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雫
32
🎀もちたん🎀
5,424
「――はい、そこまで! 一回音止めまーす!」
鋭い声がリハーサル室に響き、大音量のダンスナンバーがピタリと止まった。
鏡張りの広い部屋には、激しく踊りきったM!LKの5人の荒い息遣いだけが残っている。
「佐野、今日ちょっと位置取り近くない? 吉田とぶつかりそうになってるぞ」
🩷「あ、すんません! 次から気をつけます!」
勇斗は首元の汗をタオルで拭いながら、明るい声で返した。
しかし、その視線はすぐに隣で肩を上下させている仁人へと向けられる。
🩷(仁人、大丈夫か……?)
💛(うん……平気。ちょっと、動きすぎただけ……)
二人は視線だけで短い会話を交わす。
前回のヒートから数日が経ち、仁人の体調は薬のおかげで表面上は安定していた。
しかし、過酷なダンスレッスンが続くと、体力の消耗とともにオメガのフェロモンが微かに漏れ出しそうになる。
それを防ぐため、勇斗は事前の宣言通り、仁人のすぐ近くを陣取っていた。
自身の強力なαのフェロモンを薄くコントロールして放ち、仁人の周囲を「俺の匂い」でコーティングして隠すためだ。
ダンスのフォーメーションが変わるたび、勇斗はわざと仁人との距離を詰め、スタッフや他のメンバーの鼻から仁人を遮断するように動いていた。
💙「……ねえ、なんかさ」
ドリンクボトルを手に取った太智が、床に座り込みながら怪訝そうな顔で呟いた。
💙「今日、勇斗と仁人、めちゃくちゃ距離近くない? さっきのサビのところとか、付き合いたてのカップルかよってくらいベタベタしてたじゃん」
💛「えっ!?」
仁人の肩がピクリと跳ねる。
動揺を隠すように、大急ぎでスポーツドリンクを口に含んだ。
🩷「太智、何言ってんの。フォーメーションの確認だよ。俺、最近ちょっとダンスの歩幅が大きくなっちゃうから、仁人に基準になってもらってんだよ」
勇斗は全く動じない笑顔で、太智の頭を軽く小突いた。
その自然な演技は、長年一緒にいるメンバーをも一瞬納得させるだけの説得力があった。
💙「あー、そういうこと? 相変わらず真面目だねえ、勇斗は」
太智はあっさりと納得し、隣の曽野とまた別の話しを始めた。
しかし、全員の目を誤魔化せたわけではなかった。
部屋の隅で静かにストレッチをしていた柔太朗が、鋭い視線をじっと二人に注いでいた。
柔太朗は、普段からメンバーの挙動や空気の変化に誰よりも敏感な男だ。
🤍「よっしー」
不意に、柔太朗が仁人の隣に歩み寄ってきた。
🤍「……っ、う、うん? 柔太朗どうしたの?」
仁人は本能的に、身体を強張らせる。
柔太朗はβだ。
オメガのフェロモンに直接当てられて理性を失うことはない。
しかし、人一倍観察力が鋭い彼だからこそ、二人の間に流れる「ただのメンバー」とは違う、濃密で張り詰めた空気を察知しているようだった。
🤍「最近、ちょっと疲れてない? 目の下にクマできてるし、なんか……いつもと雰囲気が違う気がする。無理してんなら、リーダーなんだからちゃんとメンバーに頼ってよ」
💛「あはは……ありがと、柔太朗。大丈夫だよ、ちょっと寝不足が続いてるだけだから」
仁人は精一杯の「いつもの笑顔」を作って返した。
だが、そのやり取りを横で見ていた勇斗は、気が気ではなかった。
柔太朗が仁人に近づき、その顔を覗き込むたびに、胸の奥からドス黒い独占欲が鎌首をもたげる。
🩷(それ以上、仁人に近づくな)
優性αとしての本能が、メンバー相手であるにもかかわらず、激しい威嚇のフェロモンを放ちそうになる。
勇斗は自分の手を強く握りしめ、爪が手のひらに食い込むほどの力でそれを抑え込んだ。
あいつらは仲間だ。
仁人を心配してくれているだけだ。
分かっているのに、心が言うことを聞かない。
「よし、休憩終わり! 後半の通し行くぞ!」
その声が、ギリギリのところで勇斗の理性を救った。
💛「じゃ、行こっか」
柔太朗は最後に一度だけ、勇斗と仁人の顔を交互に見つめ、それから定位置へと戻っていった。
その目には、明らかな「疑念」の光が灯っていた。
全員がポジションにつく。
勇斗は仁人の真後ろに立ち、彼の小さな背中を見つめた。
隠し通さなければならない。
M!LKのために、そして、自分の愛する人のために。
しかし、周囲の疑いの目は、確実に二人を追い詰め始めていた。
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コメント
2件
めっっちゃ好きです。続き待ってます