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今日は待ちに待った夏祭り最終日。
最終日と言うだけあって、花火も一番多く、大きいものが打ち上げられるらしく、それ目当てに大勢の人々がやってくる。そして、その人々を目当てに、屋台も少しばかり増えるのだ。
「はい、お嬢ちゃん。いちごの綿あめ。手、あんまベタベタになんねぇように気を付けろよ?」
夏祭り会場の一角に、綿あめの屋台がある。
そこには、黒、赤、黄の特徴的なグラデーションの長い髪と、豪快にギザ歯を見せて笑うドール・独華がいた。
「わぁ…!お花の形だ!ありがとう、お姉さん!」
自身の顔くらい大きい綿あめを手に、母親に自慢しに行く子供を微笑ましく見送りながら、独華はまた綿あめを割り箸に巻いてゆく。
その2、3個隣の屋台では、小さな視線の牽制が飛び交っていた。
「おい、琉炎。その調子じゃ、俺との賭けに負けんじゃねぇか?」
ニヤニヤと嬉しそうに笑う、海帆。
「バカ言え。海帆こそ、売り上げが伸び悩み始めてんじゃねぇのか?」
煽りに煽りで返す琉炎。
この2人、根っこからのギャンブラーとは言え、実に似た者同士の、お似合いの親友である。
そのすぐ正面では、夫婦(未満)の炎雰と共華が射的の屋台をやっていた。
相変わらず笑顔を振りまいて__なんて事はなく、相変わらずの無表情の炎雰と、少し恥ずかしそうに笑いながら暑さにいつ半ギレになるか分からない共華だ。それなのに、繁盛しているのは、子供に優しいからか、それとも、景品が良いからか。
そんな夏祭り会場に、炎利と炎加がやってきた。
「炎利兄さん……。何ここ?暑い。異常じゃない?」
あの普段の優しさと、穏やかさと、ふんわりさ加減の消し去った、完全なる素の表情と口調の炎加に戻っていた。
「そんな事言っちゃダメですよ。炎吉兄さんに聞かれてたらどうするんです?また説教、受けたいんですか?」
呆れたように炎加に静止をかける炎利に、炎加は猫を被り直した。
「ごめんねぇ〜、兄さん。でも、僕が住んでるカナダじゃ、こんな暑くなくて〜」
猫撫で声の様に高くて甘い炎加の声に、炎利の表情は引いていた。
「やっぱキモイので、今はいいです」
「はっ倒すぞ?」
炎利の一言に、炎加がしっかりと、静かに切れたのは言うまでもなかろう。
「まぁ、せっかくの有給なんですし、楽しまないと」
炎利はそう言うが、この兄弟、完全に私服だ。
と言うか、浴衣と言うものは動きにくいと炎利は拒否し、普段隠している筋肉がバレると炎加は拒絶した為に、2人揃って私服になっただけだ。
いかんせ、この2人も顔が良いので、服装など整えなくても、何気に大丈夫なのだ。
「兄さ〜ん。どこの屋台から回る?」
炎加の可愛らしい声が人混みの騒動に紛れて聞こえる。
「そうですねぇ__。主食系のものからいきますか」
炎利の優しそうな微笑みの奥で、どの屋台が人気で、どの屋台から回る人間が多いのか。そのデータやら計算やらが飛び交っていると考えると、流石頭脳明晰で通っているだけある。
砂利と石畳を踏む音が、鉄板の上でものが焼ける音や子供の喜ぶ甲高い声、大きな笑い声。それぞれの音にかき消されてゆく。
少し無言で2人が歩みを進めると、鼻の奥をくすぐる香ばしいソースの香りと、ガツンとくる唐揚げの匂いが届いた。
「あそこ、賑わってるみたいですね」
「だねぇ。じゃあ〜、僕はあそこの焼きそばが食べたいなぁ」
ポツリとこぼした炎利の言葉に、食い付くように炎加が反応した。どうやら、腹が減ったらしい。
「俺は、隣の唐揚げの方に並んでますから、何かあったら言ってくださいね」
そう言って二手に分かれて双方列に並ぶ。
これほど割り込みの無い列に並ぶのはいつぶりかと、炎利が密かに感動しているのは秘密である。
