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「ただいま戻りました。」
「お帰り〜なぎなぎなぎら。」
凪ちゃんが帰ってきた。顔にははっきりと疲れが浮かんでる。それなのに彼から香るのは彼が好きな香りで、そのチグハグさが面白い。
「お疲れ様。」
「はぁ。付き合いでシーシャバーなんて行くものじゃないですね。」
「だから言ったでしょ。」
「断れなかったんですから仕方がないじゃないですか。」
依頼人の会社の社長だったか、マネさんの知り合いのお偉いさんだったか、詳しいことは忘れてしまったが凪ちゃんは今日、あまり関わりの無い偉いおじさんと数人でシーシャバーに行ってきたそうだ。
「俺も行けば良かった?」
「それは意味がわからないだろ。」
「まぁね。」
疲れた顔をしながらもトレードマークとなったコートを脱ぎ、手袋をとり、手を洗い、うがいをする。家に入る上で必要なことを全てこなす妙に生真面目な愛しい相方の疲れを癒してあげるとしようか。
「んじゃあ、お疲れなぎらを労ってあげよう。」
「は?」
「アキラ、おいで。」
彼の方を向いて両手を広げる。
彼の顔に浮かんだ逡巡はコンマ数秒のうちに俺の腕の中に消え去った。
俺の胸に埋まった彼の頭を優しく撫でてからゆっくり顔を上げさせる。そっと彼のメガネを取ると俺がしたいことを察したのか目を閉じる凪ちゃんに口づけを送る。
ゆるく開いた口に舌を入れればシーシャ特有の甘い匂いが流れ込んでくる。その味を貪るようにキスを深くすれば彼の手に僅かに力が入るのが分かる。
普段の低音からは考えられないような、鼻に抜ける甘くはねた声を聞きながら今日はこの匂いが消えるまでとびきりしつこく甘やかしてあげようと決めた。