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#衝撃のラスト
山根利広
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#恋愛
ピデピー
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急いで校舎に戻ると、何だか内部が騒がしい。廊下を慌ただしく逃げ惑う生徒の姿が目に飛び込んできた。
結界の中にA子達がいない。どうやら何処かに逃げたようだ。
生徒達は同じ方向に押し流されるような形で逃げている。
波に飲まれるようにして辿り着いたのは、体育館だった。ただし普通の学校の体育館の3倍はある規模だった。
電気がないのか薄暗い。
悲鳴が轟く体育館の中央に、黒い獣のような影が立っている。その影がふらりと生徒に近寄れば、生徒達は顔面蒼白で影から逃げ惑う。
まるで鬼ごっこだ。
影はまるで生徒を脅かして楽しんでいるようにさえ見えた。
咄嗟にA子達の姿を探す。ごちゃ混ぜになった生徒の波に揉まれるようにして、A子達がいた。
幸いにも影からは遠く、人の波に乗る形で彼女達はそのまま体育館の奥の出入口から出て行った。
影はまだ中央にいる。とりあえずアレをどうにかしなければ。
私は腰の刀を抜いた。周囲のことを考慮して空中から飛びかかる方が良いと判断し、中央の影に向かって斬撃を放った。
すると影はすんなりと真っ2つに割れてから派手に散った。
「…………?」
ーーー全然手応えがない。おかしい。
影は散り失せてしまい、跡形もなく消えてしまった。
確かに私の持っている刀の威力は強い。でもこんなあっさり一撃で?そんな訳あるか。
拍子抜けする私に、周りの生徒が数人足を止めて拍手をした。仕留めた現場を目撃したのだろう。
影が消えたことに気付いた生徒達が次々と拍手を送ってくれる。でも喜べない。
影の本体らしき奴は消していない。
ーーーここにはいないのか。
嫌な予感がして周囲を見渡せば、A子達が出て行った出入口付近で壁に背をもたれた姿勢の〇〇がいた。
ほっとした表情でもなく、ただただ無表情だった。
影が消えたのを見届けた後、〇〇は表情を変えずに踵を返した。
彼を見失ってはいけない気がして、慌てて刀を鞘に戻し、人の波を押し退けて後を追う。
空中浮遊した方が断然早いので、地面を蹴って高く飛び上がった。
そのまま浮遊して後を追うと、それを偶然目撃した生徒達が唖然とした顔で見上げていた。
〇〇は管理室に戻ろうとしていた。
「ちょっと待って」と管理室に入ろうとする彼の腕を掴む。
「答えて。本体は別にいるよね?」
問い詰めるのに優しく接する必要はない気がした。
〇〇の表情は硬い。前を向いたまま、目を合わせようともしない。話す気がないのか、口も開かない。
腕を掴んだまま、そっと刀の鞘に手を掛けた。
「正直に吐かないと斬るよ」
〇〇が本体だとは思っていなかった。どちらかというと、あの男の子。あっちの方が明らかに怪しい。
もしかしたら〇〇を攻撃すれば、多少は男の子も反応するかも。
最悪怪我させてでも状況打破を、と思って刀を抜こうとした瞬間、背後から首根っこを掴まれた。グイッと強い力で引っ張られ、〇〇から引き剥がされる。
「ーーー状況把握がまだまだ甘いな」
溜息混じりの聞き慣れた声。咄嗟に「げっ!」と声が出た。急な他者の乱入に、〇〇も驚いた表情を浮かべて振り向く。
突然私を掴み上げたのは、外守護のS兄だった。
「言えないんだろ、コレのせいで」
S兄が自分の耳をコツコツと指で叩いて〇〇に話しかけた。〇〇は警戒を顕にしつつ、小さく頷く。コレとは無線機のことらしい。
「……それ、あの男の子と繋がってるんでしょ?」
単刀直入に訊けば、S兄に小突かれた。
「それも向こうに筒抜けだろ」
S兄は私を床に下ろして〇〇へと近寄ると、躊躇なく無線機を没収した。
〇〇が慌てて取り返そうとするが、S兄の方が少し背が高いのもあって、若干届かない。
「心配するな、俺が仕留める」
そう言って無線機を自分に装着した。途端に無線機から何やらボソボソと声が漏れた。私からはあまり発音が聞こえない。
電話や無線機などの機械を通すとあさかの目は使えない。
何を言われたのか、S兄は急に日本語ではない言語で無線機に喋りかけた。多分言葉のニュアンス的には韓国語に近い言語だった。〇〇が息を飲む。
「……この人は……君のお兄さん?」
