コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
レンが康二の上に覆い被さるように、2人は瓦礫の上に倒れ込んで銃撃をかわした。
🧡「レン、どうしよう、あいつらや……」
どうやらこの星最後の生き残りを追いかけ、異星人はこの拠点まで辿り着いたらしい。苦しむ康二の表情を見て、レンは言った。
🖤「……コウジ、逃げて」
🧡「え、でも……」
🖤「いいから。道は開ける」
珍しく圧を放つレンは、立ち上がってボスがいる方とは逆の異星人たちを見ると片手からものすごい威力の攻撃を放った。
初めて見たレンの本気に康二は反論できず、素直にその場から逃げた。
物陰に隠れていた敵を自分の銃で撃ち殺しながら、康二は後ろから聞こえてくる激しい音に怯えた。
前に一度、聞いたことがある。宙の旅人は、旅先で出会った星の住人に対して感情移入してはいけない、と。運命を見届けることだけが使命であり役割だから。
それなのに今のレンは、その掟を破ってでも自分を助けようとしてくれている……その姿が、康二にはとても眩しく見えた。
康二はただレンの無事を祈り続けながら、気づけば足はかつて仲間と暮らしていた始めの拠点に向かっていた。
そしてふと、康二の足は止まる。
脳によぎる仲間の姿。自分がいない間に、帰らぬ人となってしまった仲間たち……
🧡「……俺、また繰り返そうとしてへん?」
大切な仲間を置いて、自分だけまた助かるのか?前回は敵の襲来を予測できてなかったから仕方なかったかもしれない。
でも今は? 掟を破ったレンに全てを任せて、この星の住人であるはずの自分はただ助かろうと逃げているだけ? そんなの、そんなのって。
🧡「俺だけズルすぎやろ……今戦わなあかんのは、俺や!」
康二はくるりと踵を返し、戦い続けるレンの元へ再び駆け出した。
これが、「許せない」ってことなんだ。レンは襲いかかってくる異星人を返り討ちにしながらそう感じた。
この星に来て康二と出会ってからというもの、レンは様々なことを康二から学んだ。この星にあるいろんなものについてもそうだが、何よりも感情面の学びが大きい。自分には無縁だと思っていた恋でさえも、康二から学んでしまった。
だからこそ、この星は終わらせてはいけない。たとえこの星がもう手遅れなのだとしても、絶対に康二を死なせてはいけない。
🖤「俺はコウジに、生きてほしいんだ……!」
いくら倒してもどんどん溢れてくる異星人。終わりは見えないしボスにすらまだ手が届かないけれど、いくらだってやってやる。
「哀れな旅人だ」
異星人の声が聞こえてきた。どうやらボスが話しかけてきているらしい。
「掟を破ってまでもあの星人を助けるだなんて、どうかしている。さっさとそこを退け、今ならまだ協会に言わないでおいてやる」
宙の旅人であることを利用して、そう脅しをかけてくる。でも、康二を助けるためなら、もう掟なんてどうでもいい。レンは強く思った。
🖤「……俺は退かない。あの者は、コウジは、俺の特別だ」
「特別?笑わせる。お前にそんなものが分かるか」
🖤「分かるんだ。全部、コウジが教えてくれたから」
「……本当に残念だ」
そこまで話したところで、再び異星人からの攻撃が始まる。レンはまた攻撃を避け、襲ってくる相手を次々に返り討ちにした。
無我夢中で戦い続け、残るは幹部とボスだけの状態になった時だった。
🧡「レン……!!」
逃げたはずの康二が、戦いの場に戻ってきた。
🖤「コウジ!どうして戻ってきた?」
🧡「俺、また逃げてばっかになってた。これ以上俺のおらんとこで大切な人がいなくなるんはごめんや!……俺も、戦う!」
そう言って、震える手で銃をボスに向けて構える。その姿にレンは心打たれ、最後まで康二のために戦うことを改めて決心した。
🖤「俺は死なない。コウジは、俺が守る」
その言葉が引き金となり、戦いは再び始まった。
どのくらい夢中で戦ったか分からない。康二が気がついた時には辺りに異星人の屍が転がっており、少し離れたところでレンが最後のトドメを差しているところだった。
お互いの体はボロボロになり、記憶にはないが激しい戦いだったことがわかった。
🧡「レン!」
🖤「……コウジ、強いんだね」
ゆっくりと顔を上げたレンは、異星人の返り血で顔が汚れていた。康二は駆け寄ってその血を拭う。
🧡「自分じゃわからへんねん……夢中やったから、覚えて、なくて」
🖤「……そっか」
これまで自分で戦ったことがなかった康二は、眠っていた潜在能力が引き出されたのかもしれない。レンは康二について冷静に分析を進めていたが、ふと我に帰る。
🖤「……俺、康二と一緒に戦った。こんなの、宇宙法違反だ」
🧡「法を、犯したってこと?」
🖤「うん。俺は狙われる、コウジは一緒にいちゃいけない」
宇宙にある協会の中で、宙の旅人には守らなければならない法律のようなものが存在する。
感情移入した挙句、その星の運命にないこと──この星でいえば、本来死ぬ運命にあった康二を助けたこと──を行った場合、その宙の旅人は宇宙協会や組織から狙われ、存在を消されることになっている。
🖤「早く、この星を出ないと」
🧡「待ってやレン!」
足早に去ろうとするレンを康二は止める。
🧡「レンまでここからいなくなってしもたら……この先1人で、どう生きてけばいいん」
その言葉に、レンは過去の自分が重なって見えた。
1人宇宙協会に飛ばされ、どうやって生きれば良いかわからず、ただひたすら言いなりになっていたあの頃。不安で、怖くて、何もわからなかった。
康二も今、そんな状況に……いや、その時よりも酷い状態にあるのだとしたら。
何も無くなってしまったこの星で、どう生きていくというのだろう。
🧡「……一緒に、行かせてほしい」
康二はレンの手を取って言った。
🧡「宙の旅人なんて、何したらええんか分からんけど……ここに1人でおるよりマシやし」
🖤「コウジ……」
🧡「……狙われたっていい。レンと一緒に死ねるなら、本望や」
康二の覚悟は相当なものだと伝わってくる。康二の震える手をレンは優しく包み込んで言った。
🖤「本当に、いいの?」
🧡「うん。俺の覚悟はできてる」
🖤「……俺の旅にコウジがいるなんて、心強いな」
崩れかけたタワーの頂上、赤い月に照らされて2つの影が伸びる。
固くしっかりと繋がれた手は、緊張感と幸福感を纏っているように見えた。
🖤「……行こっか、コウジ」
🧡「うん……行けるとこまで、行こう」
法を犯した2人の旅人は、宇宙の彼方へ姿を消した。
一説によると、このあと2人は他の星を巡り渡り、何度も星の破滅の運命を変えていったのだとか。
〜End〜