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慌てて起き上がり、左右に顔を振って探す。
すると、レトは寝袋から離れた場所で、仰向けになって目を閉じていた。
寝相が悪かったのかな……。
昨晩のことを思い出すと、また緊張してしまうけど、レトを起すために体を揺すってみる。
「おはよう、レト」
「うっ、うう……。おはよう……、かけら……」
掠れた声で返事をした後に、ゆっくりと起き上がるもののまだ眠そうに見える。
「眠っていて寒くなかった?」
「寒かったよ。でも、一緒に寝袋にいたら……理性が段々となくなっていきそうな感じがして……。
かけらが眠ったことを確認してから…ここに来て……」
「もしかして、私を寝袋に寝せるために、敢えて一緒に暖を取るふりをしていたってこと……?」
「かけらは、随分と冷静に分析するね……」
「そんなことないって。
緊張して寝付くのに時間が掛かったし……」
「もっ、もしかして……、かけらには恋人がいる……!?
僕は、なんてことを……!」
「いっ……、いないから……! 勘違いしないで!
恋愛には興味があるけど、彼氏がいたことなんて一度もないから……!
レトこそ恋人がいるんじゃ――」
「えっ……?」
気が抜けたような声で反応した後、レトは急にバタリと倒れて重そうにしていた瞼を閉じた。
「レト!? ……レト!? しっかりして!」
肩を小刻みに揺すって見ても今度は起きる気配がない。
早朝で辺りはまだ暖かくならないのに額に汗が滲んでいるし、呼吸も早くて苦しそうだ。
もしかして、体調が悪いのかな……。
「馬、お医者さんをここに連れて来れる?」
「ヒヒーン……」
近くで休んでいたレトの馬も具合が悪いのか元気のない目をしていてうずくまっている。
医者も呼べないし、村から大分離れてしまい、知っている人も近くにいない。
焚き火を点ける方法も分からないし、人がいる場所がどこにあるかさえ知らない。
不便だらけで、どうすればいいのか焦り、頭の中が真っ白になりそうだった。
「あのー! 誰かいませんかー?
誰かいたら返事をしてくださーい!」
大声を出して誰かがここに来ることを願うしかできなかった。
何度も何度も繰り返して叫び続けてみるものの、他の人の声は聞こえてこない。
しばらくすると喉が枯れてきて、声を張る力もなくなってきた。
誰にも届いてないのかな……――
諦めて、レトと馬の看病をするためになんとかしないと……。
周囲に使える物があるか見て回るために歩き出した時、カサッと草が揺れる音がした。
「そこに誰かいるんですか!?」
「ぐぅ!」
小さい体にふんわりとした毛が生えていて、長い耳が頭に二本ついている。腹部は白いけど、背中は黒い色。
そして、私を見定めるように向けてくるダークブラウンの瞳。
目の前に現れたのは、人ではなく私の世界にもいるウサギだった。
「かわいい……!」
「ぐぅ……」
ウサギには声帯がないから、この子がなぜ大きな声で鳴けるのか不明だ。
異世界だからそういう事もあるのだろうか。
もっと近くで見たくてウサギの方に近づくと、茂みの中に逃げてしまい、どこに行ったのか分からなくなった。
勝手にこの森に入ったんだから、警戒されるのは仕方がないことだ。
私は……、何もできてないな……。
旅をすると決めたけど、生きる術さえなくて仲間を助けることもできない。
ありのままの自分でいたいと思っていたけれど、何の力もない。
他人にあれこれ助言をしていたくせに実力さえない。
グリーンホライズンの村で大人しく連行されていれば、レトと馬が倒れることなんてなかったんだと思う。
私がレトと旅を始めなければ……。
自由なんて考えずに“いい子”でいればよかったのかな……。
情けない自分に絶望すると共に涙が目に浮かんできた。
この世界のことも、元の世界で自分が生きているのかも分からない。知らないことだらけ……。
心の中に溜まっていた不安が、涙となって溢れてくる。
雨のようにポタポタと落ちていく大粒の雫。
厳しい現実に負けてしまいそうになる。
でも、今は立ち止まって泣いている場合ではない。
少しでも看病するために、使える物を探さないと……――
「ぐぅ!」
レトと馬がいるところに戻ろうとすると、さっきのウサギが私の前に現れた。
「私を励ましに来てくれたの……?」
作業着の袖で涙を拭いて、可愛らしい姿を見るために膝を屈める。
ウサギは座って毛づくろいを始め、逃げる様子がなかった。
癒やされる姿を見ながら微笑んでいると、カサカサと茂みを掻き分ける音が近づいてきた。
「ノウサ様!連れてきたかった場所はここか!
……って、誰だおまえは」