‘はい、良子?’
「うん、お母さん。元気?」
‘お父さんも私も元気。良子は?’
「大丈夫、元気だよ…あの、お母さん…」
‘なぁに?’
「ずっと黙ってて…ごめんなさい…私いま…」
‘良子。連絡はこうしてくれるし、私の電話にも出てくれるし無理しなくていいよ。元気だったら’
「うん…あのね、東京にいるの。三岡先生が法律事務所を紹介して下さって、以前と同じ仕事してる」
‘…そう…ずっと?’
「うん…そこを出た日に紹介してもらったの」
‘そうだったの。仕事どう?’
「すごくいい人ばかりで…三岡先生のところより忙しいんだけど楽しい。できることも増えたし」
‘そうなの…嬉しい話を聞けたわ。三岡先生には改めてお礼しなくちゃ’
言ってしまえば何てことはないのかもしれない。
私があれこれ気にし過ぎていたのか?
それとも颯ちゃんに包まれる安心感の賜物か?
‘白川さん、引っ越しされたみたいよ’
やっぱり気にし過ぎではない…きた……白川さんは恵麻ちゃんのお宅。
東京にいることも言えるくらいなら、白川さんもいない地元に戻れるんじゃない?
そう言われているようだ……そう言われても仕方ないんだけど、あの場に戻りたくないんだ。
少し視線を落とした私に
‘良子?聞こえる?’
お母さんの声が聞こえてくる。
「もしもし、おばちゃん?俺、颯佑」
‘えっ…?颯佑くん良子と一緒なの…?’
「先に会ってごめんね。再会して告白して付き合ってるから」
‘良子と…颯佑くんが……?’
「そう」
‘今、颯佑くんが東京に行ってるってこと?’
「そう」
‘…嬉しいような…嬉しいんだけど……’
言葉とは裏腹に暗いトーンの音色が聞こえて
「お母さん、誰も悪くないから。私が言えなかっただけで…とにかく東京で元気にやってるから。今日はそれだけ…じゃあね」
通話を終えようとする私の手を、颯ちゃんが止めた。
「おばちゃん。リョウは毎日頑張ってるよ。ただそこの空気には触れたくないだけだから…気を悪くしないで」
彼がそう言ってからすぐには返事がなく、彼は‘きるよ’と通話を終えた。
「リョウ、お疲れ…上出来」
颯ちゃんは私を後ろから抱きしめる力を強くすると、顔を私の肩に乗せ
「…おばちゃんはおばちゃんで思うところがあるってのがわかるよな…ちょっとだけリョウのペースとは違うのがよくわかった。大丈夫か?」
自分が電話してみる?と言ったことを気にしてか、颯ちゃんは遠慮がちに聞いてきた。
「大丈夫。決して帰って来いとも会おうとも言わないんだけど、そのふたつは三岡先生が初めにキツく禁止って言ってたんでしょ?」
「そうだ。そのふたつと、探し回ることは厳しく禁止と言われてる」
「だから、お母さんもその言葉は使わないんだけど…私が深読みし過ぎかもしれないけど…」
「いや…深読みというわけでないな…」
「…そう思う?」
「リョウの話を聞いていた時には、リョウが気遣い出来すぎるからか?とも少しは思ったが…あのタイミングで引っ越しとはな…おばちゃんの気持ちが出てるよな」
「颯ちゃんや颯ちゃんのおばちゃんたちに、うちのお母さんから文句言わなきゃいいけど…」
「それは大丈夫。もしそんなことがあっても、おばちゃんを悪くも思わない。母さんに電話してみる?」
「おはぎのお礼、言おうかな……」
颯ちゃんは私のスマホの隣に自分のスマホを並べて置くと、同じようにスピーカーにしてタップした。
‘颯佑?何やってんの?良子ちゃんと一緒でしょ?フラれたの?’
元気なおばちゃんの声に、ふっ…と二人で笑いが漏れる。
‘あんたがフラれるのはいいけど、おはぎは届けてくれた?’
「おいおい、フラれてねぇよ」
「…おばちゃん…おはぎ食べたよ。ありがとう、すごく美味しかった」
‘キャー良子ちゃーんっ、食べてくれたの?今年一番の出来事だわ。来週も作ろうか?フラれてないなら颯佑が木曜日に行くんでしょ?’
コメント
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あぁ…やっぱりお母さんとは少し、ううんだいぶペースも違うし三岡先生の話された意味もおわかりではなさそう…わからなくはないけど、心配だろうし戻ってきて欲しいだろうし…でもなんかね… それに比べておばちゃん😂佳・颯兄弟にキツく言われてるのかおばちゃんおじちゃんの考え方なのか、リョウちゃんおばちゃんの明るいパワーで元気でたね💪一緒に住むこと言おうよ〜₍₍ (ง* ॑꒳ ॑*)ว ⁾⁾