⒈苦手な彼女、大好きな君。
〈前編〉
「はなばたけ! 起きて! あさだよ!」
今日もスマホから流れる、ゆきいぬの可愛い音声。
「んっ……ねむ」
眠い目をこすってスマホを開く。
やっぱり、夜の間に通知が溜まっていた。
「あ、おは投稿おは投稿」
暗い部屋でスマホの小説サイトに投稿をする。
そして、一度スマホを閉じて部屋のカーテンを開く。
「ふぁ……、まぶしっ」
窓から覗く日光。朝が来たんだな、って実感する。
『…ブーッ』
スマホから通知音。画面を見て、思わず「わっ」とうれしい悲鳴。
「うみ返信はやっ! さすがだなぁ」
いちばん仲良しのネッ友・なみかぜうみからのコメントだった。
思わず返信する。
『うみおはよ! さすが返信はやいね!』
すると、すぐに返信。
『はなちこそ! 今日も学校行くんだよね?』
そんな感じで、いつも通り雑談。
数十分後。
部屋のデジタル時計のアラームがけたたましく鳴り響く。
「わっ、もう準備しなきゃ!」
すぐに『ごめん!そろそろ準備しないと!じゃあまた夕方〜!』とコメント。
そして、いくつも足跡の汚れがついたセーラー服を、嫌々着た。
★
家を出て、公園に行く。
すると、いつも通りの薫の姿があった。
「薫! おはよー!」
声をかけて大きく手を振ると、薫は手を振りかえしてくれた。
「千莉おはよ! 今日も学校行くの?」
私は大きくうなずく。
「うん!」
「鋼メンタル……」
「? なんか言った?」
「ううん、なんでも!」
いつも薫とは公園で待ち合わせして、学校の近くまで一緒に登校してる唯一の友達!
え、友達がなんで1人しかいないのかって?
あー……、学校行けばわかる。
★
学校の近くの曲がり道。
「薫、今日も一緒に帰ろ!」
学校がギリギリ見えてないところで、帰りの待ち合わせ。
「何時に待ち合わせ?」
「あ、今日もあいつらに呼び出されると思うから……HR終わった30分後くらい、かな?」
「そっかー。」
「じゃ、先行ってて!」
「うん!ばいばーい!」
薫を学校に送り出して、私はしばらく待機。
薫にはもう辛い思いをしてほしくないから……。
5分後。
「よし、行くか。」
ひと通りのコメント返信を済ませて、学校へ。
日に日に重くなる脚を無理やり引きずりながら校門を通り抜けた。
〈後編〉
学校の下駄箱。
上履きを出すと、画鋲がボロボロと溢れ出てきた。
「わっ、あぶな!」
私はカバンから小さめの巾着を取り出して、上履きの中の画鋲を全部入れた。
「はぁ、今日もか……」
空っぽになった上履きをはいて階段を登り、教室に向かった。
教室の前。
登校のピークより少し遅い時間帯だからか、廊下は手ぶらで友達と談笑しながら歩いて行く生徒が多かった。
教室に入る前に、引き戸の上を確認する。
空いてるスペースが不自然だと思ったら…………やっぱり。
「おはよー!」
そこそこ高い身長を背伸びしてもっと高くして、手を伸ばして真っ白な黒板消しを取る。
「危な! これやったの誰〜?」
何も知らないふりをして、教室にそう呼びかける。
案の定、返答はなし。しかも、みんな私から視線をそらしてる。
気にしない気にしない。自分にそう言い聞かせて、席に向かった。
机に油性ペンで書かれた悪口の上に、他人の課題が山積みにされていた。
「それ、全部やっといて。」
クラスのカースト一位である大岩奏が、威圧的な口調でそう告げてきた。
断っても殴られるので、とりあえず
「はーい」
と軽く返しておいた。
えーと、数学から!
1、2、3、4、5、……うん、やれば殴られないし雑でいっか!
国語もやろ!
あ、い、う、え、お、か、……うん、記述だけど1文字でいいや!
