【毒林檎な本物の罪人】
――語り手:サンシャイン
やあやあ、ようこそおいで。
ここは“物語を喰う世界”。
見てみないかい?値段は――君の寿命、五ヶ月さ。
……ふふ、まいどあり。
ある魔法の国に、ひとりの青年がいた。
名を――ステレス。
穏やかで、少し神経質な魔法使い。
けれど彼の世界では、なぜか“人が消える”事件が続いていた。
ステレスは一冊の本を見つめる。
それはかつて彼が魔法薬で創り出した、小さな“童話の世界”の記録だった。
「……もしかして、みんなボクの創った世界に閉じ込められたんじゃないか?」
静かな部屋に、言葉が落ちる。
彼の心に、かすかな罪の影が生まれた。
その翌日――
彼の召喚獣《アイリス》が姿を消した。
ステレスは迷わず、本を開いた。
血のようなインクが滲み出し、文字が彼を飲み込んでいく。
「……アイリス、待ってて。」
そして、彼は“童話の世界”へと足を踏み入れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
枯れ葉が頬に落ちた。
目を開けると、空は曇り、空気が鉄のように冷たい。
「ああ……ボクはこの世界に来たんだったな。」
ゆっくりと立ち上がったステレスの前に広がっていたのは――
血で染まった庭。
倒れた人形。砕けたティーカップ。
あの美しかった“童話の国”の面影は、どこにもなかった。
「……血は残るのに、涙は残らないんだな。」
彼は足元の“もの”を避けながら、城の方へ歩いた。
〜不思議の国のアリス〜
南から吹く風が、赤黒いバラを揺らす。
確かこの辺りに――ハートの女王の城があるはずだった。
だが、空が不自然に黒く沈み、雨が降り始める。
冷たいしずくが肩に落ち、彼は顔をしかめる。
「……どうしてボクって、いつも運が悪いんだ。」
近くの小屋に駆け込み、息を整える。
そこは牢屋のようだった。
鉄格子の向こうに、動かない影。
ハエがぶんぶんと飛び、溝鼠がこちらを見て逃げる。
「誰も入れてないはずなのに……いったい何が――」
その時だった。
不気味な歌声が、奥から響いた。
「ら〜らら〜!誰か〜、出してよ〜〜!!」
ステレスの心臓が跳ねる。
この声、どこかで……。
「まさか――」
駆け出した先の檻の中で、彼は見つけた。
血に濡れた鎖。
不気味な笑みを浮かべる少年。
「ゼ、ゼフィール……?」
ステレスの喉が震える。
それは確かに、彼の“弟”だった。
だが、ゼフィールは首をかしげて笑った。
「あれ〜?キミ、見たことない顔だなぁ。オレたち知り合いだったっけ?」
ステレスの頭が真っ白になる。
けれど、かすれた声で答えた。
「……ゼフィール。キミは、ボクの弟だ。」
一瞬、ゼフィールの目が大きく開かれた。
だが次の瞬間、にやりと笑う。
「へえ、そうなんだ?――知らないけど。
でも、“お兄ちゃん”って呼んでほしいんでしょ?」
檻越しの空気が、冷たく震える。
ステレスは胸の奥で呟いた。
「……そういえば、昔もそう呼ばれていたな。」
彼は、静かに鉄格子へ手を伸ばした。
けれど、もうその距離は、永遠に届かない気がした。
次に続く。
コメント
2件
やっぱ天才続き求む!!!