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「【渦巻木スウァルツリー】!」

ずももももっ

「ほほぉ、ネマーチェオンを操る魔法とは、素晴らしいですね」

「ショクブツだから、アイショウがいいようだな」


ピアーニャの指示で、ミューゼは建築作業中。魔法で螺旋状の木を生やし、どんどん高くしていく。

もちろん作業者はミューゼただ1人。精度が高く、大きな木を生み出せるのは、シーカーの中ではミューゼしかいないのだ。


「そろそろ良い感じですか?」

「もうすこし……だな」


塔と言える高さにはなっているが、中には常駐する為の部屋や、ネマーチェオンの調査資料などを置く階層が必要である。その辺りも考えると、最低でも5階建て程度の高さは欲しいのだ。

雲に乗っておおよその高さを見ていくピアーニャは、そろそろ良いかと思い、ミューゼに天井を閉じるように指示を出す為に降りていく。

しかし、物事は思った通りにはいかないものである。


「みゅーぜ、がんばれー!」


魔法を見て興奮したアリエッタが、ミューゼに向かって応援をしてしまった。


「はーいっ!」

ぐおおおおおおっ

「おわーっ!?」


ゆっくり伸びていた木が、一気に3倍の高さになった。


「おいこらミューゼオラ! のばしすぎだ!」

「あっ……スミマセン、アリエッタの応援が可愛すぎて、興奮しちゃいました」

「そんなのでコウフンすんな」

「無理も無いのよ。それにしても、こんな大きいのがそそり立つくらい興奮したのよ?」

「をい」


危険な物言いをするパフィに、ジト目でツッコミを入れるピアーニャ。

ミューゼは失敗失敗と、頭をポリポリかきながら、生やした木を撫でる。


「いやーすっごい滾っちゃって。あちゃー、こんなに硬くて太くなっちゃった。うっかり(魔力を)ドバドバ出しちゃったから、結構疲れたかも……」

「オマエら、わざとか!? わざとなのか!?」

「若い女がそんな事言うなよ、な?」


コメントが怪しい2人を見て、ピアーニャとバルドルがひたすら狼狽える。その後ろでは数人の男達がニヤニヤしながらコソコソと話し合っている。

しかしミューゼ達はマイペースに、木を見て回る。


「ほらほらアリエッタ。ちょっと頑張り過ぎちゃったけど、どうかな?」

「おっきー! すごい!」

『こらこらこらこら!』


会話の流れのせいで、アリエッタの普通の感想にも反応してしまうピアーニャ達。色々危ないと思っているせいで、いつの間にか形容詞の単語を覚えていた事にも気づいていない。

しかも、その時後ろからの小さな声が、耳に入ってしまった。


「うっ」


ピアーニャの動きが止まった。そしてビキッという音と、ギリィっという歯ぎしりの音が、ピアーニャから発せられた。

バルドルがその事に気付いた瞬間、ピアーニャの『雲塊シルキークレイ』が唐突に大きくなり、バルドルを包み込む。

勢いよく後ろを振り向いたピアーニャの顔は怒りに満ち、振り向いた勢いで腕を振り、『雲塊シルキークレイ』を使ってバルドルをぶん投げた。


「なにマンゾクしたカオしてんだ、ドヘンタイどもがああああああ!!」

「なんで俺までええええ!?」

ずどおおおん


この後、「先日からどうでもいい事で救助活動を増やすな」と、ピアーニャとバルドルに多数の苦情が入った。その日の夜の食事中、ペコペコと謝る総長と組合長の話で盛り上がったという。




ピアーニャは異様に高くなってしまった塔については諦め、とりあえず入口の開通と内部の構築をバルドルとミューゼに頼んでおいた。設計図自体はミューゼの魔法前提で作られているので、あとは木を調整するだけなのだ。

ミューゼの植物魔法は、杖から植物を出す時は召喚のような形で虚空から植物を出しているので、斬り落とさない限りその場に残る事は無い。しかし、そこにある植物を操作する場合は、成長や変形をさせているだけなので、魔法を解いてもそのまま維持し続けるのである。

しかも変形しているのは、リージョンそのものであるネマーチェオン。ちゃんと管理しないと、朽ちるどころか成長を続けて大きくなると、キュロゼーラからもアドバイスを受けている。


「……このリージョン、まだおおきくなるのか。トホウもないな」

「そういう事もありますよ。限界を迎えなければ、そのうち最大のリージョンになるかもしれませんね」

「えっ、これでイチバンおおきくないのか?」

「勿論です。エテナ=ネプトの方が広いですよ。密度は薄いですが」

「………………アタマいたくなってきた」


イディアゼッターからもたらされた情報は、ピアーニャの処理能力を凌駕していた。

ただでさえ未知のリージョンで仕事をしているのに、その桁外れの広さと、別リージョンの果てしない真実を聞かされたのだ。報告書に記録するのもちょっと億劫になっていたりする。

