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唇を離した凪が千紘の顔を覗くと、口をあんぐり開けて鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「凪……キスした」
「うん。した」
「もう1回したい」
「ダメ。もうしない」
「何で!? 俺すごくすごく我慢してたのに、凪からされたらもう我慢できない」
千紘は眉を下げて半べそをかきながら懇願する。軽く唇を重ねただけなのに、どうやら千紘のスイッチを押してしまったようだ。
「お前、もう1回したら止まんなくなるだろ」
「もう全然止まんないんだけど。なんとか今までの罪悪感だけで踏みとどまってる」
「何もしないって言ったから来たんだけど?」
「何もしないつもりだったのに、凪がキスしたからナニかしたくなったんだけど!?」
千紘は目を爛々とさせて、ずいっと顔を寄せた。甘えモードだったはずが、オスを剥き出しにして凪にも聞こえるほどの音を立てて息を飲んだ。
「いや……そんなガツガツされても……」
イチャイチャがどうのとか言うから、もう少し甘やかしてやろうかなくらいに考えてたのに、思ってたのと違う……。と凪も顔をひきつらせた。
「だって、凪からキスしてくれたってことは、キスはしてもいいってことでしょ?」
「いや、だから。今日はあれで終わり……」
「じゃあ明日は? 明日はキス2回できるの? 3回? いつなら俺からしてもいいの?」
グイグイと迫る千紘に、凪は思わず目を逸らした。
「……そういうんじゃなくて」
凪が言っている内に、千紘が体を起こして凪を組み敷いた。凪の手首をマットレスに押し当てて、顔を近付けた。
「凪……優しくするからさ。キスだけでもいいからもう1回させて」
「キスだけってやつの行動じゃないんだよ」
「本当にキスだけで我慢するから」
そう言いながらも、凪の太腿には千紘の硬くなったモノがしっかりとあたっていた。凪は呆れながらはあっと息をついた。
凪が求めていたのは、もっとじゃれ合うような甘く軽いものでこんなにも情熱的で激しいものではなかったのだ。
「……俺、そんなに雑に扱われたくないんだけど」
凪はそうポロッと呟いた。罪悪感を抱いている千紘なら、もっと優しく丁寧に扱ってくれるものだと思っていたのだ。
嬉しくてはしゃぎたい気持ちもわかるが、何となく凪は悲しい気持ちになった。
千紘は、凪の『雑な扱い』という言葉に耳をピクリと立たせてすっと息を止めた。
「ざ、雑に扱ったつもりはなかったんだけど……」
「お前、変わってないだろ。最初の時もこうやって無理やり押し倒して自分の欲押し付けて」
凪が指摘すれば、全くもってその通りだと千紘は反論できなくなってしまった。ぱっと凪の手首から手を離し、凪の上に跨ったまま千紘は自分の指同士を合わせてモジモジと居心地悪そうに目を伏せた。
「……ごめん。俺、嬉しくなっちゃって……」
「お前は俺とキスしてセックスできたらいいの?」
「違っ……そりゃ、ちゃんと気持ちも欲しいけど……凪は俺のこと好きじゃないし……。でも、気持ちがなくても触れられるのが嫌じゃないなら触れられるだけでもいいっていうか……」
「そうやって後回しにするから気持ちも手に入らないんだろ? お前は俺の気持ちを全然考えてない」
下から千紘を睨みつければ、千紘はう……と観念したように凪の上から体を退けてその場に正座した。
「凪は……どうしたいの? 俺、わかんないよ。俺は凪のこと好きだから、凪からキスされたら舞い上がっちゃう。嬉しいし、ちょっとでも俺のこと好きかもって勘違いしちゃう」
千紘も千紘で感情がぐちゃぐちゃになって追いついていかないのだ。凪に翻弄されて、傷付いたり、嬉しくなったり起伏が激し過ぎて胸が苦しくなった。
ようやく受け入れてもらえたと思ったら突き放されて、どこまで触れていいのか、凪から触れる以外は触れちゃいけないのか線引きもはっきりとわからない。
行動してみないといい事とダメな事の区別がつかないのだ。お互いに好き合っていたら、相手からの好意は嬉しく感じるはずなのに、そうでないから凪の気持ちを汲み取るのはとても難しいことだった。