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最近、「”哀れな人類を救済する少女が現れた”」などという投稿をネットでよく見かけている。
最初は数人程度が言っていただけなのに、今となっては毎日トレンド入りするほどだった。
俺たちも救って欲しい、という信者が大量にいた。だが、そんなのでたらめだと信じていない人が多かった。
その話題が出た同時期に、全国各地で犯人不明の殺人事件が多発しているというニュースが流れた。
あの少女と関連があるという人もいれば、あんな馬鹿げた噂と関係あるわけがないと言っている人もいた。
俺もでたらめだと、嘘だと思っていた。
今まで、この瞬間までは。
「ねぇ、アタシの”救済”が欲しいんだよね?その願い、今すぐ叶えてあげるよ」
俺はよくいるただの社畜だ。今日もクソ上司から散々説教(笑)を受けてやっと帰ることが出来たところだった。今の時間だと終電に間に合うかどうか⋯⋯。
ふと、裏路地から悲鳴が聞こえた。酔っぱらい共が喧嘩でもしてるのか?最低だな⋯。
巻き込まれたくないし立ち去ろうかと思ったが、少し興味が湧いて、覗いてみた。
覗いてしまった。
そこには、地面に倒れている人と、それを見ている少女がいた。地面には赤い液体が大量に溢れている。
赤い液体?いや、これは⋯⋯血か?よく見れば、倒れている人の腹部から血が溢れ出している。そして、少女の手には刃物が握られていた。いや、まさか、そんな、
「どうしたの〜?もしかしてアタシが可愛すぎて目が離せなくなっちゃった〜?」
まずい、見つかってしまった。逃げなきゃ、でも足がすくんで動けない。くそ、こんなとこで終わるのか?俺のクソみたいな人生は⋯。
「あっははは!そんなに心配しないで。大丈夫だよ__君も”救われたい”んでしょ?」
救われたい?何を言っているんだ、こいつは?一体なんの話をしているんだ?
「アタシの名前はレフィっていうの!哀れな人達を救う為の”救済”の旅をしてるんだ〜!」
派手な髪色に派手な服装、細い身体に可愛らしい声⋯レフィはゲームのキャラで、俺はそのゲームの中に転生したと言われた方がまだ理解できる。
だが、それでもまだ分からないことがある。
「⋯⋯あなたの言う”救済”って、一体何なんですか⋯!」
「これを見てまだ分からないの?それはね⋯⋯”死”だよ」
レフィはそう言うと、狂ったように笑い出した。
「死こそが救済なの!愚かなアタシたちを救ってくれる唯一の希望⋯!!」
はぁ?どういうことだ?俺はいつの間にか死んでいて、やっぱり転生でもしてるのか?そうだ、そうに決まってる、そうじゃなきゃ、
「信じたくないって目をしてるね?安心して、現実だよ。君たちが嫌いで嫌いでだいっきらいで仕方ない現実だよ。目を逸らさないで?」
これが、現実?信じられるわけがない。こんなのでたらめだ、現実であっていいはずがない。
「そうだなぁ⋯最近ネットで”哀れな人類を救済する少女が現れた”って、よく見ない?アタシがまさにその少女だよ?」
確かによく見た。あんなの嘘だと思ってたのに、いや、これはただの演技で通りすがりの人を驚かそうとしてるだけかもしれない、だって、犯罪だぞ?
