テラーノベル
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事務所で打ち合わせがあった。
今後のスケジュールや取材の確認を終え、一時間ほどでひと区切りつく。
「じゃあ、十分休憩入ります」
スタッフの声に、それぞれ廊下へ出た。
向こうから、大きな段ボール箱を抱えたスタッフが歩いてくる。
箱には、大きく『ファンレター』の文字。
「あ、お疲れ様です」
俺たちを見て、スタッフが箱の後ろから笑顔を覗かせた。
「皆さん宛に届いた分です」
「え、これ全部?」
太智が目を輝かせる。
「はい。たくさん届いてますよ。これから中を確認して、今週中にはお渡しできるようにしますね」
「ありがたいなぁ」
舜太も覗き込みながら笑う。
その瞬間だった。
箱が、少しだけ傾く。
「あっ」
誰かが声を上げるより早く、何百通もの手紙が、廊下一面へ散らばった。
「あぁっ……!」
スタッフの顔が青ざめる。
「すみません!!」
慌ててしゃがみ込もうとした、その横を。
勇斗がすっと通り過ぎた。
「大丈夫です」
落ち着いた声。
自然に膝をついて、一番近くの封筒を拾う。
急いでも、慌ててもいない。
角が折れていないか確かめるように、指先でそっと整える。
床についた埃を払うように軽くなでてから、静かに重ねていく。
まるで、壊れ物でも扱うみたいに。
俺も、としゃがみ込もうとすると、
「柔太朗はそのままでいいよ」
顔も上げずに言う。
「え?」
「そこ、埃あるから」
何でもないことみたいに言う。
自分は床へ膝をついたままなのに。
自分の服が汚れることなんて、本当にどうでもいいんだろう。
「まあまあ、みんなでやればあっという間やから!」
「そうそう!ほら、やるでえ」
太智と舜太の声に、ハッと弾かれるようにしゃがみ込む。
拾い集めた封筒を箱へ戻しながら、スタッフが申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当に申し訳ありません……」
すると勇斗は、困ったように笑う。
「謝らなくて大丈夫ですよ」
手元の一通を見つめる。
色とりどりの封筒。
丁寧に貼られた切手。
かわいい文字で書かれた宛先。
「せっかく気持ちを込めて書いてくれた手紙だから」
少しだけ折れてしまった封筒の端を指先で丁寧に整える。とても大事なものにするやり方で。
「折れたり汚れたりしたら、もったいないじゃないですか」
その言い方が、あまりにも自然だった。
「ファンレター」じゃない。
「手紙」でもない。
その向こう側にいる、一人ひとりのことを見ている声だった。
スタッフが目を潤ませながら何度も頭を下げる。
「ありがとうございます、お手紙はぜんぶ、きちんとみなさんのところにお届けできるようにしますから」
「よろしくお願いします」
勇斗は照れくさそうに笑って、最後の一通を箱へ戻した。
⸻
昔から、そうだった。
はやちゃんは、物じゃなくて、人を見る。
手紙じゃなくて、書いた人を。
仕事じゃなくて、その向こうにいる誰かを。
困っている人がいたら助ける。
誰も見ていなくても変わらない。
だからみんな、はやちゃんを信頼する。
好きになる。
そんなことは、ずっと前から知っていた。
何度も見てきた。
それなのに、今日は、どうしてだろう。
しゃがみ込んだその横顔が、とても美しいものに見えて、気付けば目が離せなくなっていた。
あんり
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あんり
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#YJ
コメント
1件
うわあ、このエピソード、すごく好きだな……🥀 勇斗くんがファンレターの箱を落としたスタッフに「謝らなくて大丈夫ですよ」って、しかも「せっかく気持ちを込めて書いてくれた手紙だから」って、折れた封筒の端まで丁寧に整えるところ、優しさが滲みすぎてて胸がぎゅってなった。柔太朗くんの「はやちゃんは物じゃなくて人を見る」っていう気づきも、すごく自然で、その横顔がきれいに見えたってシーン、ドキドキしたよ。静かな温かさが詰まった話だった🌙