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「……か」

「……ルカ。」

気づけば僕は、鏡に囲まれた不思議な空間にいた。しかしどの鏡も僕の姿をうつしていない。

一つの鏡に誰かが麗しい虹の川に立っているのが映り込んでいる。

「誰だ」

まるで脅迫するような僕の声に鏡の中で誰かが微笑んだ。そうして、彼奴は僕を鏡の中に引き摺り込んだ。

鏡の中の美しい川の水が赤く濁り出した。

思わず刺激臭に咳き込んでしまう。




「意識が、お戻りですね?」

一瞬看護師の声かと思ったが、それが違うということを一瞬にして悟った。

日の暮れた教室にいたらしい……

「大丈夫でよかったです。」

魅麗が微笑んだ。互いの息がかかりそうなほどに彼女は目の前にいた。

癖だろうか、こんなときも彼女の目の中に、自分の姿を見た。

平然とした表情の彼女の目の中には、見ることのできないような光景が広がっていた。人の血を恐れることもせず、さあ、救急車がまもなく参りますなどと言って、彼女は床に正座した。上を見れば螺鈿占星歌が大量の包帯とガーゼを手に持っていた。腕に異様にごわごわした布の感触がある。養護教諭も帰った後の教室で懸命に看護してくれたらしい。近くに担任が座っていたが大して気にしなかった。

救急車がまだ来ていないということは、そこまであれから時間は経っていないのだろう。

体に激痛ははしるものの、そこまで意識は途切れていない。

「あんたを怪我させたやつらね、あんたが死んだって思ってまずいのなんのって言いながら一目散に逃げ出したわ。」

螺鈿は抑揚のない声でそう一遍に言うと、もう関わりたくないとでも言いたげにいつものように僕を拒絶した。言うまでもない、僕も彼女のことは拒絶している——返事もせずにぼんやり天井を眺めていた。

「死ぬんじゃないわよ」

本当はどうでもいいんだろ……意識は朦朧としている。




——お前が高校なんて行くから、うちの家系が厳しくなるんだ!

——目障りなんだよ早く消えろ

——ウザいんだよ

——死ね死ね死ね死ね

——あんたがあたしの後輩じゃなければ

どれだけよかったか

——マジで気色悪い

——全ては先輩のせいですよ……!




「ぁぁぁああああああああああっ!」

階段を無我夢中で駆け上がった。狂気の霧の奥にはもう何も見えない。螺旋階段を駆け上がっているうちに目が回ってくる。

血まみれの体を無理矢理に屋上まで運んだ。

激痛にもだえながら屋上への扉を開く。藍色の絵の具を垂らしたような空が広がっている。外は雨だった。泥と埃の臭いに包まれる。

血液と雨とが混ざり合って、芳醇な香りを立てる。心臓に冷たい雨がだんだんと押し寄せてきた。何度も踏まれてひどく痛むはらわたを抱えながら、高いフェンスを登る。あとは、重力に身を任せるだけ。魅麗と螺鈿が僕を追ってきた。螺鈿が僕の上着の裾を掴む。螺鈿の方へ上着が放物線に沿って飛んでいく。なにか、螺鈿が言った……その途端何もない宙へと投げ出される。

藍色の中に、たくさんの光が見えた。でもその光は決して僕に降り注ぐことはない。もう無駄に生きながらえたくなかった。



僕は、町外れの街灯も灯らぬ冷たい川の中に投げ出されていた。意識は朦朧としているどころでなく、永遠の眠りと生の中にうつらうつらとしているところだった。水が案外衝撃を吸収してくれたのであろうが、結果は同じだ。低体温症で死ぬまで待つだけである。

川流されていく中で、深い後悔の念が押し寄せてきた。雨と血液と川の水が混ざり合う。

魅麗、螺鈿……悪かった。

そう思えたのだからそれでいいと思った。


死にたいの……?

自らに自らが問うた。いや、そんなわけがない。まだ、まだだ!

コンクリートの土手に最後の力を振り絞って皮膚がボロボロに剥がれながら這い上がった。

大量の車の流れをうまいこと避けながら向こう側の路側帯へどうにか辿り着くと、病院の明かりが見えてくる。

ああ、まだ死にたくないんだ、誰がなんと言おうと!


まだ待っていてくれ。絶対、もう……!

本当の意味で強くなりたいんだ。

無我夢中で走った。息を切らしながら。

きっと……!

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