ネフテリアを連れてきて記録係になってもらえばよかったと、泊まっている小屋を見て思っていた。


「あぁそういえばゼッちゃん」

「はい?」

「クウカンのユガミについてはいいのか?」

「ああ、あれですか。何と言いましょうか……一度小屋に行きましょうか」


アリエッタの描いたドアからネフテリアを連れてこようかと考えたピアーニャは、イディアゼッターがやってくる原因となった『空間の歪み』という言葉を思い出していた。

説明する為に、2人は小屋へと入った。


「『空間の歪み』とは、世界と世界……つまりリージョンとリージョンの間に出来る自然の穴です」

「ああ、ミューゼオラのもつツエが、このキでつくられたからな」

「それで今まで感じた事の無い穴を発見したので、慌てて閉じに来たわけですが……」


そう言うイディアゼッターの視線の先には、アリエッタが描いたドアの絵。ドアの向こうは白くなっていて見えないが、潜り抜けるとファナリアのミューゼの家に繋がっている。


「普通の不安定な歪みではなく、物凄く安定した歪みなんですよね」

「アンテイしたユガミってなんだ」


安定と歪みは完全に正反対の意味である。


「この場合は『門』と言った方がよろしいでしょうか。人工的に創られた空間の穴ですね」

「ヒトにはムリだろうがな……」

「もうやだあの女神……なんで娘がこんな次元ところに……」

「そこまでアイツのオヤにふりまわされてるんだな。わちもムスメのアリエッタにふりまわされて、それはもうヒドいめにあってるぞ」

「ピアーニャ殿……」

「ゼッちゃん……」


お互いの境遇で通じ合う所があったのか、2人はひしっと抱きしめ合った。

しかし今は仕事中。しばらく涙を流した後は姿勢を正し、今は目の前にある『門』と呼ばれたドアに意識を戻した。


「これはどうしたらいい? けしたほうがイイか?」

「見る限り、拡縮で周囲に影響を与えるような不安定さは、一切見られません。使いたければこのままで良いでしょう。ただし管理する者は必要ですが」


仕組みは『空間の歪み』と同じだが、ドアの絵によって完全に安定していると、イディアゼッターは言う。そしてドアを消せば、穴も消えてなくなるであろうと、神として断言した。


「なら、けすか。こんなトコロから、ミューゼオラのイエにつなげてても、しかたないしな」

「家に繋がってるんですか……それは色々危険ですね」


塔のような施設同士を繋げるならともかく、リージョンを超えて個人の家に繋がるドアなど、色々な意味で危なくて仕方がない。日常生活を送るアリエッタやミューゼ達の安全も考慮して、今この場にリージョンを渡るドアは必要無いと判断されたのだった。

そもそもアリエッタを教育する前に、こんなドアをあちこちに作られては、安全面でも政治面でもかなり危険である。少なくともピアーニャは、ちゃんと言葉が通じるようになるまでは、ドアを描くのを禁止するつもりなのだ。


「はやくトウをカンセイさせて、ファナリアでじっくりハナシをききたいものだ。アリエッタかんけいの」

「ですね。本人には罪は無いので、何かしでかした時の対処方法は考えておくべきでしょう」


実はまだアリエッタの母エルツァーレマイアについて、イディアゼッターから深く聞き出していない。絶対に誰かに知られないようにするため、ファナリアのエインデル城の奥で詳しく話をする事になっている。

一体どんな話を聞かされるのか、神の事を聞けるという期待と、神達の中で何があったのかという恐怖で、内心ドキドキのピアーニャであった。

話を終えた2人は、絵を消すのをミューゼ達に頼む事にし、大きくなり過ぎた塔を完成させる為に外に出た。


『………………』


最初に見たのは、派手に飾られた巨大な塔の姿だった。元々幹しかなかった表面が緑の葉に覆われ、綿毛の花によって所々白く飾られ、色とりどりの星型の花が至る所に咲き、紙で作られた飾りが沢山吊り下げられている。しかも星型の花はランダムに光を発し、塔自体に彩りを与えている。

その下では、アリエッタが満足そうに立って見上げている。


『なんじゃこりゃあああああ!!』


2人で語り合っていた短時間に、塔に一体何が起こったのか。

茫然と塔を見上げるシーカー達も、あまりの急展開に思考が追い付いていない様子。監督を任されていたバルドルも、四つん這いになって項垂れている。


「あ、ぴあーにゃ!」

「うっ……おいミューゼオラ! コレはいったいなんなんだ!」


事情を知っていそうなのは、一仕事終えたとばかりに汗を拭ったり背伸びしているミューゼ、パフィ、ムームー、ラッチの4人のみ。中心人物と思しきアリエッタは、事情聴取など出来ないので、除外である。


「いやぁ、アリエッタがこーゆーのを作って欲しそうだったから、作ったのよ」


パフィがピアーニャに見せたのは、アリエッタが描いた1本の木の絵。緑色の針葉樹に沢山の飾りがついている派手な木である。

アリエッタは嬉しそうに目を輝かせている。


(まさかこんな大きなクリスマスツリーが作れるなんて! 異世界ってスゲー!)


高くなった螺旋状の木を見て、何を思ったのかアリエッタが絵を描いた。ちょっと恥ずかしそうにしながら木の絵を見せた瞬間、過保護な保護者と面白そうだと考えた同行者に火が付き、全力で飾り付けが行われたのである。

植物の魔法、折り紙、糸、伸縮自在な動きなど、出来る事を総動員して、とんでもない早さで作業が進行したのだ。

呆れて物も言えないピアーニャに向かって、ミューゼ、ムームー、ラッチが親指を立てて、ニカッと笑った。


『頑張りました!』

「がんばるトコロがちがああああう!」


外装よりも内装を先に整えてくれと、思いっきり叫ぶピアーニャだった。

アリエッタの能力は絵だと教えられているイディアゼッターは、ため息を吐いて呆れ顔でアリエッタを見た。


「この娘、エルツァーレマイアより手強いのでは……」

からふるシーカーズ

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