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その言葉に、桜庭乃愛は目を輝かせる。
「まあ、嬉しい。そのパーティーの会場はここのレストランよね。みんな喜ぶわ。何人ぐらい?」
「お呼びになりたい方、全員で構いませんよ。人数が決まったら、笹岡にご連絡いただけますか」
「わかったわ」
事務所にもどり、笹岡に偽の連絡の礼を言った。
そうでもしないと、彼女は、なかなか腰を上げないから。
「一周年記念の日だが、ディナー・パーティーに桜庭さんの友人もゲストとして招くことにした。後日、人数を連絡してくるから、その分、予定しておいてくれ」
「彼女の友人を?」
「ああ、ちょっと考えがあってね」
「わかりました。ではパーティーはマスコミには非公開と伝えておきます。ただ、あまり無謀なことはなさらないでいただかないと。最近はSNSや何かで情報が出回ることもありますから」
「わかってるよ。ただ、ちょっとだけ、あの我儘姫の鼻をあかすことができたらいいなと思ってね」
「くれぐれもお手柔らかに」
「はいはい。わかってる」
本当にわかってるのか、と言いたげに、笹岡が眉を|顰《しか》めた。
サロンに戻り、次の客を迎えるための準備をしながら、俺は優紀と桜庭のことを考えていた。
『桜庭乃愛という名前を聞いたとたん、優紀さん、急に真っ青になって』と岩崎から聞いたとき、ぴんときた。
優紀が会社を辞めた原因かと。
そして同時に、自分でも驚くほど落胆を覚えた。
気持ちが通じ合って以来、俺に心も体もひっくるめて可愛がられることで、優紀の心はすっかり癒されたはずだと、勝手に信じ込んでいたから。
だが、まだ傷はぜんぜん癒えてないことを、今回のことで思い知らされた。
だから、優紀をパーティーに出席させることにした。
彼女自身が、桜庭乃愛と直接対峙しなければ、過去を乗り越えることはできない。
そして、俺は彼女のパートナーとして、圧倒的な勝利を収める手助けをしようと思う。
これからの1カ月間。
これまで築いてきた、香坂玲伊の知識と技術と財力のすべてをつぎ込んで、優紀を誰にも負けないほどの最高の女性に仕立て上げる。
真のシンデレラに偽のシンデレラを凌駕させるために。
俺の耳にはすでに、美しいドレスを身にまとった優紀が登場したときの、会場の感嘆の声が聞こえてくるように思えた。