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一花の家からの帰り、電車が混み合う時間になってしまったため、二人は途中まで歩くことにした。
恭介は智絵里が想像していた以上に、尚政と真祐と仲良くなったらしく、いつでもおいでと誘われていた。そのおかげか、恭介が久しぶりに楽しそうだった。
恭介が何も言わないから智絵里は気付いていないフリをしていたが、先週の半ばくらいからずっと元気がなかった。明るく見せようと、から元気を装ったりしているのもバレバレだった。
遠くを見てはため息をついて、頭を掻きむしる。何が彼をこんなふうにしてしまっているのか……。智絵里は原因が自分にあるのではと思って不安になっていた。
今日は一花にそのことを相談しようと思っていたが、彼女を見ていると不思議と勇気をもらえて、ちゃんと自分から向き合うべきだと思えたのだ。
「まさか先輩とこんなふうに話せる日が来るなんて思わなかったよ。すごくいい人だった。あんな人に俺、本当に失礼なこと言っちゃったんだよなぁ」
「そうだね。話すと印象が違うよね。でも真面目で面白いところなんか、二人は似ている気がするけどな」
「そう? 先輩には雲井さんと俺が似てるって言われたよ。なんか包容力があるってさ」
恭介はにっこり笑うと、智絵里の手を振り回しながら歩き始める。そんな恭介が可愛く見える。
「千葉家って、私たちにとってのパワースポットなのかもしれないね。あの二人って本当に特殊なパワーを備えてるとしか思えないくらいの夫婦だわ」
「真ちゃんもね。可愛かったな〜」
楽しそうな恭介を見ていると、智絵里まで嬉しくなった。今なら話せるかな。また落ち込ませちゃうかもしれないけど、何か隠しているなら話してほしいと思った。
「ねぇ恭介、私に何か隠し事してない?」
智絵里の言葉に、恭介は笑顔を崩し固まった。
「ここのところ、ずっと落ち込んでるよね。何かあったの?」
「いや……なんでもないよ、本当に……」
作った笑顔を貼り付け、恭介は顔を背けた。
これが何でもない人の反応なわけないでしょうが。智絵里はイラっとして、恭介の頬を力いっぱいつねった。
「いでっ!」
「あんたね! 言いたいことがあるならさっさと言いなさい! 私には言えって言ったくせに、自分はだんまりなわけ⁈」
智絵里が怒鳴っても、恭介はただ下を向いた。
「それって、私が関係してるの?」
「……」
「わかった。私と別れたいってこと? そうだよね、恭介は付き合っても長続きしないんだもん。私とも終わりってことだ」
「ち、違う! 勝手なこと言うなよ! 俺は絶対にお前から離れたりしないからな! だからそうじゃないんだよ……」
絶対に離れないと言われて、それだけで智絵里は満足してしまった。でも理由を聞かないことには先には進めない。
「ちゃんと言ってよ。私は恭介がいれば大丈夫だから。受け止められるから」
「……わかった……。でもちゃんと話したいから、家に帰ってからでいい?」
「……嫌だけど仕方ない。よし、タクシー捕まえよう」
「えっ、そんな慌てなくても……」
「嫌なのよ。恭介が……いつまでも元気がないのが。吐き出せばスッキリするでしょ? だから早く帰るの。わかった?」
恭介は困ったように笑う。俺の心配してくれるなんて思わなかった。
「わかったよ。早く帰ろう」
ちゃんと話せるだろうか……それがわからないから怖いんだ。でも何があっても俺が智絵里を守るということは変わらない。