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まだ、小学校に上がる前のこと。
夕暮れの公園、草薙寧々という少女が1人でブランコに座っていた。誰もいないはず、なのに背後から気配がする。人間では無い、この世のものではない。
振り向くとそこには、___が居た。人のカタチをしていない何か。黒く揺れていて、でもたしかに「こっちを見ている」。
「っ、、、」
声が出ない。逃げようとしたその時手を掴まれた。
「大丈夫」
振り向くと同じ年齢のピンク髪の少女とも少年とも思える子が立っていた。
「暁山瑞希。キミは?」
「草薙寧々、」
「寧々ちゃんね。それ、見えてるでしょ」
当たり前のように言われて寧々は固まった。わたし以外にもいたんだという安心感とこれからどうしようという焦燥感が押し寄せてくる。
「……見えてるの、わたしだけじゃないの?」
「うん。ボクも見えるよ」
瑞希は少し笑って、寧々の前に立つ。そして黒い___をじっと見て、軽く手を振る。
「今日はダメ。あっち行って」
すると___は何も言わずそっとどこかへ行った。そこには何もなかったかのように。
「今の、何?」
「よくわかんない。でもよくいるんだよね」
瑞希はあっさり言う。そして縮こまった寧々の顔を覗き込んで優しく言う。
「怖い?」
少し考えてから頷く。
「うん、怖い」
瑞希は考えてから寧々の手を握ってこう言った。
「じゃあさ、ボクが一緒にいるよ。一人で見ると怖いけど、二人ならちょっとマシでしょ?」
その言葉に寧々は安心して少し息をついた。
「…うん」
その日からだった。“見えること”を隠さなくていい相手ができたのは。
数日後。
瑞希は、ひとりで帰り道を歩いていた。夕方。人気のない路地。ふと、足を止める。
「……いるでしょ」
暗がりの奥。何かが動く。ゆっくりと、二つの光が浮かび上がる。猫の目だった。
でも、その奥にあるのはただの動物じゃない“意志”。
「ふーん……」
低く、少しだけ楽しそうな声。
影の中から現れたのは、人の形をした猫。化け猫なのか。この前見た___と同じ類のものなのか。
「逃げないんだ」
「どうせ逃げても意味ないでしょ」
瑞希は肩をすくめる。
絵名は少し目を細めた。面白いからもう少し遊んでやるかなんて考える。
「変わってるね、あんた」
「よく言われる」
少しの沈黙。
風が吹いて、ビニール袋が転がる音だけが響く。
「……ねえ」
瑞希が口を開く。
「悪いこと、するの?」
絵名は一瞬だけ黙ってから、笑った。悪いことをしないなんて聞かれるのは初めてだ。___だから毎回悪いことをするものと決めつけられる。
「さあね。気分次第」
「そっか」
瑞希はそれ以上聞かなかった。
代わりに一歩近づく。怖くないのかもしれないと判断したからだ。
「じゃあ、今は?」
「……今はしない」
「ならいいや」
あっさりとした返事。
絵名は少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
「怖くないの?」
「ちょっとは。でも――」
瑞希は真っ直ぐ絵名を見る。
「いなくなる方が、やだかも」
その言葉に、絵名は完全に沈黙した。
しばらくして、ふっと小さく笑う。
「……気に入った」
「え?」
「しばらく一緒にいてあげる」
「しばらく?」
「気が向いてる間だけね」
そう言って、絵名は影の中に溶ける。
でも“気配”は消えなかった。
すぐそばに、いる。
瑞希は小さく笑った。
「……じゃあよろしく、かな」
その日からだった。
ひとりじゃないと分かったのは。