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あの冒険の次の日。
お父様の言ったとおりの貴族と結婚するために、お父様と御者で馬車で教会へと出発した。
がたん、がたんと揺れる馬車。
あぁ、あれは昨日行った冒険者ギルドだ。10も数えないうちに、あんなに遠くまで行ってしまった。
未練が喉を突く。
もっと、あんな冒険がしたかったのに、結婚なんていう貴族のつまらないので離れたくない、と言葉が口の中でぐるぐる回っている。
誰に伝えようとも、届くことはないのに。
こんなわがままが許せる権利があるのは、私の結婚相手しかいないのだ。
そういえば結婚する貴族については、思い返してみればなんの情報も与えられていない。
スキル持ちからスキル持ちの子供が生まれる可能性は、何のスキルも持たない一般人から生まれる可能性よりも比較的高いとはいえかなり低確率のはずだ。
男性のスキル持ち1人が二桁人の女を侍らせて、生まれた大量の子供のうち、一人スキル持ちが出るか、出ないかくらいの確率。
そんな確率なのにも関わらず、なぜ頑張っても10人くらいしか産めないだろう女性の私が嫁ぐのか。
「私の容姿から結婚が決まったのですか? それともスキル持ちの戦力として嫁ぐのですか?
それとも、考えてみるとありえないのですけれど、事前に聞かされてたように、スキル持ちを産まされるための結婚なのですか?」
とお父様に聞いてみると、
「こんなことを娘に言うのもひどい話だが……全てだ。
割合としては7割と、2割、その残りだが…………もう何も考えなくていい。ただ、相手に体を許しなさい」
要するに、愛玩用の肉人形としての結婚だろう。政略結婚というか、機嫌取りに近いのだろうか。
私はこういう、貴族同士の謀略だとかで頭を使うのが得意ではない。嫌いですらある。
だけれども、生活水準が下がるのはわかる。それはやだなぁ、とのんきに思ったりしていると、相手もそろそろ来るだろう、とお父様が言って教会に到着した。
表口から入り、結婚式が行われる神前の祭壇の横にある準備室に案内される。
お父様は「これで会話をするのも最後になるだろう。何もできなかった父を許してくれ」と優しいけれど、どこか悲しい声音で言って、私の背を準備室の中に優しく押す。何もできなかったとはなんだ。私をここまで育ててくれたのはお父様だろう。
相手が用意したと自己紹介するメイドにより着替えが手早く行われ、私はあっという間にふわふわのウエディングドレスに包まれた。
嘘だ。金をかけたくないらしく、私の服装はよい言い方なら素朴、悪い言い方なら全く飾り気のないドレスだった。
ぶっちゃけ、一応貴族子女である私を舐めてるのではないだろうか、と思うほど。
結婚式はするだけで神から祝福を貰える。スキル持ちならスキルの強化、それ以外の人なら身体能力がわずかに上がったりする。
要するに、この結婚式はギリギリ結婚式と神に認められるギリギリのレベルで、祝福だけついでに貰おう、という魂胆の結婚式らしい。
本格的に自分が道具扱いされているような気がする。
私はいったいどんな生活環境に貶められるのだろうか。
着替えが終わり、部屋の壁の木目を見るくらいしかやることがなくなったのでしょうがなく木目を見ていると、
「旦那様の準備が完了した」と私の着替えを手伝った人とは違うメイドが伝えに来たので、案内されるがまま、ついていく。
事前に結婚式の説明をする役割も持っているようで、ちょっとゆっくり歩きながら本当に最低限の作法だけを私に教える。
「最後にキスをすることになりますがためらうことのないように」
と言われたが私のファーストキスはコボルトに奪われたので特に問題はない。
――
祭壇の前で初めて顔を合わせることになった相手の貴族は豚だった。
あるいはオーク。例えとしてはそれくらいしか使えないほど、豚だった。
脂ぎった肌にふくよかな体。醜悪な顔つき。
これが私の旦那様か、と少し引き攣りながらも微笑んで見るとそいつは舐めるような目で此方を見てきたのだ。
なるほど。こんなものと結婚させてすまない、という意味でお父様は誤ったのだろう。
メイドは、この醜悪な化け物とキスするときにためらうな、という意味だったのだろう。
一通り直前に言われた作法をこなすと、「ではキスを」と一応これからの旦那様である豚に言われたので
目を瞑り口を気持ち窄め、豚の顔があるほうに向ける。
しかしその0秒後に、舌を私の口に絡めてきたのだ。
しかも、自分が気持ちよくなる、とかそういうことしか考えてない、
そう、例えるならば処理道具。そういうものとして、私の口を奪っている。もしくは使っている。
吐き気がした。尊厳が踏みにじられるという言葉では表せないほどこの不快感は強大だった。しかも、終わりが見えないのだ。
コボルトにファーストキスを奪われたから問題はない、とか言ってる場合じゃない気持ち悪さだった。
冷静に考えてみれば、一応コボルトも相手の生命を尊重しなければならない立場だったのだ。母体である私が孕む前に死んだら困るだろう。
そんな情熱的でも何でもないキスはいつまでしなければいけないのかわからず、
ぐずぐずとした何かになっていく自分を、最も主観的に嫌な気分で見つめ続けるしかなかった。
永遠にも思えるほどの地獄にも終わりは来る。「以上で、結婚式を終了とする」と私の口を汚し切った後に上のほうを向いて相手はつぶやいた。
その瞬間、神の祝福があたりを舞う。光が教会の下のほうを満たし、足元から自分の体にまとわりついてくる。
それと同時に、体の内側から力があふれ出る感触がする。なるほど、これが祝福か、などと思っていると。
突然、どこかからやってきた何かに首をつかまれた。もしかしてお父様が助けに来たのか、と思ったけれど、そんなことはない。
そいつは無理やり口を開けさせて、私に薬を飲まさせようとする。
いきなりのことだったので、身体強化を発動させるという思考はなく、小娘程度の力の抵抗しか出来ずに薬を飲んでしまった。
強烈な眠気が体を襲う。
どうにかして逃げなければ、と反射的に思ったけれど、そのころには体がほとんど動かない。
身体強化で補助して動こうとしても、指先一本も動く感覚すら無く、最後は豚がこちらを見てにやにやと笑っていた。