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すべては、ノートの中にある。
僕が記録したもの。僕だけが知っていること。
片倉結惟という存在が、
“**普通の生徒”**から“空気の支配者”へと変わっていった経過。
その視線、沈黙、感情を持たない微笑み。
あれはもう、人のかたちをしていなかった。
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最後に彼女を見たのは、屋上だった。
遠くから、彼女はただ空を見上げていた。
風に揺れる髪。誰も近づけない静けさ。
まるで“空気そのもの”だった。
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あのあと、彼女はすべてを飲み込み、
感情すらも支配しきれなくなって、崩れた。
自分の言葉、自分の視線、自分の思考。
すべてが自分を壊すようになった。
自分を殺し、他人を殺し、
最後には――自分自身に殺された。
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【観察記録005】
■対象:片倉結惟(最終段階)
■分類:支配と自己崩壊の終点
■備考:観察の終了を宣言
■結論:空気は人を殺す。だが最も危険なのは、それを操った人間自身だった。
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“感情を殺した日”から始まった物語は、
最終的に感情によって彼女自身を飲み込んだ。
僕はそれを止めなかった。
いや、止める資格がなかった。
僕はただの“観察者”だったのだから。
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茅野
瀬川
三枝
村瀬
椎名
そして――片倉結惟
みんな、沈んだ。
でも誰も気づかない。
空気に溶けるようにして、記憶から消えていった。
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ノートを閉じる音が、静かに響いた。
これは、終わりじゃない。
**“ここで終わることにしただけ”**だ。
きっとまた、誰かが沈む。
僕が記録すべき何かが、生まれる。
でも今は、それでいい。
なぜなら──
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空気はまだ、ここにある。
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―Endー