着々と列は進んでゆき、いざ炎利と炎加が前に出た時だった。
4人揃って目が丸くなった。
「何やってんですか、琉炎さん」
「何って、賭けだろ」
炎利が目の前で紙コップに唐揚げと爪楊枝を入れる琉炎に声をかけると、琉炎はあっけらかんと答えた。
それは炎加の方も同じらしく、
「海帆君……?何やってるの?」
「何って……、賭け以外あんのか?」
なんて言葉が飛び交った。
「知り合い割引きはねぇけど、多めに買え。それかチップでもいいぜ?」
琉炎が本来の量の倍を手渡すと、真っ黒な笑顔を浮かべた。
「詐欺ですか?それともボッタクリですか?チップ
ならマイナスですよ」
呆れながらため息を付いた炎利は、勿論呆れながらも倍を買う。これが炎利と言う男だ。
基本的に人に甘いのだ。そのクセ、仕事中は冷血漢なんて呼ばれる事もあるのだから、不思議である。
「お前、プライベートだと優しいよなー」
琉炎が背を向けた炎利にそんなふうに声をかけている時、炎加は既に焼きそばを手にしていた。
それもそのはず、海帆が何か言う前に「一つ。五百円でしょ?」と笑顔の圧を放ちながら、早々に頂戴していたのだから。
「相変わらず、兄さんは押しに弱いよね〜。変な詐欺とかに引っかかってない?」
皮肉を少々加えながら、乾いた木の音をたてて、割り箸を綺麗に真っ二つに割る。
「俺を誰だと思ってるんです?そんなものには引っ掛かりませんよ。……あるとするなら、うちに居る50州のドールによるドッキリですね。この前腰抜けました」
遠い目をして、爪楊枝に刺された唐揚げをポイッと口の中に放り投げる。
因みに先週のドッキリは、ドアの上に足を引っ掛けてコウモリ吊りで顔を覗かせてきたらしい。そりゃ腰を抜かす。
炎加は、炎利のうちの子自慢と、愚痴とを上手い具合に書き流しながら2人足並み揃えて人混みの中を歩く。
チラチラと周囲からの視線が刺さるが、それは無視するに限る。
炎加は微妙かもしれないが、炎利はそこそこに有名人なのだ。
真っ黄色な声が聞こえてくるのは、顔が良いからだ。
それでも、急激に距離を縮めたり、サインを求めたりしない所に、この国の人々の礼儀の良さを感じて、炎利は自国の人々と比べて本日何度目かの感動をしている。
「あ……」
2人で歩いていると、何を見つけたのか、炎加が思わずと言った風貌で声を漏らした。
「兄さ〜ん、綿あめ買ってもい〜い?」
相変わらず完璧に猫を被った炎加に、炎利は少し引きながらも、「あれ、好きでしたっけ?」なんて事を問うた。
「いや、普通?かな?……ただ、僕のSNS関連全部ね、お姉様に監視されてるから…。…イイコでやってます報告しなきゃ、ダブルコンボの説教だから……」
遠い目をして、乾いた笑い声をこぼす炎加を見て、炎利も何かを察したらしい。
「まぁ、あれだけ荒れてた炎加をここまで、まとも……?にしてくれたのは、お姉様とお兄様のおかげですから」
「まとも」の部分にクエスチョンマークが付いていたのは、きっと気の所為で押し通すのだろう。
列に並んでいると、子供がキャッキャ楽しむ声と、どこか聞き馴染みのある豪快な声が聞こえてくる。
薄々何かを察しながらも、列の先頭に立った時に、これがデフォなのかと思いながらも、炎利の口を付いて言葉が出た。
「独華さん、貴女もですか……」
そんな呟きを軽くスルーしながら、炎加は相変わらずの猫の被り様で注文をする。
「えっと〜、ん〜、僕〜、ピンク色の綿あめでお願いします〜」
そして炎加の猫を被った顔しか知らない独華は、それを難なく受け入れてハートの形にした綿あめを手渡す。
「他に何人か居るし、あったら声でもかけてやれば?因みに俺は、1日目に愛華にあって、綺麗にスルーされたぜ」
豪快に笑っている独華を無視して、炎加は少し人の少ない空間に入ると、腕を伸ばしてスマホのシャッターを何度か切る。
