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言わずがな春さん
33
#かわいい
脳てゃ
29
午前7時30分。
校門を抜け、二年三組の教室へ向かう。
黒瀬玲は、今日も一人だった。
「……眠い」
小さく呟き、自分の席に座る。
窓際の席。
朝の教室は、友達同士で昨日のテレビやゲームの話をしている生徒たちで賑わっている。
玲は、その輪に入ることなく、机に頬杖をついた。
――別に、一人が嫌なわけじゃない。
ただ、人と話すのが面倒なだけだ。
スマホを取り出す。
画面に表示されているのは、とあるVTuberのチャンネル。
『星乃セラ』
今や全国的に知られている超人気VTuber。
歌、ゲーム、雑談。
何をやっても人気が出る、まさにトップVTuberだった。
玲も、彼女のファンの一人だ。
ただし――。
「……昨日の配信、よかったな」
玲には、誰にも言っていない理由があった。
数か月前。
何をやってもうまくいかず、何もかも嫌になっていた夜。
偶然見つけた星乃セラの配信。
『今日も一日、お疲れさま!』
『頑張ったことがあるなら、それだけで偉いんだよ』
その言葉を聞いた瞬間。
玲は、初めて涙を流した。
たった一人の部屋で。
画面の向こうにいる、名前も顔も知らない少女の言葉に救われた。
それ以来――玲は彼女の配信を見るようになった。
「……ありがとな」
誰にも聞こえない声で呟く。
その瞬間。
「おはようございまーす!」
教室の前の扉が開いた。
担任の教師と、その後ろから一人の少女が入ってくる。
長く綺麗な髪。
整った顔立ち。
そして、誰が見ても分かるほどの可愛らしい笑顔。
教室が一瞬で静かになった。
「今日は転校生を紹介する」
教師が黒板に名前を書く。
――天城星羅。
「天城星羅です。今日からよろしくお願いします!」
少女が頭を下げる。
「可愛……」
「芸能人みたい」
「どこから来たんだろ」
教室のあちこちから声が聞こえる。
そんな中。
星羅は教室を見渡した。
そして――。
玲と目が合った。
「……」
「……」
一秒。
二秒。
星羅はニコッと笑った。
玲は小さく会釈を返す。
それだけだった。
「天城さんの席は……黒瀬の隣が空いてるな」
「はい!」
星羅がこちらへ歩いてくる。
コツ、コツ、と足音が近づく。
そして玲の隣に座った。
「よろしくね、黒瀬くん」
「……よろしく」
「ふふっ。黒瀬くんって、静かな人なんだね」
「よく言われる」
「そっか」
星羅は楽しそうに笑う。
その笑顔に、玲は少しだけ戸惑った。
――距離が近い。
初対面なのに、妙に自然だった。
「黒瀬くんって、VTuberとか見る?」
「……まあ」
「へぇ~。誰見るの?」
「星乃セラ」
「……!」
ほんの一瞬。
星羅の表情が固まった。
だが玲は気づかない。
「セラちゃん好きなんだ?」
「ああ」
「どうして?」
「……救われたから」
「……え?」
星羅の声が少し震えた。
玲は窓の外を見る。
「昔、色々あってさ」
「……うん」
「そのとき、セラの配信を見た」
「……」
「何気ない言葉だったけど……あの言葉がなかったら、たぶん今の俺はいない」
星羅は黙って玲を見つめる。
その瞳には――。
嬉しさ。
驚き。
そして。
ほんの少しの狂気。
「……そっか」
星羅は笑った。
「よかった」
「何が?」
「ううん。なんでもない」
そして、玲に聞こえないほど小さな声で呟いた。
「……やっと見つけた」
「え?」
「なんでもないよ♪」
星羅はいつもの笑顔に戻った。
昼休み。
玲が一人で弁当を食べていると、星羅が隣に座った。
「黒瀬くん、一緒に食べてもいい?」
「別に」
「やった♪」
嬉しそうに弁当箱を開ける星羅。
「ねえ、黒瀬くん」
「ん?」
「セラちゃんのこと……どれくらい好き?」
「……ファンとして?」
「うん」
玲は少し考える。
「かなり好きだと思う」
「……そっか」
「?」
「じゃあ、私も好きになろうかな」
「何を?」
「星乃セラ」
「……そうすれば?」
「うん♪」
星羅は笑った。
そしてスマホを机の下で操作する。
玲には見えない画面。
そこには――。
『今日の学校、最高すぎる』
『ずっと会いたかった人に会えた』
『しかも隣の席』
そして最後に。
『絶対に逃がさない♡』
星羅はその投稿を――。
**誰にも見えない裏アカウントに保存した。**
その日の放課後。
玲が帰宅すると、いつものようにスマホを開く。
通知が一件。
星乃セラの配信告知だった。
『今夜22時から雑談配信!』
「……見るか」
22時。
配信が始まる。
『みんなー! こんばんはー! 星乃セラだよー!』
いつもの明るい声。
玲はイヤホンをつける。
『今日はね、ちょっと特別な話をしたいと思います』
コメント欄が一気に流れる。
『実は今日――』
セラは少しだけ頬を赤くする。
『大切な人に、会えました』
「……?」
玲の手が止まる。
『ずっと探してた人』
コメントがさらに加速する。
『誰!?』
『恋愛!?』
『彼氏!?』
『結婚!?』
セラは笑う。
『ふふっ。秘密です♪』
そして――。
カメラの向こう側で、誰にも見えないように微笑んだ。
『でもね』
『その人は、私が絶対に幸せにする』
玲は知らない。
その配信をしている少女が。
今日、自分の隣に座っていた少女だということを。
そして――。
彼女が画面越しに、玲のことを見つめていることも。
『……やっと会えたね』
星羅はマイクに乗らない声で囁いた。
その手には。
今日、玲が教室で何気なく落とした――一枚のプリント。
そしてその裏には。
何度も書かれた、彼の名前。
**『黒瀬玲』**
その文字を指でなぞりながら。
星羅は幸せそうに笑った。
「……大好き」
まだ二人の恋は――。
始まったばかりだった。
コメント
3件
わあああ!第1話から最高すぎる…!!😭💕 VTuber「星乃セラ」と転校生「天城星羅」が同一人物ってやつか!しかも玲がセラちゃんに救われたって気づいてないまま隣の席になってるの、運命すぎて胸熱すぎる…!🔥 「やっと見つけた」「絶対に逃がさない♡」の裏アカウントのやつ、ちょっと怖いけどきゅんとしてしまった…(笑)これからどうなるの!?続きが気になりすぎて夜しか寝れないよ!はる先生、次の話も全力で待ってます!!🌸✨