卒業式が無事に終わり、写真を撮ったり花束をもらったりで溢れる人混みの中
俺はある人を探していた。
そいつは学年1の人気者で、周りには人と笑顔がいつも絶えない。
だから、てっきりその騒がしい輪の中心にいると思ったのに。
「俺らも探してんだけどなー」
「今頃告白の行列でも出来てんじゃね?」
と友達らに言われてしまった。
告白現場に突撃するような趣味は無いし、上から探せば分かるかな、なんて考えで教室に戻ってみると
見慣れた机の横に掛けられたスクールバッグ。
きっとあいつはここに戻ってくる。ならここで待っていよう、と
その隣の自分の席に腰掛けた。
机に頬杖をついて隣の机を見つめる。
最後の席替えで、人生の運を全て使って勝ち取った隣の席。
授業中もお互い横に向き合って、授業なんかそっちのけで喋りまくったな。
おかげでテスト前に大焦りして、後ろの席の友達に勉強教えてもらったりして。
でも、欠点を回避した時、こいつが一番にハイタッチした相手は
俺じゃなかった。
喋ってる時後ろに向けられる視線も、嬉しそうにノートを借りる横顔も。
俺、全部気づいてたよ。
それなのに今こうして待ってるなんて、俺ほんと馬鹿みたい。
はぁ、と一つため息をつくと、同時に教室の扉がガラ、と開いた。
「お、柔太朗」
「あー、やっと来た」
「え俺待ちだったん?」
「んーまあそんな感じ」
「まじ、悪いな待たせて」
「全然、勝手に待ってただけだし」
「ん、てかどしたん、なんかあった?」
「いや?勇ちゃん東京行っちゃうから話しとこうと思って」
「あーそうだな」
「最後だからぶっちゃけるけどさ、勇ちゃん、仁ちゃんのこと好きでしょ」
「っ、え!?」
「はは、大袈裟すぎ」
「え、俺そんな分かりやすかった…?」
「まあ、バレバレではあったね」
うわまじか…と恥ずかしそうに頭を搔く勇ちゃん。
分かるに決まってんじゃん。だって俺、ずっと勇ちゃんのこと見てたもん。
「で、どーすんのこれから」
告白しないの、と問い詰めると勇ちゃんは小さく口を開く。
「一応、第二ボタンは取っておいてるけど…」
「それ渡すんだ?頑張れー」
「ま、まだ決めてねえし!てか、全然見つかんねえし」
あんま歩き回っても、ボタン取られるし…ともう既にいくつかボタンが無くなっている学ランに目を向ける。
相変わらずモテるなぁ、ほんと、。
「…俺ももらってい?」
思わず口をついて出た、その言葉。
目の前の勇ちゃんは、は?と口をぽかんと開けている。
「思い出に、さ」
冗談めかしく笑って言うと。
「ははっ、うんいいよ」
ぷち、と三つ目のボタンを取って、差し出してくれたそれを受け取る。
「ありがと」
「神棚に飾っとけよ」
「はは、わかったわかった」
ポケットの中で、きゅ、とそれを握りしめる。
大事そうに取っておいたボタンを見つめるあなたを見たら、言えるわけなかった。
勇ちゃんも仁ちゃんも、大事な友達。
2人とも幸せになってほしい。
ここは俺が邪魔するべきではないんだ。
俺が言ってしまったら、それは恋になるから。
「離れてても友達だからね」
「おう、もちろん」
「仁ちゃんとのこと、どうなったかまた聞かせてよ」
「分かってるよ、一番に報告するわ」
「うん待ってる。じゃあほら、早くお姫様迎えに行ってあげな」
「お、姫様って、うるせえ!言われなくても行くわ!」
「ふははっ、頑張ってね勇ちゃん」
「おう。あんがとな、柔太朗」
少し顔を赤くして教室を出ていく勇ちゃんを見送ってから、自分も教室を後にする。
咲かずに終わった俺の恋。
勘の鋭い勇ちゃんが、どうか気づいていませんように。
別作品「第二ボタン」のおまけ話でした
コメント
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うわーーー、悲しいけどな、さのじんだいすき人間だからな、うわーーー、別視点見れるの最高すぎるよありがとう🥹🥹