〇〇がそっと私に耳打ちする。
「私の実の兄ではないよ」
かと言って「守護霊やってるよ」と言うのもこの場ではなんだか微妙な気がして、素直に「鬼だよ」と告げると、〇〇が目を見開いた。
「……アンマ?」
「え?」
この場の敵の名前だと思っていた言葉が急に出てきて少し驚いた。
「アンマは韓国語でざっくり言うと『鬼』のことだぞ。正しくは『悪魔』みたいなニュアンスだけどな」
S兄が無線機を耳から外して廊下の床に放り投げた。
「お前達は互いに日本語と韓国語が分からない状態だから、ずっとあさかの目を使ってやり取りしてるんだろ。
お前は俺のことを悪霊寄りの鬼って認識してるだろうから、鬼でも幽霊でもなく、悪魔の方で変換されたんだろうな。日本と韓国だと、同じ言葉でもニュアンスが違うし」
生身に戻って後から調べたら、アンマは韓国語で악마と書くらしい。S兄の言う通り、悪魔というニュアンスで使われるのだとか。
「だけど」とS兄が腕を組み、不服そうな顔で「俺は도깨비(トッケビ)の方だぞ一応」と言った。
むしろそうなんだ、という感想が出た。今別にそんなことを言っている場合ではない気がするけど、ちょっと学を得た。
「えーっと……てことはつまり、この場にいる危険な奴は悪魔なのね?」
「そうらしいな。無線機の声の主がアンマなんだろ」
S兄が〇〇に視線をやると、彼は黙って何度も頷いた。
「脅されてんだな、可哀想に」とS兄が〇〇の背中を鼓舞するように叩く。
「ちとお前にはアンマの消滅は厳しいと思うぞ。洗脳型ってあの老婆が言ってたろ。アンマの処理は俺がするから、お前はコイツと他の無事な奴らを連れてツリーハウスに一旦避難したらどうだ?」
「こんな大勢が入れるキャパ、うちのツリーハウスにある?」
「日々改装されてるからどうにかなるだろ。下層部なら問題ないぞ。中層部と上層部に住むなら難しい試験と面接があるけどな。ロイには俺からの頼みってことで伝えていい」
ロイくんはうちの玄関の門番と、(霊体の)動物達の世話係をしている。最近はツリーハウスに新たに加わる新参者の面談もロイくんが担当しているそうな。
「……分かった。ところで、ここの出口は何処?S兄は何処から入って来たの?」
ぐるりと周囲を見渡して、S兄が「あっちだ。空間をこじ開けたから痕跡があるぞ。行けば分かる」と指差す。
S兄は結構ズボラで適当だから、何となくの目安しか分からない。指差す方向に行くしかない。
「行こう」
〇〇の手を引いて管理室から離れようとした時、管理室の中から例の男の子が出てきた。
何か鋭い一言を発したが、発音が聞き取れない。後ろを向いていたので文字も読めなかった。
〇〇の足が止まる。顔面蒼白で固まった。
それに応じたのはS兄で、同じ言語で応答する。S兄は英語はまるでダメな癖に、日本語と韓国語は分かるらしい。
少し言葉を交わした後、一気に畳み掛けるようにしてS兄が動いた。
アンマと呼ばれた男の子の胸ぐらを掴むと、瞬間的に目の前から姿を消した。
目では追えない速度で何処か広い無人の部屋にでも移動したのだろう。私もこんな所で突っ立っている場合じゃない。
「ほら行くよ」と〇〇の背中を押して、S兄の指した方向に走り出す。
廊下で逃げ惑っていた学生達にも「こっち!」と声を掛けて、大勢を連れて走った。良かった、A子達もちゃんといる。
C子が私を見て何か言った。大勢が押し流されている為はっきりと読めなかったが、多分「無事だったの!良かった!」みたいなニュアンスだったと思う。
廊下の奥に、神々しく光る謎の紐が天井から垂れていた。
これに掴まれば帰れる!と誰に言われた訳でもないが、直感で察知した。いつも色は決まっていないが、百鬼が引き上げてくれる紐は大体光っている。
紐を手繰り寄せるように引っ張り、長く伸びた紐を皆に掴ませる。
最後に自分も掴んで上に向かって「引っ張って!!」と叫ぶと、「はいよー……えっ、重」と聞き慣れた外守護の声がした。今回はS兄と仲良しな、普段はブラックと呼ばれたおっちゃん百鬼が待機していたようだ。
一瞬にして全員引き上げられた先は、ツリーハウスの上層部だったようだ。
突如大勢の生徒が芋ずるで引き上げられたことに、上層部で暮らしている百鬼が仰天する。
「お前また……こんなに増やして……怒られるぞ」
ブラックが額に手を当てて言うので、「今回のはS兄が許可したから連れて来た。ロイくんに話通しておけって」と反論した。
「まずは下層部に連れて行けってS兄が言ってた」
