつくほど冷酷な子供の声。
「あ……あああ……っ!」
忘れていた。
いや、これこそが僕が人生をかけて隠し続けてきた「最初の罪」だ。
山下の事故なんて、可愛いものだった。
三十年前。
放課後の旧校舎。
「度胸試し」と称して、僕はクラスで一番大人しかったあの少年を、三階の窓の外にぶら下げたんだ。
『手を離さないで』と泣きじゃくる彼の手を、僕は「冗談」で、指を一本ずつ離していった。
最後の一本が離れた時の、あの感触。
地面に落ちた時の、あの重い音。
僕はそれを「事故」として処理させるように、周りの友達を脅し、口を封じた。
あの時も、僕は葬式で一番泣いてみせた。
一番の親友だったと嘘をついて。
『──ねえ、佐藤くん。あの時、僕、どんな顔してたか覚えてる?』
エレベーターの天井から、ミシミシと音がする。
パネルの数字が、凄まじい速さでカウントアップを始めた。
13、14、15……100……500……。
「やめろ……やめてくれ!!」
僕はアルバムを投げ捨てた。
だが、アルバムが開いたまま床を滑り
塗りつぶされていたはずの少年の顔が、ゆっくりと「今の僕」の顔に変わっていくのが見えた。
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