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「はぁッ…げほッごほッ!!っは、げほッ…ひゅ、はぁっ…げほごほッ!!!」
「ねぇ…これヤバいんじゃないの!?」
銀狼が涙目で言う。
咳が酷い。
そして熱い。
とても人間の体温とは思えないほどだ。
水に浸した布を乗せても、すぐに温くなってしまう。
せめて、意識がはっきりするくらいまで回復してくれればいいのだが。
そして、看病を続けること数時間。
「…………っ…」
「千空!!」
コハクが目を輝かせる。
「……、けほっ」
「無理に喋るな!」
「千空ちゃん、水飲める?」
ゲンが千空を抱き起こし、口元に水を近付ける。
「けほっ…あ”ー…どれくらいねてたんだ…?」
「今は真夜中。千空ちゃんが倒れてから……12時間くらいかなぁ」
「………」
千空は眉を寄せた。
「……まさか、まだ作業を続けようとか思ってないよね?」
「………じかん…」
「ダ・メ!!どれだけ熱高いと思ってるの!?」
「そうだ千空!少し休め!」
コハクも言う。
思えば、千空はずっと休んでいない。
村に来る前…いや、石化した瞬間から、ずっとだ。
3700年間も数を数えながら意識を保ち続け、常に頭を使っていた。
石化が解けてから半年は、たった独りで衣食住を整えた。
警戒すべきは肉食獣だけではない。
鳥…猛禽類なども十分に脅威になり得る。
毒虫や蛇もそうだ。
おそらく、生きるのに精一杯で碌に休めていないだろう。
大樹が起きてからもそれは変わらない。
独りではなくなったが、石化復活液の完成を急いでいた。
司が起きてからは、命を狙われる生活が始まった。
…いや、すでに一度殺されている。
村に来てからもそうだ。
ルリの病気を治すためのサルファ剤作り。
時間との勝負だったため、かなり無理をしていただろう。
自分たちは交代制で作業をしていたが、全体を見なければならない千空は、休めなかったはずだ。
実際に、誰も千空が休んでいるところを見ていない。
そして今、司帝国との戦争のための携帯作り。
こちらも春まで、というタイムリミットがある。
やはりこんな状態になっているのは、疲労が大きいのかもしれない。
むしろよく今まで疲労で倒れなかったものだ。
「……ねぇ、千空ちゃん。今、自分がどんな状態か分かる?病名とか…」
「………たぶん……かぜ……?」
疑問形だ。
そして千空らしからぬ口調。
また熱が上がってきたのだろうか。
明らかに頭が働いていない。
だが、高熱、咳、酷い頭痛…となると、病名は確かに風邪だろう。
だが先ほども考えた通り、怖いのは風邪を拗らせて肺炎になってしまう事だ。
千空の体力では、サルファ剤を作り終えるまでもつかどうかが分からないのだ。
ルリの場合は、発熱をしていなかったのがせめてもの救いだったのだが、
千空の今の状態は最悪と言っていいだろう。
「オウ千空!これ呑めるか!?」
漢方を煎じた液体を差し出す。
「……………?」
ぼんやりと漢方を眺める千空。
頭が働いていないせいで、クロムの言葉の意味が理解出来ていないのかもしれない。
「……起こすぜ」
クロムは一言声をかけてから千空の身体を抱き起こす。
お椀を持つために千空から手を離すと、そのまま倒れ込みそうになったため慌てて支え直す。
「俺が支えるよ」
ゲンが千空の後ろに回り、身体を凭れさせる。
「千空、口開けるか?」
「……………、」
しばらくの間があり、千空が口を開けた。
「ちょっと苦いからな」
「……………、」
クロムがゆっくりと漢方を流し込んでいく。
「げほっげほッ!!」
苦さからか、風邪のせいかは分からないが咳き込んだ。
ゲンが背をさすってやる。
「水飲むか?」
クロムが口元に水の入った椀をもっていくと、今度はすぐに口を開けた。
「熱が高いからな、もう少し寝ていろ千空」
コハクが言うと、千空はすぐに目を閉じた。
漢方と水を飲ませる事が出来ただけマシだろう。
「効きは遅いけど…結構よく効くねぇ、この漢方」
ゲンが感心したように言う。