他人の課題をしている私を見て、奏とその周りは意地悪な笑みを浮かべていた。
私はその様子を見て爆笑しそうになるのを必死に堪えた。
「よし、やっと課題終わった!」
わざとらしくそう大声で言うと、奏たちが課題を強奪してきた。
クラスメイトが誰も見ていない隙を見計らって、机の下敷きを剥がす。
すぐにカバンに押し込んで、新しい透明な下敷きを机に貼り付けた。
★
HRが終わって、放課後。
奏に肩を叩かれて、耳元で命令。
「今すぐ屋上こい」
行かなかった時が怖いので、奏たちにバレないようにボイスレコーダーをポケットに入れて向かった。
立ち入り禁止のはずの屋上。
でも、かかっていたはずの南京錠は奏たちによって壊されていた。
「どーも」
まるで今からリンチされるとは思えないほど軽いノリで入る。
案の定、奏たちにキレられた。
「あ”? 今から何されるかわかってんの?」
「え〜、分かってなかったらここ来る?」
「でも2ヶ月前は来た」
「あ、そうだ(笑)」
「2ヶ月前の記憶もないの? ほんと笑える。」
パンッ、って乾いた音がした。口の中に、鉄の味が広がった。
「あーあ、切れちゃった……。」
小声で、でもボイスレコーダーに声が入る大きさで、そう呟いた。
「死ね」
避けたら何されるか怖いから、従順でいなければ。
防衛本能を発動させないように気をつけて、膝蹴りをくらう。
そこまで強くなかったけど、証拠集めのため。ぶっ倒れたふり。
「わ、痛っ! 何すんの!」
実際は全く痛くない。いつもより大げさにリアクションする。
「……何か隠してる?」
いつも無言だからか、奏に勘づかれたらしい。
「んー? さて、なんでしょう!」
挑発するように、満面の笑みで言う。
すると、奏の取り巻きのひとりがポケットを勝手に漁り、ボイスレコーダーを取り出した。
「あーあ、バレちゃったか〜。」
奏は舌打ちをする。そして、今まで地道に集めてきた証拠であるボイスレコーダーを踏みつけた。
「こんなもん持ってても無意味だっつーの。さっさとくたばれば?」
その後も暴行を繰り返された。
30分後。
「バイトあるから今日はここまでにしとく。できれば明日までに死んどいてね!」
そう言い残して、奏たちが屋上から立ち去った。
「……はぁ。」
しばらく動けそうにないので、小説投稿サイトの通知を確認。
「うみは……まだ帰ってないか。朝に『バイトある』って言ってたし。」
そして、薫に電話。
「もしもし、薫〜?」
『あ、千莉! 大丈夫だった?』
「うん、全然平気。でも、ボイスレコーダー壊されちゃった。ごめん!」
『あ、そうなんだ! ……こっちこそごめんね、巻き込んじゃって。』
「でも今は被害ないんでしょ?」
『そうだけど、千莉が……』
「私はいいの! 最悪、ネットのサブ垢で晒す!」
『さすが“はなばたけ”。作家として高校推薦入学しただけあるね〜!』
「ふふ、ありがと! 今からそっち行くね!」
『おっけー、待ってる!』
……実は私がいじめられてるのは、薫をかばったから。
薫が今の私以上に酷いいじめを受けてて、止めたら現状これ。
でも、学級委員としての責務を果たせたかな? くらいに思ってる。
★
「薫〜! 遅くなってごめん!」
「全然平気! そもそも私のせいだから!」
「いや、そんなことないよ〜!」
なんて雑談をして、一緒に帰る。
解散場所の公園の近く。
不意に薫が言った。
「……あ。私さ、なんで奏がいじめをしてるのか知ってるんだよね。」
「……っ、え?」
聞きたかったが、5時のチャイムが聞こえた。
薫の門限だ。
「あ、ごめん! また明日でいい?」
薫は、顔の前で手を合わせて、申し訳なさそうに言った。
「全然大丈夫! また明日〜!」
そう言って、お互いに手を振り合って公園を後にした。
「ただいま〜! って、そっか。そうだった。」
今の時期、我が家はただいまの返答が返ってこない。
なぜなら……
「わぁぁぁぁぁ! やばいこれあと9時間⁉︎案件溜めとくんじゃなかった……。」
イラストレーター兼マンガ家の【しろすみ】であるお母さんはいろんなものの締め切りを月末にする。
超売れっ子なのにいろんな案件を月末まで放置するので、月最後の1週間はずっとこんな感じだ。
お父さんもそう。
【しろすみ】のマネージャー兼編集者として出版社で働いているので、年中忙しい。
そして、副業で【しろすみ】のマンガのシナリオを書いている。
特にこの時期。
月末の締め切り祭りで連続徹夜、アドレナリンが出まくっている状態の【しろすみ】にそのまま月刊マンガを書かせるために、今の時期にシナリオを1話分書き切らなければいけないのでとてつもなく忙しい。
私も今は例外ではない。……と言いたいところ。
だけど私は両親と違って計画性があるので、今月末締め切り分の原稿は書き終わって提出済み。
暇なので、ゆきほんでバイトが終わったばかりのうみと雑談をすることにした。
『うみ〜! 親が忙しすぎるのに私暇すぎる……』
すぐに返信が返ってきた。
『そっか! 私は親が緒都ばっかひいきするから帰りたくない……』
『緒都って妹さんだっけ?』
『うん。10歳差。私の時はあんなに愛してくれなかったのに……』
『そっかぁ。』
その後、1時間ほど雑談をした後寝る準備をして、寝た。
コメント
3件
てか待って。千莉の親のキャラ設定が正気じゃないwwww
※これは感動系ではありません。コメディになる可能性が非常に高いです。
ちぃってやっぱり感動系うまいっ! あと旅行も楽しんで!!!!!!!