TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


座らされてしまったばかりだが、こんなことで早退をしてしまっては、まるで失恋で落ち込んで帰ったみたいじゃないか。


(そ、そんなのダメ、嫌だ)


せめてきちんと謝りたくて。踏ん張って立ち上がった真衣香だが、チカチカと視界に火花が散った。

かと思えば、景色が大きく揺れる。次に、膝の辺りにヒリヒリとした痛みを感じた。


どうやら、フロアの固いカーペットに膝をついてしまったようだった。


「お、おいおい、マジか」


慌てた様子で八木が真衣香を抱き起こそうと、再び腕のあたりを掴む。


転んだときの弾みで椅子にぶつかった音が響いたのか。パーテーションで区切られた人事部から何人かの女子社員が顔を出しているのを視界の端が捉えた。


(ど、どうしようあり得ない、目立ってる)


頭の中ではぐるぐると考えが巡るというのに、身体が言うことを聞かない。


「おい、嫌かもしれないけど、嫌がるなよ」


謎の前置きを、八木が耳打ちする。何のことかと思った次の瞬間、両脇に手を入れられ、ひょいっと子供を抱き上げるように持ち上げられる。


(え、え……!?)


心の中で悲鳴を上げる。

もちろん実際にも叫びたいほど恥ずかしいけれど、大きな声を出す気力も体力も、どうやら今の真衣香には残っていないようで。


掠れがひどくなってきた声でなんとか呼びかけた。


「や、八木さ……」


抱き上げられた身体はそのまま右肩に担がれる。


「変なとこは触らんから、叫ぶなよ」


と、背中と膝裏に手を当てられる。

確かに触られたくないところが、避けられているような気がした。


背後でざわざわと、主に女性陣の声が聞こえるから、騒がれていることはわかる。

何に騒がれてしまっているのかも、もちろんわかる。


直視する勇気がなくて目をギュッと瞑った。



「応接室とか、そのへん。ソファあるとこ連れてくから、とりあえず。もし課長が先に戻ったら伝えといてくれるか」


八木が後ろにいる、きっと人事部の誰かにだろう。そう伝えて、そのまま歩き出しフロアを出て廊下を進みだした。


一階フロアを独占する賑やかで大人数の営業部とは違い、二階は比較的静かだし自分たちのフロアからみんな基本的に顔を出さない。

だからこの状況でも何とか助かっているのではないかと思う。


エレベーターのすぐ近くにある応接室に入り、八木がそっと真衣香をソファの上に降ろしてくれた。

失礼ながら八木にはガサツな印象を持っていたのだが、予想を裏切る優しい手つきだった。


そうして、立ち上がるまでの動作の間、まるで流れ作業のように。八木は真衣香のオフィス用サンダルをゆっくりと脱がせた。


「先輩に……こんなことさせて、す、すみません……」

「くだらんこと謝るな。とりあえず寝とけ……って、なぁ。この状態じゃ歩けねぇだろ。お前実家遠いんだっけ?」

「車で1時間くらいかなと……」


「じゃあ親はこれねぇしな」とぶつぶつ呟く八木を横目に目がうつらうつらと閉じかけていく。朦朧としていく意識を何とか堪えさせるため、拳を作って自分の頭を殴ってみた。


「い……っ!痛い……」

「アホか何してるんだ」

「なんか寝てしまいそうだったので……」


答えた真衣香に、はは、と八木は短く笑って言った。


「安心しろ、いつも頑張ってる奴がたまに抜けたくらいで誰も怒らねぇよ」


励ますような物言いに朦朧としていた頭が少し冴えてきたように感じる。


「……え?」

「この間言ったろ、お前が営業と揉めてる時に。言わせねぇようにするんだよって、文句な」

いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

38

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