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「な、なん、なんだ!?どうした、俺か!?余計なこと聞いたのか、セクハラか!?」
八木が珍しく驚いている。
「ち、違います、ごめんなさい。目が、痛くて……」
「いや。そんなレベルか」
「あと、坪井くんのことは私の勘違いだったので、もう付き合ってるとか、そんなんじゃないんです。色々お騒がせしてすみません」
平然を装って話しているつもりなのに、涙は止まる様子もなく。
「な、泣くな、余計なこと聞いたな、とりあえず俺が悪かった」
「だから泣いてませんよ。ほんと、大丈夫です」
言いながら無理のある、震える涙声で真衣香は答える。
仕事中にプライベートを持ち込んで涙ぐむことも、八木を慌てさせていることも全てが情けない。
ふう、と息を吐いた。
落ち着きたくて、次々と涙を溢れさせる熱い目の奥をどうにかしたくて、深く息を吸って吐いたのだ。
すると、どうしたのか。八木が「……おい、ちょっと待て。触るぞ」と、短く言って真衣香の前髪をかき分けながら額に触れた。
「え……?何ですか?」
ひんやりとした手の感触が気持ち良くて、目を閉じてしまいそうになる。
「何ですか?じゃねーよ!お前はアホか!熱いわ!」
「あ、アホって、そんないきなり」
目の前に迫る八木の顔が、慌てた様子から一点し鬼のように真衣香を睨みつけてくる。
(こ、怖い)
「アホはアホだ、ボケてんのか!お前熱あるじゃねぇか!あーー、顔赤いと思ってたんだよ……朝イチから。マジか」
アホやらボケやら言われてみて、初めて身体のダルさを感じた。
「え?す、すみません……風邪ではないと思ってたので体温確認してなくて」
「いや精神的なもんか風邪か、俺は……わかんねぇけど」
気を遣わせてしまっているのか、八木の歯切れが悪くなっていく。
こんな時には嫌味のひとつでも言ってきそうなイメージがあったので面食らい、真衣香は素直に体調不良を認めた。
「す、すみません。風邪だと思うのでマスク買ってきてもいいですか?八木さんにうつしちゃうといけないので」
もうすぐ昼休みだということもあり、会社近くのコンビニへ行こうとする真衣香。
その二の腕の辺りをガッチリと掴んだ八木が動きを封じ「座ってろ」と。
ぶっきらぼうに椅子へと真衣香の身体を沈めさせた。
「……え?」
「ダメな時はダメでまわりを頼る判断も仕事のうちだろ。総務は特に、それを他の社員に共有させる側の職務だろが」
配属されたばかりの頃はよく怒られた真衣香だが、ここ最近は程よく放置されていた為、久しぶりに先輩らしい八木を見た。
しゅん、と肩を落とす。
「すみません……」
「今日はコピー機の調整と、あと何だ?」
「だ、代表メールに来てる問い合わせの返信とか振り分けも全部終わってないので残ってます……。役員の方の出張手配も経営企画から指示がきていて」
話していると、ケホケホと短い咳が何度か続いた。
「大丈夫か?酷くなってきたな。杉田さん、そのうち戻るし一緒にお前の仕事片付けとくから今日はもう帰れ」
「で、でも」