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砂に埋もれていたシーニャを引っ張り上げた。サーチをする前に発見出来て良かったが、ミルシェはやや苛立っている。
「シーニャの砂は簡単に取って差し上げるのですわね……? ねえ、アックさま?」
ミルシェの谷間の砂も取ってあげなければならないが、シーニャについた砂が半端ない。顔の髭や耳、装束の隙間に至るまで砂を取ってあげた。
「ウニャゥゥ……」
「よしよし、もうすぐだぞ」
さらにミルシェを不機嫌にさせているのは、久しぶりの再会を果たしたアクセリナの存在だ。彼女に罪は無いが、タイミングが悪すぎた。
「ミルシェさんですね、私はレイウルムの――」
「一度聞けば分かりますわ! 邪魔をしに現れたのかしら?」
「あ、あれ、私が何か……えっと、怒ってます?」
それにしても、まるでここに来ることが分かっていたかのようなタイミングでアクセリナが現れた。属性テレポートの行き先を知っていたかのようにだ。
「ウニャ! 取れたのだ!! アック、アックのおかげなのだ!」
シーニャの全身についていた砂はこっそり”風”も使って、何とか取ることが出来た。ミルシェの方を何とかしないとだが、まずは彼女に話を聞くことにする。
「――ところで、アクセリナ。君はどうしてここへ?」
「あ、そうそう。レイウルムが大変なんですよ、アックさん!」
「大変ってのは? 地下都市に何か問題が?」
レイウルムは地下都市構造。そこは盗賊を|生業《なりわい》とした連中だけで生活をしていた。回復士であるアクセリナもそこで暮らしていたはずだが。
疑問に思っていると、アクセリナはチュニックの腰袋から何かを取り出した。
「アックさん。あなたがここに来たら渡すように頼まれたのでお渡ししますね!」
「……これは?」
「依頼書です。あの、ジオラスとデミリスからの依頼です」
「二人から? ――ってことは地下都市で何か……」
彼女一人だけで砂地にいるという時点で何か異変が起きたと考えるべきか。
急いだほうがいいみたいだ。
「アックさん、どうかレイウルムをお願いします。私は私をお守りして頂いた騎士さまをお待たせしていまして……」
「地下への入り口は閉ざされていないんだね?」
「いえ、その……砂とともに岩が。そこに騎士さまが――」
騎士と言われても、一体どこの騎士が彼女の味方になっているというのか。
「ウニャ? アック、いなくなったのだ」
「ん? 誰が?」
アクセリナと話していたらミルシェがいなくなっていた。こんな広大な砂地でうろうろされても困るというのに、一体どこに。
もしや谷間の胸のことでかなり怒らせすぎたか?
「アック、アック! 人間、人間が来るのだ!!」
「人間? 敵か!?」
シーニャはおれ以外の人間相手を敵と認識している。ここにいるアクセリナは出会ったことがあるからいいとしても、その傾向がいまだに根強い。
「あ、それならきっと! 私です、こっちですー!!」
おれとシーニャの警戒に焦りを見せるようにして、アクセリナが誰かに手を振りだす。全く、次から次へと誰が現れるのか。そう思っていると、ミルシェがゆっくりとこっちに向かって来た。
誰かと思えば、どうやらミルシェのことだったようだ。
「あら? 虎娘とアックさまは何を警戒して?」
「何だ、ミルシェか。人間っていうから、てっきり敵かと……」
「ウニャ、アック。コイツじゃないのだ! 他にもいるのだ!!」
「え? 他に?」
アクセリナもミルシェも誰かに向かって視線を送っている――ということは、シーニャが警戒しているのは視線の先にいる奴か。
そんなことを思っていると、場違いな鋼鉄鎧に身を包んだ騎士が現れる。
「アグエスタ以来だな、そうだろう? アック・イスティ!」
「確かあんたは、騎士……元騎士団長の、アルビン・ベッツだったか?」
「うむ。忘れていなかったようだな」
ほとんど忘れていたというか、気にしてもいなかったな。しかしこの騎士は勇者の兄にあたる存在。ベッツという名だけでもすぐに思い出せる。
「アックさん、この騎士さまとお知り合いなの?」
「おれよりもミルシェの方が……」
「アックさま。砂のことをお忘れなく」
「……は、ははは」
こんな所でこの騎士にも出会うとはミルシェの予感は何かの前兆だったのか?
「ウニャ? アック、どうするのだ。ウニャニャ?」