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麗が丸山ビルを途中解約した場合、解約料を無料にするという話を持ち帰ると、上役達は皆、顔を輝かせた。

「麗ちゃん、あの古狸からどうやったん? すごいやん!」

喜びを隠しきれない副社長に、常務が眉をひそめた。


「なんか変なこと要求されていないよね?」

「えっ、大丈夫なの? そういえばあの人が初代社長に熱を上げてたのは有名な話だし……」

途端に専務が心配そうに顔をのぞき込んでくる。


「あ、いえ。えっと、育ち? が似ていたのでシンパシーを感じてくださったみたいで。次からはもっと話のわかるものを、と言われてしまいました」

正確には仕事にプライドを持っている人を要求されたわけだが、そこは彼らに任せれば間違いないだろう。


「そっか、よかった! 麗ちゃんほんっとすごいよ。きっと麗ちゃんがいい子だって丸山さんもわかったから甘くなったんだろうね」

副社長が褒めてくれた。麗は何もしていない。丸山社長が勝手におまけしてくれただけである。


(……いい子。そう、私はいい子じゃないといけない)


『その仕事にプライドはあるんか? いや、そもそも君にプライドはあるか?』

プライドがないから今、皆が喜んでいるのを他所に、麗だけ喜べないでいるのだろうか。

達成感がまるでない。

でも、そんなことを言うわけにはいかないので麗はへらりと笑った。


そもそも仕事にプライドってなんだろう。麗は元々はただの平社員で、今はただ挨拶して判子を押しているだけである。

でも、同僚達は麗とは違って仕事にプライドを持っていたのだろうか。


(周り、全然見てなかったなぁ)


姉にしか興味がなさ過ぎて、同僚が仕事に情熱を傾けているかどうかなんて気にもとめたことがなかった。


「あの……その店で働いていた人たちはどうなるんでしょうか」

ふと、そんな言葉が口を突いて出てきた。

人事部長が苦笑した。素人質問過ぎたようだ。

「パートさん達にはやめてもらうことになるだろうね。クレームもそこある店だし。昔は地域で一番売れている店だったんだけど、こればっかりは栄枯盛衰だね」

「そう、ですか……。あの、他店で働いていただくとかはできないんですか?」

「できないことはないけれど、そもそもパートさん側から断ってくると思うよ。今でも定年後再雇用の人が多くて皆、結構高齢だからね」

人事部長が仕方ないよと、子供に向けるように優しく微笑みかけてくれる。


そう、麗など彼らにとって子供だ。姉が帰ってくるまでのお飾りで須藤デパートの御曹司を引き込むための繋ぎ。


「ひとまず挨拶回りももうすぐ一段落つくし、興味があるなら今度の閉店作業、手伝いに行ったらどうだかな? きっと勉強になるし」

その言葉に麗はぱっと専務の顔を見た。

「え、いいんですか?」

「それ、ボクも良いと思うよ、社長自ら現場に出ることはわるいことじゃないし。やっぱり社長は現場を知ってないとね」

父は現場を知ってくれなかったからという副音声が聞こえてくる副社長の言葉に、常務が頷いた。


「閉店作業なら、多少失敗しても大丈夫だから行っておいで」

(自分の立場をちゃんと理解して、わきまえて生きてきたお嬢ちゃん)


そうだ、麗はちゃんとわきまえている。

既婚者の男が、いつか家柄の良い正妻を捨てて自分を迎えに来てくれるなんて馬鹿な夢を見続けた母のようにはならない。

「ありがとうございます! 頑張ります!」

麗は求められている通り、元気に頭を下げた。

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