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「おばちゃん、颯ちゃんがここに来ることを知ってるんだね」

「佳佑も知ってるし、俺がこんなに続けて家に居ないからな。リョウの親には何も言わないように母さんにも言ってあるから」

「…ひどい子だと思っているだろうね…おばちゃん」

「そう思ってたら、これ持って行けとは言わないだろ。それに、親に言いづらい事があるのはいつの時代も同じだって父さんと二人で言ってたぞ。他人へ言えても、親には言えないってことがな」


そう言ってくれると少し気が楽だ。


「颯ちゃん、部屋のことなんだけど……」


食後に紅茶を飲みながら、北川先生の提案を伝える。


「俺、オフィスの働き方には疎いからか、その電話のシステムはすごいと思う。事務所の電話と同時にスマホも鳴って、スマホで応答してから事務所のデスクに内線で繋ぐんだろ?」

「そういうこと。弁護士先生はすでにその電話を使っているの。土曜参観の代休で子どもが休みだから家で仕事します、とかあってね。そんな日も普通に外線を回すし内線も鳴らしてる」

「そうか…で、リョウがその在宅ワークを始めてもいいと?」

「うん」

「週1、2回は出勤…?」

「うん。資料の持ち出しが出来ない仕事だからね。最近パソコン上で見られる情報も多いんだけど」

「俺の定休日の木曜を出勤日にすれば送って行けるか…」


颯ちゃんはマグカップの持ち手を意味なく撫でながら、思案顔を私に向けた。

送って行く?

園児じゃないのですが…?

神妙な顔つきで考え込んでいた颯ちゃんは、すっかり紅茶の冷めた頃


「リョウ、週1、2回の出勤のうち木曜を入れてもらえるなら許容範囲だ」


と宣言する。


「木曜は送迎するし、休みが合わない分、木曜の夕方以降は食事や映画、買い物のデートの日にしような。部屋はいくつか紹介してもらえるなら一緒に見て決めようか?俺たち二人の部屋を」

「いいの?」

「いいに決まってるだろ?あまり広いところは必要ないな。ここのように、リョウの気配を常に感じられるくらいの部屋がいい」


颯ちゃんは、胡座をかいた上に私をひょいと乗せ


「毎日一緒に過ごせるのは嬉しい。ただ、リョウ」

「うん?」

「俺、リョウと一緒に暮らすなら…それだけはおばちゃんたちに言わないと……どことは言わなくても、おばちゃんたちの大切な娘と一緒に暮らすことを黙ってはいられない。責任持って幸せにすると伝えないと」


ゆっくりと言葉を選ぶようにして言う。


「私も…考えてはいたの。ちゃんと元気で幸せだと伝えて、お兄ちゃんにも早く結婚して欲しいから…でも、いざお母さんと電話で話すと…お母さんのいろいろな感情が見え隠れするというか……感じ取ってしまって…何も言えずにきってる」

「一緒に電話してみるか?」

「…颯ちゃんと……?」

「そう。今でも、今度でもいつでも」


全く急かす様子はない颯ちゃんの声が耳に届くとともに、彼に触れている背中の左半分からは低く響いてくるようだ。

彼に頭まで凭れてしばらく考える間、颯ちゃんは何も言わず時折私の指先を撫でていた。


「電話して…何て言おう…」

「言いたいことを言いたいだけ言えばいい。大切に思う娘の言葉を悪いように受け止める人たちではないだろ?一度の電話で全て伝える必要もないと思うぞ」

「…うん、電話しようかな…」


私はスマホを目の前のテーブルに置き、スピーカーにしてタップした。

コール音の聞こえる中、颯ちゃんの脚の上で斜めに座っていたのを真っ直ぐ後ろ向きに変えられ、彼は私を後ろからぎゅっ……と抱きしめてくれた。

良い子の良子さん

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