「ねえ、あなたも”救われたい”んでしょ?君の顔を見ればすぐに分かっちゃう♪」
「な、にを言って、」
「まだ理解できないの?ずいぶんなおバカさんみたいだね。⋯そうだ!アタシと一緒に旅をしようよ。そしたらきっと分かるはず!」
理解が追いつかない。何を言っているんだ、こいつは。狂っている。正気じゃない。こいつはヤバい。すぐにでも逃げないと、
「ちょっと!どこに行こうとしてるの?まだお話は終わってないよ?」
逃げようとしたが、手を掴まれてしまった。振りほどこうとするが、こいつ力が強すぎる⋯!!化け物かと疑いたくなる⋯。
「ねぇ、君の名前を教えてよ。これからしばらく旅をするんだし♪」
「⋯⋯水篠瀬名」
「ありがと〜♪よろしくね、せなちゃん♡」
最悪だ、ちょっとした好奇心で俺の人生が終わるなんて⋯。
あと、頼むからちゃん付けはしないでくれ⋯。
「まだ信じたくないって顔してるね〜?いい加減そんな虚勢張るの辞めたらいいのに⋯」
「信じれるわけがないだろうがこんなの⋯!」
こんな殺人鬼と旅だなんて信じたいわけがない⋯!!
俺何かしたか?前世で何かやらかしたのか?一生かけてでも償うから早くこの最悪な状況を変えたい。
そうだ、適当に言い訳をして逃げよう。そうするしかない⋯。
「⋯なぁ、俺、明日も仕事が」
「仕事〜?そんなつまんないのやってないで、アタシに付き合ってよ♪ 」
全く話が通じない。俺はもう諦めた。どうにでもなれ。
「⋯⋯ほら、いたよ!アタシの救済を必要としてる人が!!」
レフィはそう言って、地面に座って泣いている女を指さした。
⋯あいつ、まさかまた人を殺そうと?それなら早く止めないと、
「ねぇ、アタシの”救済”が欲しいんだよね?その願い、今すぐ叶えてあげるよ」
手遅れだった。俺が止めようとしたその時にはもう女に話しかけていた。ああくそ、面倒なことになりそうだ⋯。
「⋯すみません、こいつ俺の連れで、迷惑かけてすみま」
「お願いします!!どうかこの私を救済して下さい!あなたは私にとって唯一の救いなんです!!!」
⋯⋯はあ?この女、自ら死という名の救済を求めて⋯?私にとって唯一の救い⋯?頭がイカれてるんじゃないのか?レフィが?唯一の救い?いやいやありえないそんな事⋯。
「アタシのこと知ってるの〜?うれしいなぁ♡そんな良い子ちゃんはちゃ〜んと救ってあげないとだよね〜!」
そんなレフィの言葉を聞いて、女は目を輝かせて今か今かと救済の時を待っている。⋯俺がおかしいのか?いや、そんな事はないはずだ。
「おい、一旦考え直せって、頭おかしいぞお前」
「どうして私の邪魔をするんですか!?やっと救ってもらえるのに!!」
「そうそう、邪魔しちゃダメだよ〜?アタシのことを信じてくれてる子なんだから〜♪」
⋯⋯狂ってる、おかしい、狂ってる狂ってる狂ってる。こんなの有り得ていいはずがないのに、どうして。
「アタシのこと、ず〜っと待ってくれてたんだよね?大丈夫、すぐに救済してあげるから。よく頑張ったね」
女は歓喜の涙を流している。レフィは手馴れたかのようにあっけなく女の人の命を奪ってしまった。
「ふふっ、また1人救うことができたね!さあ、救済を必要としてる人を探しに行こう〜!」
レフィは嬉々として俺の手を引いて歩き出した。⋯これがまだ続くのか?頭がおかしくなりそうだ⋯。
「ねぇ、アタシの”救済”が欲しいんだよね?その願」
「お前あの救済してるとかいうガキだろ!?聖人ぶるなよこのクソガキが!!」
「⋯あちゃ〜、これはハズレだね〜」
声を荒らげる男を見て、レフィは苦笑いした。俺はやっぱり信じてない人はいると安心した。
「ちょっとくらいアタシの話を聞いてくれてもいいじゃん?お兄さんいくらなんでも態度が悪すぎるよ?」
「そんなのどうでもいい!!お前は救いとか言いながら人を殺してるだけじゃねーか!?こんなガキこそとっとと救済されるべきだ!」
