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#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「私が父の妃嬪に手を出すほど、女に困っているように見えるか?」
「え? ……いえ、それは……」
煜峰は宦官になった後でも、その外見で宮女達を虜にしている。宮刑に処される前を麗霞は知らないが、きっと今以上にキャーキャー言われていたに違いない。
「見えません」
「だろう? わざわざ危険を犯してまで後宮の女性に手を出すほど馬鹿ではないし、困ってもいない」
「そういうスリルがお好きな方も……」
「だから! お前の頭と一緒にするな!!」
ペチンっ、とおでこを叩かれた。ひどい。
「嵌められたんだよ、あれは」
「嵌められたって……」
「私は当時17歳だったが、酒はそんなに弱くなかった。皇帝の還暦を祝う席ということもあって当然飲む量は控えていたし、いつもなら到底、酔う量ではなかった。だがしかし……」
「しかし?」
「酒に混ぜ物でもしてあったのだろう。急激に酔いが回ってきてまずいと思った私は、一度休んだ方がいいと席を外したんだ。足元がふらつき視界がクラクラとする中、妃嬪の一人が私の様子に気が付いて『休みましょう』と声を掛けてくれた。後から思えば、その妃嬪は誰かの指示で動いていたのだろう。彼女は私を近くの宮まで誘導すると、水を一杯渡してきた。その後は、お前のその色欲まみれの頭で妄想すれば分かるだろう?」
考えるまでもない。
お決まりのパターンだ。
「その水を飲んだら意識を失って、目覚めたら裸の妃嬪が横にいた。とかでしょうか」
「全くもってその通り」
当時を思い出したのか、煜峰は麗霞の描いた絵を握り潰してしまっている。
ああ……私のスケッチが……。
「いつの間にか自分の服は脱がされているし、向こうも脱いでいるしで、訳が分からない」
「そこへタイミング良く、目撃者が部屋に入って来るのですね?」
「よく分かったな」
「ええ、お決まりですから」
それで宮刑に処されるとか、あんまり過ぎる。
「誰に陥れられたのかは分からないのですか?」
「さぁな。犯人を特定したところでどうにかなる相手とは思えん」
「??」
皇子の煜峰でも、どうにもならない相手とは一体?
首を傾げる麗霞に、煜峰は首を振った。
「どうにもならない相手はさて置き、その人を唆した奴はもしかしたら、皇太子にふさわしいかを占うよう進言した人物と関係がありそうではある」
「そこまで分かってらっしゃるのですか」
「お前がこんな絵を描いている間にな!」
凄い! と声を上げると、煜峰が既にクシャクシャになってしまった絵を、嫌味ったらしく麗霞の顔に突き付けてきた。
私が手を貸さなくたって、全然大丈夫そうじゃない。でもとりあえず謝っておく。
「お役に立てず、すみません……」
「はぁ……。私の見立てでは、お前はもっと使える奴かと思ったんだが。珍しく勘が外れた」
期待はずれで悪かったですね。
「そう仰る割に、込み入った話を色々と私に話してくれていますが?」
ただの駒として使うだけなら、こんなに内部事情を話さなくても良いのでは? 秘密を漏らす可能性だってあるわけだし。
これには煜峰も興味深げに、「確かに」と唸った。
「おかしな奴だ」
「誰がです?」
「お前だ、お前」
ほっぺたをむにーっとつまみ上げられてしまった。乙女の顔になんてこと……!
「私ですらほんの少し前まで、お前が常人だと思っていたくらいだ。秘密を抱えるのは得意だろう? 役立たずならせめて、愚痴くらい聞いてストレスを共有してくれ」
まるで私が普通では無いみたいな言い方したよね? こんな真面目な人間はなかなかいないのに。
「それは信頼してくれているからだと思って良いのでしょうか」
「調子に乗るな。単純に、大きな弱みを握っているからというだけだ」
「……ですよね」
残念。
3年間の官女としての働きぶりを見て信頼してくれたかと思ったのに。さすがにそれは思い上がりすぎか。
「この程度のことでしたらお安いものです。おっしゃる通り、口は固いので」
「何だか割に合わんな。ならこれも追加しようか」
「何でしょうか」
突然煜峰に手首を掴まれ後ろに押された。よろめいて体勢を崩すと、背がトンっと塀にぶつかる。
「一体何を……」
かっ、顔がっ……! 近いぃぃ……!!
あまりの近さに、煜峰が纏う優雅なお香の香りまでしてくる。
これは一体、どういう状況?!
頭が大パニックの麗霞と比べて、煜峰は明らかに楽しんでいる。形の良い唇は弓なりに上がり、挑発するようにその目は麗霞を瞳を捉えてくる。
「体を貸すくらいは訳ないだろう? 鬱憤ばらしに付き合ってもらおうか」
煜峰の甘い声が耳朶に響く。
体をって、それってつまり……。
「どうだ。お前の言うロマンスあふれる状況ではないか? この先はどうしてほしい?」
煜峰の長い指先が、唇に触れる。
急激に血液が顔の方へと登ってきた。
口を半開きにして真っ赤になる麗霞を見て、煜峰はキョトンとしている。
「麗霞……お前もしかして……」
タイミング良く、カーン、カーンと時を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
鐘の音……? 鐘の音……。
「あぁーーっ! 姜弘様のお茶出し!!」
鐘の音が鳴るのは1日4回。3回目の鐘は申の刻を告げる合図。
「煜峰殿下、失礼いたします!」
「あ……ああ」
筆記具を手早くまとめた麗霞は考え込む煜峰を置いて、お茶出しをしに画院へと走り去っていった。
コメント
1件
第7話、めっちゃ面白かった!煜峰の過去がまさかの嵌められパターンで、しかも「お決まりですから」って麗霞が冷静に返すのがプロすぎて笑ったw 最後の壁ドンからの「体を貸せ」発言で一気にドキドキしたのに、姜弘様のお茶出しで全力ダッシュして終わるの、麗霞らしくてたまらん。また二人の距離が縮まりそうで続きが気になるわ!🔥