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さらには、座席の背もたれと真衣香の腰の間に八木の腕が差し込まれるようにして固定されていて。
その先でウエストらへんをギュッと掴まれてしまっている。
絵的にどうなっているのか想像が追いつかない真衣香だが、とりあえず。もたれ掛かると八木の腕に体重を掛ける形になってしまう。
それは阻止せねば……!と、ふるふる力む真衣香を知ってか知らずが。
追い討ちをかけるように、耳元で「俺の好きにさせててどーすんだよ。誘った女は喜ばせたい奴だぞ、俺は」などと囁かれたのだ。
(一応私が!借りを返すという名目では……!?)
なんて切り返す余裕もなく。
耳元で感じる吐息に、ぞくりと背中が震えた。
ドクドクと心臓が高鳴るけれど、その時の頭の中で響いているのは『お前ほんと耳弱いね』と。いつだったか意地悪に笑った坪井の声だ。
思い出すと、相変わらず胸が痛んでぎゅうっと締め付けられる。
「おい」
「え?」
「今、何考えてた?」
気恥ずかしさから逃げるように正面を見ていた真衣香だが、ひたすらに甘かった八木の声に、何やら違う音が混ざった気がして隣を見た。
目の前には、もちろん八木の顔があって、瞳が薄暗いライトで鈍色に照らされ不穏に光る。
「な、何も……」
答えても八木の視線は動かずに、真衣香をまるで疑うような目つきで見つめ続けた。
やがて「まぁいーわ、今は」と、諦めたように軽いため息を吐いて。
先ほどまでの真衣香と同じように前を見てしまって、そのまま視線を動かそうとはしない。
「とりあえず出るか。いつまでも会社いたってしょうがねぇだろ。お前の好きそうなもん食えたらいい?」
「好きそうなもの?」
「何だっけか、トマトソース以外のパスタ? あとオムライス……ああ、でも中はバターライスじゃないと嫌なんだっけな。とりあえずトマトもトマト味も何ならケチャップも嫌だよなお前は」
いつの間にこんなにバレていたのだろう。驚きのあまり口を間抜けにもポカンと開けて八木を見つめていると「シートベルト」と指を差された。