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日付は5月14日になろうとしていた。24時間体制での任務を終えた和久井は、池袋のエレーサが待つマンションへ向かっていた、
空には白い月が浮かび、途切れ途切れの街明かりを照らしている。
以前よりも、夜空を美しく感じながらも和久井は、東京テロを実行したある麻酔科医のことを考えていた。
彼が殺害された現場は、第3国連盟本社ビル地下施設で、その捜査結果に以前から疑問を抱いていたからだ。
多量の血痕が確たる証拠となってはいるが、では、どうやって成人男性の身体を切断出来たのだろう。
それが謎のままだった。
捜査関係者の中に、第3国のスパイがいる…
和久井のはそう捉えていた。
マンションが近付いている。
和久井の疲労は極限までに達していた。
熱いシャワーを浴びて、エレーサの温もりを感じながら眠りに就きたかった。
腕時計を見ると、既に日付は切り替わっていた。
エントランスを抜けて、エレベーターに乗り込むと安心出来た。
何気無い1日を、穏やかに過ごす事がこんなにも窮屈だとは思っていなかった。
エレーサを気遣いながら、玄関扉の鍵を開ける。
そっと息を殺して、靴を脱いで電気をつける。
明るくなったリビング。
いつもの場所にあるはずの、エレーサの膝掛けが見当たらない。
テーブルに置かれている花瓶が、和久井の顔を歪めながら映す。
添えられた手紙に書かれた慣れない日本語の文字は、間違いなくエレーサのものだった。
『しばらくの間、帰るようになります。両親も安心させたいと思いました。相談もしないでごめんなさい。そしてありがとう。エヴァは必ずもどるから安心して待ってってください。ばいばい』
手紙には可愛い猫の絵と。ロシアと日本の国旗が描かれていた。
和久井は、椅子に座り込んで言い聞かせた。
「これでいいんだ…」
時計の針が時を刻む音は虚しかった。