小さい頃、「大人になったら結婚しよう。」と約束した。
でも、そんな願い叶わないんじゃないかな。
そもそも覚えていないんじゃないかな。
俺の可愛いお姫様は。
「琴音〜‼」
後ろから、幼馴染の声がした。
「凛月?どうしたの。」
凛月(りつき)は幼馴染の男の子。
琴音(ことね)は私の名前。
「一緒に帰ろう?」
凛月は可愛く首をコテッと傾けた。
「うん!」
凛月は、とても可愛い。
私より可愛い。
「あ、あのさ。琴音。」
凛月が、言いづらそうにモゴモゴと言葉を詰まらせた。
「ん?どうしたの?」
「あの、昔の話だけどさ。その、えっと…『大人になったら結婚しよう』って約束覚えてる…?」
凛月は恥ずかしそうに上目遣いで私を見た。
「あ、そんな時期もあったね〜」
軽く受け流すつもりだったけど、私の返事に食い気味になってきた。
「お、覚えてるの!?」
「うん。まぁ。」
嬉しそうにエヘヘと笑う凛月は世界一可愛い。
「良かったぁ〜♡」
そんなに覚えてることが嬉しいのかな。
「あ、琴音‼」
後ろの方から、別の男の子の声がした。
「雪那くん!!」
雪那くん(ゆきな)は、仲のいいクラスメイトだ。
「だれ…?」
凛月は人見知りだからか、私の後ろに隠れた。
「クラスメイトの雪那くんだよ。」
「はじめまして。」
雪那くんは、礼儀正しい。
それに比べて凛月は…
「だれ…?」
さっき、『クラスメイトだよ。』って言ったのにな…。
「もしかして…君、琴音のこと好き…?」
小さな声で雪那くんに言ったから、私には聞こえなかった。
「違うよ。ただのクラスメイトだから安心してね。」
ニコッと微笑んだ雪那くんに、安堵の息を吐いた凛月。
「ね、琴音。帰ろー?」
急にギュッと私の腕を抱きしめて甘えてきた。
「しょうがないなぁ。ごめんね、雪那くん。」
「ううん。お幸せに。」
コソッと何か言った雪那くんに、もう一度聞き直したけど「なんでもない」と
言われてしまった。
「あ、なんの話してたっけ?」
私の真横に歩いていた凛月は、とってもニコニコしていた。
「ん?『大人になったら結婚しよう。』って話〜」
凛月は、「もう、忘れるなんてひどいなぁ。」と言って頬を膨らませた。
「琴音はさ、どう思ってる?『大人になったら結婚しよう。』って言ってた事。」
私の数歩前に歩いて、振り返った。
「ん?小さい頃の話でしょ?今では冗談だと思ってるよ。」
正直に気持ちを言うと、凛月が少し悲しそうな顔になった。
「そっか…俺は冗談だって思ったことなかったんだけどな…」
凛月はさらに悲しそうな顔をした。
「この話は、琴音から言ってきたからさ。俺はずっと忘れなかったよ。」
意味深な微笑みに、少しドキッと胸が高鳴った。
そうなんだよね。
私が先に凛月のこと好きになったんだよね。
それから私は勉強に集中して、凛月が好きなこともなくなってしまった。
「琴音が、俺と結婚しようって言ったとき、本当は『大人になったらすぐ忘れ
る。』とか『本当に叶えなくていいんだ。』とか思ってたのに…いつの間にか
ね…なんでだろうな。」
そんなこと、考えてたんだ…
「琴音は、まだ僕のこと好き…?あ、俺は世界で1番大好きだよ。」
急な不意打ちに心臓が爆発しそうだった。
凛月と出会ったのは、年中さんの頃。
あのときの凛月は、教室の隅でうずくまっているような子だった。
その時はまだ、凛月と話したことはなかった。
でも子供会にいる子だったから、仲良くなりたかった。
私は勇気が全然出せなくて、自分の机で折り紙をしていた。
…そこに、凛月が来たんだ。
『折り紙?すごいね!』
はじめて喋るのに、初めてじゃないかのように喋りかけてくれた。
『何作ってるの?』
凛月が話しかけてくれたおかげで、私は今幸せなんだ。
その後、凛月に恋に落ちた。
だから、年長さんで凛月に『大人になったら結婚しよう!約束だよ。』と言っ
たんだ。
凛月は嫌がるわけでもなく、『じゃあ、俺は琴音のもので、琴音は俺のものだ
ね。』といたずらっぽく言った。
「…とね……琴音…!」
目の前には凛月がいて、ドキッと胸が高鳴った。
「大丈夫…?ぼーっとしてたけど…」
「うん。大丈夫だよ。昔のこと思い出してただけ。」
その言葉で、凛月の頬がほんのり赤くなった。
「も、もも、もしか、して…俺との、こ、こと…?」
本当は聞くのが恥ずかしいのか、言葉が途切れていた。
「さぁね〜」
「もぉー!琴音のいじわるっ」
凛月がそっと手を繋いできた瞬間、ものすごく心臓がバクバクし始めた。
今さっきまでは、抱きつかれても何も思わなかったのに…
「……いじわる…。」
「え?ごめん。なんて?」
凛月は私の口元に耳を寄せてきた。
その行動で、もう心臓が爆発しそうだった。
だから、凛月の耳元で思いっきり叫んだ。
「凛月の方がいじわるっ!!!!」
「わ!うるさ!」
珍しく、暴言を言った凛月。