「まあそりゃ……うーん、あまり戦えなさそうだから下層部にしか置けないな……」
うちのツリーハウスは、外部からの敵襲に応じて戦える、即戦力のある者の中でも桁違いに強い霊体が上層部(主に外守護や円の外側の桁違いな奴らがここに部屋を持っている)、
戦えるがそこまで強くはない、もしくは頭脳派で物理的にはあまり戦えないが策略を練る方で参戦できる霊体が中層部、
全く戦えないので上層部と中層部の皆の日々の補助ができるよう、ツリーハウス内部の店で働いて支える霊体達にざっくり分けられている。
上層部>>>>中層部>>>>下層部の順で報酬も違う。霊界では日本円は使わないので、霊界専用の賃金がある。札束もあるが、やたらと古めかしい。硬貨も今じゃ見かけることのない古のデザインだ。
イメージ的には、常に危険の伴う上層部は日常的に己の修行を強いられ、外部からの襲撃には前面で戦わなければならない契約の為、消滅のリスクが1番高いことから国会議員並みの高賃金。
時と場合によって危険の伴う中層部は、公務員並みの安定した賃金。それより稼ぎたい場合、下層部と同じく店で勤務すると得られる報酬は大きくなるが、上層部の連中に比べたら報酬自体は劣る。
下層部は安全面が守られるので賃金はアルバイトと同格で、沢山稼ぎたいなら店を掛け持ちしたり、長時間決まった店で仕事をすれば、やった分だけ報酬が出る。逆に休みも自分で調節できるので、普段の報酬は少ない方だが日々の暮らしには全く困らない。
「……なんか騒がしいと思ったら……この子達は?」
急に賑やかになったのを聞きつけたのか、玄関先にいたはずのロイくんが上層部に上がって来た。
私は事の顛末を簡単に伝え、S兄に言われたこともちゃんと伝えた。ロイくんが僅かに溜息を吐く。
「言語が違うから、S兄が戻って来たら説明役を任せよう。君はもう生身に戻った方がいい。朝になるよ、今日も仕事でしょ」
ロイくんに「早くしな」と促されて、私は生身に戻った。
ややしばらくして、派手に暴れてアンマと呼ばれた男の子を消滅させたのか、爽快感のある帰還をしたS兄に追加の仕事が与えられたのは言うまでもない。
男の子の本当の容姿はどんな感じだったのかS兄に聞いたが、あまり上手く形容できない容姿だったらしく「悪魔というより、ただの化け物」と言っていた。
「獣みたいな姿だった?」
「まあ、確かに人か獣かでいうと獣だな」
「……てか、S兄はいつから現場にいたの?」
「お前が到着して〇〇と接触した辺りからずっと後ろにいたぞ。お前は全く気付いてない感じだったから、わざわざ声は掛けなかったけどな」
気になっていたことを問えば、飄々とした様子でS兄は答えた。
S兄は気配を消して幽体離脱した私を尾行することが多々ある。声くらい掛けてくれてもいいのに。
ところで、何故S兄が韓国語はペラペラなのかと後から問えば、S兄のお兄さんが韓国にいるのだとか。それで言語を習得したらしい。
出身地は一応九州方面と言っていたが実の所、韓国にも縁があるのではないかと勝手に思っている。私の血縁を辿ると先祖が韓国に行き着くのも、無関係ではないような気がする。
私が字幕の韓ドラを観ている横で、テロップには目もくれず映像と音声で普通に鑑賞を楽しめているから、そこは凄いなと日々思う。
ここからは後日談だが、S兄に説明を受けた彼らは「日本語を習得してツリーハウスの下層部で暮らすか、化け物は倒したから向こうに戻るか」の2択を迫られたらしい。
しばし生徒会議をした後、数人は自分の意思で馴染みのあるあの空間に「帰る」を選択したが、ほとんどは「ツリーハウスで暮らす」を選択したらしい。
〇〇は生徒達の中でも格段に強く、ロイくんの面談で中層部に上がる試験を受けるよう説得されたのだとか。
中層部に上がる試験は大きく分けて2種で、知力と戦力とで好きな方を選べるらしい。
その後の展開は詳しく聞いていないが、〇〇だけが中層部に上がったのを見るに、どちらかの試験で合格したのだろう。
ーーーそれはそうと、生身で目覚めた私は今日の分の修行を勝手にブッチしたとして、夫の守護2人に怒られたのであった。
コメント
1件
読了したわ!今回もめっちゃアツかった🔥 影を一撃で倒した直後の「手応えがない」感、めちゃくちゃゾクッとした。S兄の登場シーンもテンポ良くてかっこよすぎる。アンマとかトッケビとか、韓国語の要素が絡んできたのも好きだし、ツリーハウスの階層システムの説明で世界観が広がってワクワクした。続き楽しみにしてる!