重い風が、ステレスの体を刺した。
ゼフィール「ねえねえ!これ外してほしいなあ〜」
ステレスは、ゼフィールの言葉を少し考え込んだ後、「あっ、ごめん。聞いてなかった」と頭をかいた。
ゼフィールは涙袋を大きくしてステレスを見つめ、繋がれた鎖の方へ目を向ける。
ゼフィール「これ、外して?」
ステレスは彼の言うとおりに手錠を外した。ゼフィールは満足そうな笑みを浮かべる。
ゼフィール「感謝するよ〜」
過去の弟の顔が何度もステレスの脳裏をよぎる。その瞬間、ゼフィールは隠し持っていたナイフでステレスに襲いかかった。
ステレス「!?」
ステレスは地面に倒され、ゼフィールは両手でナイフを構え、馬乗りになる。
ゼフィール「キミに興味を持ったよ。ねえ、名前を教えて!」
ステレスは小刻みに目を震わせる。
ステレス「ス、ステレスだ!急になにするんだ……!」
ゼフィールはニヤリと笑い、ナイフを置くと、今度はステレスの首を力いっぱい締めた。
ゼフィール「ステレス〜!覚えやすい名前だね?ストレスが溜まりそうな名前だ〜!ははは!」
力は思った以上に強い。知っているはずの、愛しい弟の顔は、今ではまるで別人に見える。ステレスは必死に抵抗するが、ゼフィールの力はますます強くなるばかりだった。
ステレスは諦めずに、隠し持っていた魔法の杖を握りしめ、呪文を唱える。
ステレス「✮- ̗̀ 𖤐⋆☾·̩͙꙳!(吹き飛ばされろ!)」
ゼフィールは壁に吹き飛ばされ、ゼフィールは「いったぁ」と呻いた。ステレスは息を切らしながらも、静かに深呼吸をして心を落ち着かせる。
ゼフィールはステレスを見て、人差し指をくわえた。
ゼフィール「面白い!よく見たらオレと同じような服着てるねぇ!ってことは、魔法使いか!あはは!もっと興味が湧いてきた!」
くわえていた人差し指からは、血が流れ出ていた。
ゼフィールは、流れ出る血を舌で舐めながらステレスに呟く。
ゼフィール「ステレス!キミは本当に面白いよ!約束したいことがあるんだ〜!」
再び近づいてくるゼフィールに、ステレスは警戒して杖を向ける。するとゼフィールは、その杖を掴んで自分の首へと当てた。
ゼフィール「契約したいことがあるんだ〜!オレはキミのことが好きになった。興味を持ったんだ。だから、キミに殺されたい。強く、判断力がある人に殺されたいんだ〜!」
ステレスは呆然とするが、すぐに頭を整理して静かに答える。
ステレス「残念ながら、そんなことはしない。」
ゼフィールの笑顔が少し崩れる。
ステレスは少し考え、
ステレス「……ついてきてほしい。興味を持ったのなら、すぐ傍で見守っていたはずだ」と続けた。
ゼフィールは嬉しそうに口角を上げる。
ゼフィール「じゃあ守ってあげるよ〜!あ、つまんなくなったらキミのこと殺すからよろしくね〜!」
理不尽な言葉を口にしながら、ゼフィールは切れ味の良さそうなナイフをしまう。ステレスは心がずたずたになったが、アイリスを探すためだと自分に言い聞かせ、ゆっくりと心を落ち着かせた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ゼフィール「ねえねえどこいくの?あっち?こっち?どっち?」
ゼフィールは憧れの人に会った幼い子供のように話す。
ステレス「……まずはここの牢屋を抜け出して、城の裏側へと行く。」
ゼフィール「へえ、詳しいんだねえ〜!」
ボロボロの階段を上がりながら、ステレスはゼフィールに尋ねる。
ステレス「なんで捕まっていたんだ?」
ゼフィールはまた指をくわえながら考える。
ゼフィール「知らない女に『貴方は悪魔の子よ』って言われて捕まった。さすがにレディに触るのはアウトだろう?」
ステレス(……そもそも、ボクに襲いかかってきた時点でアウトだけどな)
ステレスは心の中でつぶやきながら、一歩一歩階段を上がっていく。
ステレス「悪魔の子……?お前は魔女から生まれた。」
ゼフィールは首を傾げ、唇に指を当てる。
ゼフィール「誰から生まれたかは知らないけどさ〜。捕まってからよく分かんない水をかけられた。」
鼻歌を歌いながら、ゼフィールは考えるステレスについていった。
階段を上がると、そこは城の中だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ステレス「相変わらず散らかっているな……。」