本当にうるさかったのか、私から手を離した。
そうして、「うぁ〜耳がぁ〜…」とうめいてる凛月にこっそりと、
「いつか、私と結婚してね。凛月。世界で1番大好きだよ。」
と囁いた。
その声は、凛月に届いたのか分からない。
多分、届いてるはず。
だって、凛月の顔がいちごのように真っ赤だから。
それから3年後。
私は20歳。
市内の大学に通っている。
凛月は、この大学の美術科に行った。
将来、絵を描いていたいと言っていた。
凛月は小学生の頃から、風景の絵が上手かった。
それに、私たちは今…
「琴音〜!!」
校内で有名のカップルだ。
「一緒に帰ろう‼」
「今日はいいの?最後まで絵書かなくて」
「うん。だって、今日は付き合ってから3年の記念日でしょ〜?」
凛月は意味深な笑みを浮かべて、私の手を握った。
「さぁ、どこにデート行く?」
「どこがいいかなぁ」と悩んでいた。
すると凛月が「遊園地にしよう!」と言った。
「え?今から?大丈夫?」
「大丈夫!今から行こう!」
凛月は私の手を強く握りながら、駆け足で走った。
「え!凛月!?まって!」
そんなことを言ったものの、凛月は私のペースに合わせてくれていた。
それから2時間後。遊園地に着いた。
それから、何時間か遊園地で遊んだ。
「楽しかった!」
2人でニコニコと楽しさと、嬉しさを噛み締めていた。
そうして凛月が急に私の手をとって、ライトアップされた大きなモニュメント
に駆け寄った。
「わぁっ!綺麗…」
思わず、声をあげてしまった。
でも、凛月はそれでも「ふふっ」と微笑んでくれた。
それから、キョロキョロと辺りを見回していた。
私は不思議で首を傾げた。
「ねぇ、琴音。」
「ん?どうしたの?」
凛月は振り返って私を見た。
ライトアップされたモニュメントが背景になって、すごくかっこよかった。
「俺さぁ、俺から言ったことない気がするんだよね。」
全く意味が理解できなくて、首を傾げた。
そして、凛月は私の前にひざまずいた。
その行動にドキドキと鼓動がおさまらなかった。
それから、ポケットから出した小さな箱をパカッと開けて、
「俺が琴音に言ったことなかったこと。」
その意味が分かりすぎて、まだ言葉を言っていないのに涙がポロポロと溢れて
きて、拭いても拭いても止まなかった。
「琴音、俺と結婚して下さい。」
胸の中は嬉しさでいっぱい。
両手で顔を覆って、コクコクと何度も頷いた。
周りからは拍手が聞こえてきて、周りを見回してたのは、人に見せたかったか
らなんだと理解した。
涙が止まない私に凛月が「もう、琴音ったらぁ〜」と言って私を抱きしめた。
人前なのに、という考えはなかった。
周りからは拍手が止まなくて、涙も止まなくて…
凛月と出会って良かった、と何度も思う。
「涙、止んだ?」
私は、コクッと頷いた。
「あはは、もうぐちゃぐちゃだよ〜」
そう言って手で拭いてくれる。
その手は暖かくて優しかった。
周りにいる人は、さっきよりは少し減ったけど笑顔で見ている人はまだいた。
「で?返事ちょーだい?」
そんなの、決まってるよ…もう、ずっと言ってたじゃん。
凛月はずるいんだから…‼
「もちろん‼大好き‼凛月」
凛月に飛びついて、強く離さないように抱きしめた。
「本当?本当なの?」
「当たり前じゃん。約束したでしょ…っ‼」
また涙が溢れてきた。
「琴音、左手出して。」
私は素直に左手を出した。
私の薬指にライトアップの光をキラキラと反射した指輪が付けられた。
「はい、これで琴音は僕のもの。」
凛月がもう片方の手で持っていた指輪のケースが目に入った。
そこには、もう一つ指輪があった。
これって、もしかして…
「あ、気づいちゃった?」
私は無言で手を出した。
私の手の上にケースを置いてくれた。
そこから、私の左手に付いている指輪と同じ、輝いた指輪を取った。
そして私も凛月がやってくれたように、ひざまずいた。
「私と、結婚、してください‼」
涙のせいで、途切れ途切れだったけど、しっかり伝えた。
凛月は「ふふっ」と、可愛らしい甘い笑顔で左手を差し出してくれた。
そうっと指輪をはめたら、私に手を差し出した。
意味も分からず、その手をとる。
私は凛月に立たされた。
次の瞬間、優しく抱きしめられるのと同時に、唇に暖かい感触が伝わった。
周りにいた人は暖かい拍手で私たちを包んだ。
暖かい拍手で結婚式場は包まれている。
誓いのキスをして、私と凛月は「ふふっ」と笑った。
ママ、パパ。
私は幸せだよ。
凛月になら、私のこと任せれるって言ってくれてありがとう。
凛月のママ、パパ。
私になら、凛月のこと任せれるって言ってくれてありがとう。
これが、本当の幸せだ。
凛月。
私と出会ってくれてありがとう。
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