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雫
32
🎀もちたん🎀
5,424
9話
🤍「勇ちゃん、ちょっといい?」
リハーサルが終わり、他のメンバーが着替えや片付けに追われる騒がしい楽屋の中。
柔太朗がいつもと変わらない静かなトーンで、勇斗の肩を軽く叩いた。
🩷「ん? どうした、柔太朗」
勇斗は極めて自然な笑顔を意識して振り返ったが、背中の皮が一枚突っ張るような緊張感が走った。
柔太朗の切れ長い瞳は、一切笑っていなかった。
🤍「ちょっと外の自販機まで付き合ってよ。話したいこともあるし」
🩷「お、おう。いいよ」
勇斗はチラリと仁人の様子を_窺@うかが_った。
仁人は太智と舜太に挟まれ、スマートフォンの画面を見ながら何やら笑い合っている。
表面上はうまく馴染んでいるが、どこか無理をして体力を消耗しているのが遠目からでも分かった。
勇斗は小さく息を吐き、柔太朗の後を追って静まり返った廊下へと出た。
自販機が並ぶ薄暗い共用スペースに到着すると、柔太朗は缶コーヒーを二つ買い、そのうちの一つを勇斗に放り投げた。
🩷「ありがと」
勇斗がプルタブを引き、一口すする。
冷たい液体が喉を通るが、胸の奥のモヤモヤは消えない。
🩷「で、話ってなに?」
直球で尋ねた勇斗に対し、柔太朗は壁に背を預けたまま、じっと勇斗の顔を見つめていた。
その視線は、まるで嘘を見破る裁判官のようだった。
🤍「……勇ちゃんさ、よっしーと何かあった?」
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
だが、勇斗は長年培った演技力で、眉一つ動かさずに見つめ返した。
🩷「何かあったって、何が? いつも通りだけど」
🤍「嘘。いつも通りじゃないよ」
柔太朗は静かに首を振った。
🤍「太ちゃんはただ距離が近いって笑ってたけど、僕はそれだけじゃないと思う。今日のフォーメーション、勇ちゃんはあからさまによっしーを他の視線から庇うように動いてた。それに……」
柔太朗は一歩、勇斗に近づいた。
🤍「勇ちゃん、自分のフェロモンが漏れてるの、気づいてる? 僕はベータだから匂いは分からない。でも、アルファの勇ちゃんが、強烈な独占欲とか『威嚇』の空気を身にまとってることくらいは肌で分かるよ。今日のレッスン中、僕がよっしーんに話しかけた時、勇ちゃん、僕を睨んでたでしょ」
完璧に突かれていた。
いくら抑え込もうとしても、優性αとしての本能は、愛するオメガに他の男
――例えそれが気心の知れたメンバーであっても近づくことを拒絶してしまう。
その本能的な殺気が、聡明な柔太朗に伝わってしまっていたのだ。
勇斗は口を真一文字に結び、返す言葉を失った。
🤍「……よっしー、体調が悪いだけじゃないよね」
柔太朗の声が、さらに低くなる。
🩷「あいつの口から直接何か聞いたわけじゃないなら、俺から言えることはねえよ」
🤍「じゃあ、やっぱり何か隠してるんだ」
柔太朗は溜息をつき、髪を少し乱暴にかき上げた。
🤍「責めてるわけじゃない。ただ、M!LKのリーダーが倒れたり、グループの活動に支障が出るような事態なら、僕らにも共有してほしい。僕だって、よっしーの力になりたいし、M!LKを守りたい気持ちは勇ちゃんと同じだよ」
柔太朗の言葉は正論だった。
そして、メンバーとしての深い愛に満ちていた。
だからこそ、勇斗は苦しかった。
仁人が『Ω』であるという事実は、彼らベータのメンバーにとって、あまりにも受け止めがたい、そして芸能界という世界において危険すぎる爆弾なのだ。
もし知られてしまえば、仁人は二度と彼らの前で「強いリーダー」ではいられなくなるかもしれない。
🩷「……柔太朗。ありがとな、心配してくれて」
勇斗は缶コーヒーをゴミ箱に捨てると、真っ直ぐに柔太朗の目を見据えた。
🩷「でも、これだけは信じてくれ。俺は、M!LKを壊すような真似は絶対にしない。そして……仁人のことも、絶対に守る。だから、もう少しだけ、俺に任せて泳がせてくれないか。時期が来たら、ちゃんと話すから」
勇斗の瞳に宿る、圧倒的な優性αとしての覚悟と、一人の男としての強い意志。
それを見た柔太朗は、しばらく沈黙を保った後、フッと小さく笑って肩の力を抜いた。
🤍「……分かったよ。勇ちゃんがそこまで言うなら、今はこれ以上突っ込まない。でも、限界が来る前に頼ってよ。僕たち、5人でM!LKなんだから」
🩷「ああ。分かってる。ありがとな、柔太朗」
最大の危機はひとまず去った。
しかし、メンバーに気づかれるのは時間の問題だということも、勇斗は痛感していた。
楽屋に戻ると、仁人が少し不安そうな目を勇斗に向けてきた。
勇斗はわざと大袈裟に「あー、柔太朗に飯奢らされそうになったわ!」と嘘をついて場を和ませる。
仁人はホッとしたように胸をなだめおろしたが、その瞬間、過労とストレスが限界に達していた仁人の体内で、次の異変が静かに鎌首をもたげていた。
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