テラーノベル
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珍しい、単純にそう思った。
勇斗に誘われ家主より先に家に上がり込み、ご飯やお風呂を済ませくつろいでいたところだった。
今日が仕事の打ち上げであることは聞いていたが、あんなにもフラフラな酔っ払いが帰ってくることは聞いてない。
今までも打ち上げ終わりの勇斗と会ったり、二人でもお酒を飲んだりしたことはあったが、
もともと酒が強い勇斗がこんなに酔っ払っているのはレアだ。
水を用意しながら、少し冷静になると珍しさより心配が上回る。
誰かに無理矢理飲まされたのだろうか……
「勇斗、勇斗…!起きて、ちょっとでもいいから水、飲んで。」
ソファで寝そうになっている勇斗を揺さぶり、水の入ったコップを手元に持っていく。
「……んん…むり…目、あかない……」
「頑張れって…飲んだら、寝ていいから!」
手に力はなく、目も口も一向に開く気配がない。
「じんとが…のませて…?口から…」
「え?………はぁ?!」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
数秒後、つまり俺から口移しで水を飲ませろと言っているのだと理解し、大声を上げてしまった。
そんなこと、普段頼まれたって絶対やらないが、目の前にいるのはぐてんぐでんの酔っ払い。どうする。
このまま寝かせたらきっと明日の目覚めは最悪だろう。
いや、目覚める前に吐く可能性だってある…
ひとしきり葛藤していたが、きっとこいつ明日には記憶が飛んでるな、うん。という結論に至った。
「勇斗、口開けて。」
自らの口に水をひとくち含み、そのままキスをする要領で唇を合わせる。わずかに開いた隙間から水を流し込むと、コクン、コクンと飲み干す音が聞こえる。
「つめたい……きもちー……もっと」
勇斗の口内は普段よりだいぶ熱を持っているようだった。
むせ返るようなアルコールの匂いに、酒を飲んでいないのに酔いそうになってくる。
「…どんだけ飲んだんだよ……」
入りきらず口から溢れた水が首元を伝っていく様子を見て、何も思わないわけではない。自分は酒を飲んでいないのに、心臓がドクドクと音を立てている。
改めて目の前にいるデカい男を見ると、そんな俺の気持ちなど知るはずもなく、餌を待っている雛鳥のように口を開けていた。
「ふっ……なんだその顔…」
なんだか拍子抜けして、珍しい姿がひどく可愛く思えて、ただひたすら水を含みながら口付けを繰り返した。
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