テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……水樹、もうやめな」
その声は、優しかった。
だからこそ、遅すぎた。
地下の通路。
壁に滲んだ文字が、目を逸らした瞬間に配置を変える。
佐藤水樹は、いつもの癖でポケットに手を伸ばした。
煙草。
ライター。
指が、止まる。
「未成年だろ」
「身体に悪いしさ」
「それ、逃げてるだけじゃないのか?」
仲間の言葉は、正しい。
正しすぎた。
水樹は、困ったように笑った。
「……あー…そう、すよね」
火をつけない。
煙を吸わない。
境界線が、引けない。
代わりに、音が入ってくる。
壁の裏で、爪が擦れる音。
自分の呼吸と同じリズムで、何かが数を数えている。
十三。
十四。
十五。
「……おい、聞こえるか?」
誰も答えない。
聞こえていないのだ。
煙を吸っていないのは、水樹だけだから。
視界の端で、人影が揺れる。
地下室でトンカチを振るったあれが
まだ形を保ったまま、立っている。
『ほら!!』
『こっちだよ、▓▓〜!!』
「……あ」
引き金を引きかけて、止まる。
ここで撃てば、仲間も巻き込む。
分かっている。
分かっているのに、距離感が壊れている。
煙が、無い。
仲間が叫ぶ。
「水樹!!」
振り向いた瞬間
世界があの夜と重なった。
骨の感触。
潰れる音。
次に気づいた時
床に血が落ちていた。
怪異ではない。
仲間の、血だった。
「……あー……はは」
水樹は、ようやくポケットから煙草を出した。
でも、もう誰も止めなかった。
止める声を、出せなかった。
火をつける。
肺に煙が入る。
数が、合う。
正気が戻る。
現実が、確定する。
目の前にいるのは
#ただいろいろかくひと
にぼし
1,080
X_X @ふ ぉ ろ ば
286
ぱらぱらちゃーはん
4,164
倒れた仲間と
自分の手についた血。
「……言ったっすよね」
声が、震えた。
初めて。
「これ、逃げじゃないんすよ……」
優しいお兄ちゃんは
煙を吐きながら、理解してしまった。
それを奪うってことは
引き金を、代わりに引かせるってことだ。
それ以来。
誰も、水樹に「吸うな」とは言わなくなった。
それが正解だったのかは
今も分からない。
ただ一つ確かなのは
煙草を止めさせる方が
よほど多くを壊したという事実だけだった。