ゼフィール「でもシャンデリアだけは綺麗に残っている。」
ゼフィールが指差した瞬間、シャンデリアはズタズタに砕け、ガラスの破片が飛び散った。
ゼフィール「おっと〜!」
ゼフィールはステレスの体を引っ張り、落ちてくるガラスの破片を避けさせた。
ステレス「反射神経がすごいな……。」
ゼフィール「まぁね〜。……さては、ここに誰かいるな?」
血だらけの足跡が、こちらに向かってくる。その足音は、近づくたびに小走りになり、速くなった。ゼフィールはステレスの手を引いて、城の奥へと走り出す。
ステレス「あれはなんだ……?!幽霊か?!」
ゼフィール「いいや、あれは……さっき説明した、あの女だ。」
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
ゼフィールたちの後ろを追うように、通ってきた道に次々とシャンデリアが落ちてくる。
ゼフィールがこの城の構造をあまり把握できていないため、二人は行き止まりにぶつかってしまった。シャンデリアの破片が散乱しすぎて、後戻りもできない。
血の足跡は、ステレスたちの前で止まった。そして、その姿を現す。
?「出てきちゃダメよ、悪魔の子……」
声と手を震わせながらゼフィールの目を見る女。
アリス「と、隣の人は、はじめましてかな……?え、えっと、私は、アリスっていう、の……」
歯ぎしりしながらアリスは答える。
ゼフィール「だーかーらー!オレは悪魔の子じゃないって!」
アリスは不敵な笑みを浮かべ、青白い唇を震わせた。
アリス「貴方の隣には……見えない、あ、あ、あ、あ、悪魔がっ……!!!」
彼女の震えはさらに酷くなる。
アリス「ひぃっ……恐ろしい……!!!神よ……祝福を……ああ、お願いしますうううううう!」
情緒不安定になったアリスは、泣きながらひざまずく。
ステレス「幻覚なんじゃないのか……?」
隣のゼフィールが声を出して笑った。
ゼフィール「はははははは!惨めで滑稽だ!そもそもさぁ、悪魔も、神なんかもこの世に存在しないんだから〜!」
その言葉に、アリスの目が鋭く変わる。
アリス「今なんて言いました……?」
アリスは立ち上がり、太陽神のシンボルであろうネックレスを外し、手に持つ。ゼフィールもナイフを構えた。
アリス「やはり、あなた自身が悪魔なのね……!!!」
アリスがネックレスを胸に当てた瞬間、城が爆発するように燃え始めた。
ステレス「!?」
アリスは姿を消す。ゼフィールはステレスに話しかける。
ゼフィール「ねえねえ、見てみて〜!」
ゼフィールはフードを外し、大きなナイフをゴクンッと飲み込んだ。
ステレス「は……!?」
状況が理解できず驚くステレスから、ゼフィールは少し離れた。ゼフィールの頭から、大きな青い角が生えてくる。
ゼフィール「オレ、悪魔になれるんだあ〜!」
その時、突然アリスが姿を現し、ゼフィールに蹴りかかった。アリスは化け物のような姿で、頭は太陽のように燃えている。
ゼフィール「わお!」
ゼフィールはアリスの攻撃をうまく受け止め、投げ返した。しかし、いつの間にか肩を刺されている。
ステレス「ゼフィ……!!」
ステレスは回復魔法をかけようとするが、ゼフィールは首を振って、刺さった小さなナイフを抜いた。肩から大量の血が流れ出す。その血は空中に浮かび、大きなナイフへと姿を変えた。
ステレス「……???」
ゼフィール「オレ、今**『テアイカ族』**なんだ〜」
〜テアイカ族。
それは、七つの種類の悪魔のうちのひとつであり、「暴食」を象徴とする。自分の血で武器を創作し、血を飲んで回復する。
再びアリスは姿を消し、今度はステレスの方に襲いかかった。
ステレス「||☾★♛!(盾よ、我が身を守れ!)」
それと同時にアリスが叫び出す。
アリス「神よ、祝福をっ……!!!」
その瞬間、部屋が爆発した。ステレスは運良く呪文で身を守れたが、ゼフィールは少し被害を受けたようだ。
ゼフィール「あちちちちち!!!」
爆発で壁が破壊されたため、ステレスはアリスの次の攻撃が来る前に、急いでゼフィールの手を掴んで走り出した。
ステレス「今度こそは、行き止まりにならないようにボクが案内するよ……!!!」
亀とうさぎの競争が始まる。
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