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謝らせてくれ、と三島に僕が切り出したのはその次の日だった。放課後の教室に僕は入った。

「昨日はすまなかった」

僕がそう言うと宿敵・三島ヒカルは、笑った。

「申し訳ないと思っているなら、それ相応の罰を与え、償わせてやらなくてはな。」

虐げられる覚悟はできていた。元に戻ることの覚悟は、できていた。

「碧波!」

呼び捨てにされるのは久しぶりだ。


身をしならせて見え見えなフォームの拳を避けることをしないのも、久しぶりだ。

ああ、もし風紀委員会一年副委員長が桃畑魅麗ではなかったなら、こんなことには。


誰か救ってくれよ……いや、助けなど求めてはならない。自らで消えにゆかねばならなかった者が、ここにいることの罰だ。成り上がることなど不可能だった。一度芽生えたこの黒い残虐さは永劫に消えないのだから。


せめて、殺してくれよ。








縛り付けられたまま、生きてきた。

劣等感を感じていた。

きっと自分はゴミ以下なんだって思ってきた。

誰にも名も知られないまま、この世に生まれ立つ前に、消えていたかった。

「ルカ。」

誰にも名など、呼ばれたくなかった。


「碧波ルカ、あんた、バカよ。みんな天才って言ってるけどただのバカよ!」

うるさいよ。

そんなこと、知ってるさ。

「ねえ、楽しい?ねえ、楽しいの?抵抗しないのがなんで楽しいの?」

「ねえ、楽しい?ねえ、楽しいの?抵抗しない人を虐げて殴りつけてなんか楽しいの?」


螺鈿、占星歌。


なぜここに?


あなたは、抵抗しないんじゃないんですか?あなたは、世の中に流されるままに生きる方が楽って言ってたじゃないですか。





「碧波ルカに手を出すなら、あたしが許さない。あたしには、あなたたちを怪我させることもできないし、あなたたちを止めることもできない。だけど、一生恨むから。人を呪えば穴二つ?上等よ。もし死んでもあたし、怨霊になって永遠にあなたの後ろで、あなたのこと睨んでるわ。永遠に、永遠にね。」


螺鈿は教室に入った。そのことが何を意味するかも知っているのに。


骨になるまで、虐げられてもおかしくないのに。

狂気じみた血走った目が彼らを睨んでいる。


螺鈿セイカに魔の手が伸ばされた。

うるさいとでも言ったのだろう。沈黙の中に魔の手の持ち主の唇の動く影が見えた。


そして、胸ぐらを掴むと、螺鈿を床に這いずらせて踏みつけた。暴力で済むのも今のうちだろう。華奢な脚が布越しに覗くのに彼らが魅了されているのを見た。セーラー服のボタンが弾ける音がして、目を逸らした。

螺鈿が小さな悲鳴を上げる。手脚が固定されているというのに、諦めず逆らった。だがそれも彼らを愉しませるばかりで、螺鈿への仕打ちはエスカレートしていった。彼女が少し、うるさかったのだろう。黙れ、と影が蠢いて、螺鈿は一切の生命活動を停止してしまったようにして一度倒れ込むも、またどうにか立ちあがろうとする。あざだらけになった彼女に、再び拳が振り下ろされそうになる。

「やめろ!」

僕が黒い影に逆らって螺鈿に手を伸ばすと、闇の中に影が蠢いた。

「おいお前。」

「償うんだろ?」

影は、そう言ったようだった。日のどっぷりと暮れた教室に、声が聞こえたようだった。

途端、人間のものとは思えない強い力で引っ張られて、螺鈿セイカに伸ばした手は虚しく空を舞った。

「ルカ、いいのよ。あたしは、寄り添うの。非力で何もできないから同じ苦しみを、せめて味わいたいのよ。」

「ほんとは知ってた。知ってたのよ。あんたが学校に来たくなかった理由。」

途切れ途切れの声が、心の臓越しに聞こえてきた気がした。

螺鈿、先輩。

冷え切った心の中に、久しぶりに温かい血液が流れ出してきた。あなたは、勇敢だ。

ああ、でもここまでか。


でも最後に、心が温かくなったまま消えれるなら、誰かが居てくれるなら、本望かもしれ……








「待たせましたねっ!」


魅麗……


「魅麗ちゃん!」


太陽の光が、雲越しに差し込んできて、僕の手の中でキラキラと音を立てる。


「いやー遅れましたね。実は今日風邪気味で学校休んでたんですけど、呼ばれてたのできました。じゃ、先生もいらっしゃいましたし、さっさと退学ゴホンゴホン処分してもらいましょ。」


これでは格好がつかないな、魅麗。

少し雰囲気が和やかになったかのように感じられた。


「おい、こんなのでは止まらないぞ」


どこからか刃物を取り出した三島が、誰からかまわず切りつけるという奇想天外な行動を始めた。仲間たちがまるでかまいたちが横を通り過ぎた後かのように、手指を傷つけられていく。


「まずい!魅麗!」


これ以上魅麗や螺鈿先輩を傷つけるわけにはいかない。包帯を巻いた顔の魅麗の影がちらついた。


「全員下がれ!ここは任せろ!」


魅麗や螺鈿先輩の前に立って、彼奴の刃物を取り上げようとしたが、手は空を舞い、刃物は容赦なく僕の顔面に振り下ろされた。


「碧波!何やってんの!」

「やめろ!三島!お前立派な犯罪者だぞ!」

「先輩、もうやめてっ!」


バリンと音がして、全てが砕け散った。

せめて、これだけは。

「螺鈿セイカ、お前が!お前が!」

赤い幕に世界が包まれた。

口の中で最期に発せなかった言葉を噛み締める。

そして結局わからなくなった。

螺鈿のことが好きなのか嫌いなのか。……それともどうでも良かったのか。

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