「若井さ。」
俺は、不意に名前を呼ばれて、驚いて元貴の方をみる。
元貴の瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
軽く髪はセットがしてあり、
レコーディングの日なのに
珍しくメガネをしていない元貴の
綺麗な瞳に射抜かれる。
「なに、涼ちゃんと、どういう関係……?」
その言葉が放たれた瞬間、車内の空気が凍りついた気がした。
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少し笑いながらではあるが、冗談のようにも聞こえないそのトーンに、
俺の心臓は一気に跳ね上がる。
「え?」
驚きと戸惑いが入り混じった声が自然と漏れる。
そんな俺をまっすぐ見つめる元貴の目。
スモークガラスの向こうは、灯りがにじんでいる。
淡く、ゆらいで、世界が遠くに感じる。
「何言ってんの…?」
なんとか言葉を返すが、
その問いに込められた怒りが
ひしひしと伝わってきて、
次の言葉が見つからない。
元貴は少しだけ顔を伏せ、
手元のスマホに視線を向ける。
そして無言のまま、
指先を静かに動かした。
表情は、なかった。
目も、口元も、何も。
ただ、端末のブルーライトが
その頬を青白く照らして、
まるで、呼吸まで止めてしまったみたいだった。
カチャ。
画面が閉じられる、ロック音。
その直後だった。
下を向いたままの元貴から静かに声が落ちる。
「……名前、呼んでた」
「……聞こえてたよ」
その声には、怒りと、元貴にしては珍しく、
どこか寂しさのようなものも、混じっている。
俺は声を出そうとするが、
その前に元貴が
畳み掛けた。
「…聞こえてたよ」
「家に行くとか。一緒に寝るとか」
「…なに?邪魔した感じ?」
「違……そんなつもりじゃ」
やっと口に出せたその言葉は、
喉の奥で引っかかって、かすれてしまった。
次の瞬間。
言葉を必死に探す俺の顎に
元貴の指先が触れた。
優しくも、強くもない。
ただ確実に、逃げられない力で、
顔を前に向けさせられる。
至近距離。
元貴の目が近い。
そのまま、顔が近づいてくる。
ゆっくりと。
音もなく。
口づけの直前、微かに吐息が触れた。
喉がひくっと鳴る。
「……若井。」
掠れた声が聞こえた瞬間、
心臓が跳ねた。
唇が重なる。
一度、確かめるように
ちゅ…
と軽く重ねて、離れてから、
次の瞬間には
一気に舌が深く押し込まれる。
「っ……ん、ん……っ」
声が漏れる。
舌先と舌先が軽く触れた瞬間、
胸の奥で熱が走って、
身体がびくっと小さく震えた。
元貴の手に、顎を軽く掴み固定される。
顔を逸らすことが出来ない。
奥まで舌が絡んできて、
声が漏れる。
「ん……ぁ……っ」
元貴はふっと唇を離すと
耳元で、短く囁いた。
「……声。」
その一言に、ひくっ…と喉が鳴る。
元貴はそのまま、
耳の下に、ぬるく熱い吐息を落とした。
下から、ゆっくりと這うように、
舌が耳の輪郭をなぞる。
「……っ、や……っ、」
思わず肩が跳ねる。
くすぐったさと、触れられている実感が重なって、
声にならない声が喉の奥に引っかかった。
逃げようとしてるわけじゃないのに、
首が反射的にすこし傾く。
その仕草に、元貴の手が伸び、
後頭部をぐっと押さえつけられた。
もう逃げられない。
「ん……ぅ……や、……」
頭を引き寄せられたまま
ゆっくりと耳の縁をなぞられる。
「ふ、っ……んぅ……っ……」
舌の先が、耳の輪郭をなぞるたびに、
甘い音が漏れる。
目の奥が、じんと熱い。
……いや、それだけじゃない。
きっと今、耳まで赤くなってる。
自分でも分かるくらい。
指先が無意識に元貴の服の裾を掴む。
「……マネージャー、帰ってくるよ」
元貴はひとつ、息を吐くように笑って、
ぐ、と柔らかく、そこを甘噛みした。
「……っん……ぁ……」
耳の輪郭が、じんわりと押し潰される。
そのまま、ちゅ、と吸われたかと思えば、
今度は耳の後ろをぬるく舌で撫でていく。
「や……っ、……もとき……っ」
名前を呼んだ瞬間、
また少しだけ、強く噛まれる。
「…ねえ、若井」
「…その顔、誰のせいか、言ってみ?」
低くて、甘くて、
くすぶった熱だけを残す声が、耳の奥に落ちた。
….
コメント
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初コメ失礼します! 更新ありがとうございます! 🫧さんの1つ1つ丁寧で繊細な文が大好きで、文字で作品内の情景、雰囲気、空気感、感情が伝わる素晴らしい物語が大好きです! 続き楽しみにしてます!!
この回、めっちゃ好きなんです。大森さんが甘くて。 作者
お久しぶりですぅ…… 嫉妬心と独占欲を顕にして若さんに詰め寄る森さんがもう……うわああああ 為す術なくされるがままになってる若さんも可愛いすぎてヤバいです😇 ありがとうございます(土下座)