炎利に綿あめを押し付けて撮った写真を何度か見直すと、ツブヤイターなのか、青い鳥なのかは知らないが、投稿する事に成功したらしい。
そのまま2人で歩いていると、これまた子供が高い声を出して喜び、楽しむ声が聞こえてきた。
「あたし、あれ取りたーい!」
小さな女の子が宣言をして、鉄砲を構える。
どうやら射的の屋台らしい。
「狙うならもう少し上に向けた方が良いわよ」
あくまで独り言を装った風にそう言ったのは、共華だ。
その真横では肩に掛けた法被に片腕を隠した炎雰が静かに椅子に座っていた。
女の子が引き金を引くと、別方向から極小の紙を丸めただけの物が飛び、景品の角度をずらす。
「……もう一回」
炎雰が低くも落ち着く声で呟くと、さらに意気込んだ女の子が先ほどと同じ構えでもう一度人差し指を引いた。
ポテッと小さな音を立てるような勢いで、手のひらよりも少し大きめのテディベアが倒れた。
「おめでと」
共華がそれを手に取って、わざわざ膝を折って女の子に手渡す。
それに「おねーさん、ありがとー!」と喜ばれて、照れ隠しをして、炎雰が愛おしそうに目を細めるまでがいつものセットである。
「射的、やります?」
「絶対やんない。一発で落としたら可愛くないでしょ?兄さんは?」
「嫌ですよ、下手に何個も落としたら目立つじゃないですか」
炎利と炎加のそんな会話が近くで繰り広げられると、一瞬だけ炎雰がこちらを向いた。
「何やってんだ、お前ら」なんて言いたげな炎雰の視線とオーラを感じ取ったのか、2人はその場を後にした。
そうこう2人揃って賑やかに(?)夏祭りを楽しんでいると、随分と日も暮れてきた。
「そろそろ花火を見に行きますか。有料席取りましたしね」
「りょ〜か〜い」
2人並んで歩きながら、「昔みたいに手でも繋ぎます?」なんて冗談を交えつつ、指定した席を目指す。
5分ほど歩くと、やっと着いたと言わんばかりと勢いで並んで椅子に座る。
もう随分と人も集まってきており、ここに来るのにも
混雑していた。
丁度その時、ヒュ〜〜〜と高い笛のような音が聞こえてくる。
本日、一発目の大輪の真っ赤な花が夜空に大きな音を立てて咲いた。
それに続いて、2発目、3発目と、大中小それぞれの花がひっきりなしに夜空を彩り、咲き誇り、最後に散ってゆく。
「綺麗だね〜」
「ですね〜」
汗ばむペットボトルを片手に、空に見入る。
「夏祭りも、これで終わりですか〜」
しみじみと夏祭りの終わりに思いを馳せている炎利の横顔を見て、さも当然の様に炎加が一言付け加える。
「日本の、はね?兄さんの国の所では他にもいっぱいあるでしょ?」
「ムードを台無しにしないでください。今度特訓に付き合ってあげますから」
「その方が地獄だって」
こうして4日間にも渡る夏祭りに幕が降りたのだった。
コメント
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あ〜、めっちゃいい夏祭り回だった!🎆 独華さんの綿あめ屋台で子供に花形の綿あめ渡してるシーン、ギザ歯笑顔とのギャップが可愛すぎる。琉炎と海帆の賭け対決も、親友同士のアツいやりとりがツボ。炎利と炎加の兄弟も、素の顔と猫被りのギャップが面白くて、特に「キモイので今はいいです」→「はっ倒すぞ?」の流れ、笑ったわ。 射的のとこで炎雰がこっそり紙玉飛ばして女の子を助ける優しさ、そして共華が膝折って渡す仕草…ああいう細かい気遣いが刺さる。花火のシーンで「これで終わりか〜」ってしんみりしてる炎利に「日本の、はね?」って現実叩きつける炎加も最高。地獄の特訓付き合うって宣言してるけど、本当に特訓始まったら炎利も後悔しそう(笑) ほっこりする夏の終わりをありがとうございました🌻
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