テラーノベル
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#独占欲
#ダークファンタジー
「お前さ、あの日実家帰ったって言ってたよね?」
視線も合わさずに
スマホを眺めたまま
純也は続けた
「お前の母親、来てないって言ってたぞ」
そうだった
家を飛び出し
リュカ宅へ外泊したあの日
自宅へ戻ってから純也に
実家へ帰っていたと弁明していた
虚を衝かれ
嘘の付けない私は
あからさまに動揺してしまった
血の気が引き
冷や汗が滲み
顔の表情筋が引きつり
口も体も硬直する
咄嗟に思考を巡らし
またしても
さもありげなその場限りの嘘をついてしまった
「ど、同僚の所にお世話になってたんだ、本当は」
「心配させない様にああは言ったけど……」
視線も合わさずに
スマホを眺めたまま
純也が答える
「ふ~ん……そうなんだ」
あからさまに疑っている様な反応
男の勘というのもあるのだろうか
しかし
純也はそれ以上は突っ込まなかった
ただ単に
私とこれ以上会話を続けるのが
嫌だっただけなのかもしれない
純也の目は
スマホ画面を凝視したまま
私の
動揺した顔は見られていない
奇しくも
この場は助かったものの
嫌疑を掛けられた格好となってしまった
今まで
嘘などついた事のなかった私は
またしても
嘘を重ねてしまった
せっかく定時退社し
早めの帰宅をしたのにも拘らず
結局はいつもと変わらぬ時間になってしまった
純也も
いつもの定位置
ソファにもたれ掛かり
いつも通り相変わらず
私達には会話も無い
買って来た具材で料理をする
結局は
いつもの風景
いつもの現実
いつも通り相変わらず
ついてしまった嘘に罪悪感を抱きつつ
突っ込まれやしないか
嘘がバレやしないか
怯えながら手を動かす
純也の挙動が気が気でならない
「夕飯……もう食べる?」
「まだいいや。食べたくなったら食べるよ」
「……」
ある意味
いつも通りの
相変わらずの
予想通りの返答
私は
作ったばかりの料理を
作り置き仕様に整えると
ようやくリビングを離れ
浴室へと逃げ込んだ
***
ようやく極度の緊張状態から解き放たれ
熱いシャワーで疲れを癒す
化粧を洗い落とし
入浴後の
化粧水の香りに包まれると
どっと疲れが押し寄せる
あまりにイレギュラーで
緊張の絶えない一日だったが
ともあれ何とか乗り切る事が出来た
早く帰宅したとて
ソファにもたれ掛かる時間と
スマホを触る時間が増しただけの純也
純也といる時間とは
そういうものなのだろう
それが私たちの
現実なのだろう
***
翌朝
社内は騒然となっていた
表向きにはいつものオフィス
表面上は平然を保っていたものの
至る所で噂が飛び交った
「水川さん、聞きましたか?!」
——購買部で不正が発覚した
以前より嫌疑が掛けられていた
購買部でのコンプライアンス違反
実際に抵触した案件が挙がったらしい
そして
時を置かずして
その翌日には
事の経緯が表面化した
法務部の神崎さんから
具体的な通達が成された
全社員に向けて一斉メールが飛ぶ
コンプライアンスに抵触する事案が発覚した旨
具体的な氏名と
具体的な事案こそ伏せられていたものの
違反に抵触する事案があった事と
コンプライアンスの更なる徹底を呼び掛けるメールだった
コンプライアンスの研修も再度見直され
より徹底されるらしい
「水川さん、メール見ましたか?!」
伊藤さんは情報が早い
まるで情報屋の様に
噂の経緯を逐一報告くれる
伊藤さん自身が元居た部署
購買部の件という事もあるのだろう
仲の良かった同僚から
色々と伝え聞いている様だった
「不正が発覚した渦中の件ですが……」
「——鈴木さんの受け持ってた案件らしいんですよね」
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