⋯すげぇな、この男はレフィの全てを否定している⋯。
「⋯大丈夫か?話通じる気がしないけど」
「困ったね〜。こういう人は何回も会ったことあるけど、ここまで頑固なのは初めて!」
ならそんな呑気に言うなよ。まぁ、こんなに呑気ってことは何とかする方法があるってことだろうし、安心していいか⋯。
「死こそが救済。愚かな人間共を救ってくれる、唯一の希望。みんなその希望にすがって生きてるんだよ?それを踏みにじるのは良くないなぁ」
「何をでたらめ言ってんだよ!犯罪に手を染めたクソガキが!」
すげぇ、ここまで話を聞こうとしない人は初めて見た。この人は、他人の努力を無駄にする才能があるな。⋯⋯こんな才能いらないけど。
「⋯何言っても無駄みたいだね!そういう子こそ、早く救済してあげないと♪」
レフィも諦めたのか、開き直って満面の笑みでそう言った。
そしてレフィはナイフを取り出して、ためらいなく男の心臓を貫いた。
男は悲鳴をあげた。男の胸元から血が吹き出して、抵抗するまもなく倒れていた。
「⋯⋯よし、また1人救うことができたね!早く次の人探しに行こ〜!!」
レフィは慣れているとでも言いたげな顔をしていた。こんなのが、慣れている?⋯まあ、俺もいずれは慣れてくるだろうか。
「⋯アタシも、救済がほしいよ」
そんなことを考えている時に、レフィの声が聞こえた気がした。けど、レフィはいつも通りにこやかに笑っている。気のせいだと思って忘れることにした。
それからも、たくさんの人を”救済”する旅は続いた。救いが欲しいとすがる人、興味が無いと無関心の人、そんなのいらないと突っぱねる人、⋯⋯そんな哀れな人たちを救ってきた。これからも、救い続けると思っていた。ある日のことだった。
「せなちゃんはさぁ、”救済”のことはどう思ってるの〜?」
「それはもちろん、この世界の馬鹿共を救うことができる唯一の救いですよ」
「ふふっ、君もアタシの考えに染まってきたね?最高だよ♪」
「光栄です、レフィさん」
この数ヶ月間で、俺の人生も考え方も全てが変わった。全てレフィのおかげだ。レフィが俺を変えてくれた。俺を救ってくれた。
「⋯”死”に魅入られた人は、死から逃れることはできないんだよ。 君も、アタシも」
レフィはどこか暗い顔をしてそう言った。いきなり何を言っているんだ?と考えている間に、レフィは俺にナイフを握らせた。
「君なら、アタシの役割を引き継いでいけると思うの。ねえ、お願い。アタシを救ってくれる?」
「なんで、いきなり、そんな」
なんで、いきなりそんなことを言うんだ?いやだ、救いたくない。まだ誰かを救ったことなんてないし、俺に適任だとも思えない。もっとレフィと沢山の人を救う旅をしたい。
「やっと見つけたの。アタシを救うことができる唯一の人⋯君ならできるよ、大丈夫。アタシが見込んだ人なんだから」
⋯⋯いやだ、けど。レフィがそこまで言うなら、俺が、この手で⋯。
「⋯分かりました。俺がレフィさんを”救済”します」
「あはっ、ありがとう。君に救ってもらえるなら嬉しいよ」
そして、俺はこの手でレフィを”救った”。
これからは、俺が、救済の旅を続ける。
最近、「”哀れな人類を救済する青年が現れた”」などという投稿をネットでよく見かけている。
最初は数人程度が言っていただけなのに、今となっては毎日トレンド入りするほどだった。
私たちも救って欲しい、という信者が大量にいた。けど、そんなのでたらめだと信じていない人が多かった。
その話題が出た同時期に、全国各地で犯人不明の殺人事件が多発しているというニュースが流れた。
あの青年と関連があるという人もいれば、あんな馬鹿げた噂と関係あるわけがないと言っている人もいた。
私もでたらめだと、嘘だと思っていた。
今まで、この瞬間までは。
「なぁ、オレの”救済”が欲しいんだよな?その願い、今すぐ叶えてやるよ」