あの後しばらくは高熱に魘されていたが、朝方になるにつれ熱が下がっていったのだ。
「けほっ……けほッ!」
「咳まではどうにもならんか…」
コハクが言う。
さすがの漢方でも、咳にまでは対応出来なかったらしい。
「あっ!起きてるじゃん千空!!」
「だいぶ熱が下がったからな」
千空は軽く片手を上げる。
さすがに起き上がる体力はないようだが、意識ははっきりしている。
「心配したんだよ〜?千空死んじゃうかと思ったんだから!!」
「死なねーよ」
銀狼の言葉に苦笑いで返す千空。
正直倒れてからの記憶が全くないのだが、それは言わない方がいいだろう。
「おお千空!!目が覚めたのか!」
コハクがパァッと笑みを浮かべた。
「千空の体力がもたないのではないかと思ったぞ!」
「んなヤワじゃねーよ!」
「いやいやヤワでしょ!」
銀狼がすぐさま言い返す。
千空の体力の無さは他に類を見ないレベルだ。
「っげほッ…げほごほッ!」
「大丈夫か!?」
「あ”ー…咳はまだ収まってねーのか…」
喉を押さえて言う千空。
その様子を見て、全員の脳裏にルリの事が過ぎった。
「せんくう〜!!!」
「っあ”あ!?」
銀狼に抱きつかれ、もちろん支える事が出来ず床に押し倒される。
「死んじゃダメだよおおおおおッ!!!!」
「はァ!?死なねーよ!」
縁起でもない。
だが、絶対に有り得ないとは言い難いのが怖い。
何せ、体力モヤシどころかミジンコの千空だ。
「千空!これ合ってるか?」
「…………ここの部品が足りねぇ」
「…あっ本当だ!!」
千空に渡された設計図通りに作ったと思っていたのだが、動作確認をしたところどうやら欠けている部分があったようだ。
科学に不慣れな村人たちでは無理もない。
やはり、指揮をする人間がいなくては上手くいかないのだろう。
「千空、ちょっといいかのう」
カセキが顔を出す。
「何だ」
「千空に言われたモノ作ったんだけど、どうも思い通りに動かんのよ」
「……俺が見る」
「オウ、動いて大丈夫なのかよ千空…」
「ここまでは持って来れねーだろ」
確かに、千空が直接行って確認した方が早い上に正確だ。
「…………あ”ー…設計図の計算ミスだ…」
千空が頭を抱えた。
「千空が計算ミス…?」
クロムたちが知る限り、千空が計算を間違えた事などない。
「………悪い」
「謝るなんて千空らしくないぞい!」
「ああそうだ!気にするな!」
カセキとコハクが慌てて言う。
千空に負担がかかり過ぎている事には全員が気付いている。
体調を崩したの要因には、それもあるのだろう。
「すぐ描き直して……っ、」
「千空?」
「げほッ…!!ゲホッゴホッ!!っ、ごほッ!!」
「千空!!」
咳き込み、がくりと地面に崩れ落ちた千空に血の気が引く。
「けほッ!!…はーっ…はーっ…!」
胸元を押さえ、肩で大きく息をしているところを見ると、呼吸が苦しいのだろうか。
これは、マズいのではないか。
風邪がここまで悪化するだろうか。
……おそらく、肺炎になりかかっている…いや、すでに患っているかもしれない。
「っサルファ剤、まだちょっとかかるぞ!?」
クロムが言う。
作り始めてはいるのだが、如何せん時間と人手がいる。
今回はルリの時とは違い、村人全員の手を借りる事が出来るため、少しは早く出来るだろうが…、
「っは……、今、どの辺だ…」
「……半分くらいは終わってる!!」
「……そんくらいなら、耐えれる…」
千空はそう言うと、立ち上がろうと身体に力を入れた。
「ちょ、何してんだよ!?なんで動こうとしてんだ!?」
クロムが慌てて押さえ込んだ。
「……寝るんだよ」
「運んでもらえよ!!」
誰かいないかとクロムが辺りを見回すと、ちょうどいい人物が目に入った。
「マグマ!!千空を寝床に連れてってやってくれ!!」
「あァ!?……ったく何で俺が」
文句を言いながらも、存外優しく千空を抱き上げ、寝床に運んだ
コメント
4件
第1話から少ししか経ってないのにこの完成度は凄いです…!!✨語彙力がすごくし、話の展開の速さもついて行きやすくてめちゃめちゃ読みやすいです!!💕✨