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「サオリ様〜! ようこそいらっしゃいました!」
跳ねるような可愛らしい声で、カリーヌが出迎えてくれた。
先に寮に戻っていたカリーヌは、今か今かと沙織の到着を待っていたそうだ。カリーヌの傍らにはエミリーが居て、ステラも一緒に待っていた。再会を喜ぶ二人の姿を、温かく見守ってくれている。
ロビーには他の生徒もチラホラあった。
カリーヌの義姉妹のということが、もう噂になっているようだ。興味深そうに、二人のやり取りをチラチラ見ている。
「カリーヌ様、遅くなって申し訳ありません。デーヴィド先生に、学園内を案内していただきました。とっても素敵な所ですね!」
すっかり学園を気に入ったと言うと、カリーヌはとても嬉しそうに微笑んだ。
(う〜、天使の微笑みだわ! 可愛いぃっ)
寮監に挨拶を済ませると、ステラに沙織の部屋まで案内してもらう。
湯浴みを済ませたら、カリーヌの部屋へ行き夕食を一緒に取ることになった。カリーヌの部屋には、やはり公爵邸から連れてきた、お抱え料理人が居るそうだ。
楽なワンピースに着替えて、すぐ隣のカリーヌの部屋へ向かった。
この寮の最上階は、公爵家の専用フロアだ。王族の寮は別棟にある為、同学年に王族が居たとしても顔を合わせることはない。
ちなみに、当たり前だが男子寮と女子寮も別棟になっている。
久しぶりに会ったカリーヌの表情が明るく、元気そうだったことに安堵した。
カリーヌと一緒に美味しい料理に舌鼓をうち、色々な話に花が咲いた。中でも一番の話題は、ガブリエルが髭を剃ったことだ。カリーヌも、ガブリエルの髭が無い方を推していたみたいで、とても喜んでいた。
それから、公爵邸や講堂でピアノを弾かせてもらったことを話すと、紺碧の瞳をキラキラさせて、沙織の手をガシッと握る。
「私も、ぜひサオリ様のピアノ演奏を聴きたいです!」
「では、また講堂でこっそり弾かせてもらえるよう、デーヴィド先生に頼みましょう!」
近いうちにピアノを聴かせると約束をした。
「ところで、カリーヌ様。あの一件から……学園に戻られて、嫌な思いはされませんでしたか?」
そう、あの断罪の行われた宮殿のホールには、学園の生徒がたくさんいた筈だ。カリーヌが教室で、肩身の狭い思いをしていないか気がかりだった。
「私も少し不安だったのですが……。皆さん以前と変わらずで、私が消えた事をとても心配してくださっていました。全て、サオリ様が私を助けてくださったおかげです」と、カリーヌは嬉しそうだ。
「それは、良かったです!」
沙織もニッコリ微笑み返す。
(カリーヌ様は、アレクサンドルのことをどう思っているのかしら……。うーん、どのタイミングで聞き出そう)
「ただ――」と、カリーヌは悲しげに俯いた。
「スフィア様の席は無くなり……アレクサンドル殿下は、まだ学園に戻っていらっしゃいません」
「……カリーヌ様は、アレクサンドル殿下のどこがお好きだったのですか?」
「……えっ? 好き……ですか?」
カリーヌはコテリと首を傾げた。
「私……アレクサンドル殿下を、好き嫌いの対象として見たことは無いのです。小さな頃から婚約者として、厳しい王妃教育を受けてきたので、殿下を支えることが当たり前だと思っておりました。ですから、この度の事はとても悲しくて……」
(やっぱり! カリーヌ様は、アレクサンドルに恋愛感情は持っていないっ。ステファンにも、チャンス有りだわ!)
「では、カリーヌ様はアレクサンドル殿下との婚約が白紙になったとしたら……どうされますか?」
「そうですわね……。今まで頑張ってきたものが無駄になってしまうのは悲しいですが……。この世界に、突然呼ばれてしまったサオリ様の方がお辛いかと。それなのに、私の為にこの学園まで来てくださったのですもの。 私も、何か次の目標を見つけますわ!」
そう話すカリーヌの顔は晴れやかだった。
「そうですか……安心いたしました」
(カリーヌ様は、本当に素敵な女性だ……)
「ところで、サオリ様。ミシェルのこと、どう思われますか?」
「え? ミシェルですか? うーん、そうですね……カリーヌ様と同じ髪色と瞳が、とても美しくて、美少年という言葉がピッタリですね! 恋愛対象ではありませんが」
(やばいくらいのシスコンだと思っている……とは、さすがに言えないけど)
「………そうですかぁ」
しゅん……と、明らかにガッカリとしたカリーヌの表情に驚いた。
「ミシェルが、どうかしたのですか?」
「実はですね……。ミシェルとサオリ様が、学園内を移動されていたのを見た二年生たちが、とてもお似合いだったと噂していたのです」
「……はい? お似合い、ですか?」
二年生と聞いて、沙織は今日会ったディアーヌとジュリアを思い出した。
(あっ……あの二人か!)
「きっと、遠目にはそう見えたのかも知れませんね。ミシェルは、エスコートがとても上手ですので。きっと、素敵なお相手がいるでしょうから、私と噂になるのは可哀想ですよ」
全力で否定する。
(万が一にもカリーヌに誤解されたら、ミシェルは……考えるだけでも怖ろしいっ!)
「残念ですわ……。サオリ様とミシェルが一緒になったら、ずっとアーレンハイム家に居てもらえると思ったのですが」
(ああ、私はいつか元の世界に帰るつもりでいるから、それでカリーヌは……。なんて可愛らしい人なんだろう。でも、ミシェルは……うん、絶対に無理だわ!)