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真新しい制服に袖を通して、グリーンのリボンを結ぶ――。
品の良い紺色のワンピース。白いフリルの襟にはシルクのリボンをつける。スカート丈は長め。足を出しすぎないデザインで、令嬢が着るのに相応しい。
今までの高校で着ていた、普通の制服――ブレザーと、チェックの短めのスカートとは全く違う。
男子の制服は、黒のパンツ、白シャツにネクタイ、ジャケットは女子の制服と同じ紺色だ。
ネクタイとリボンの色は、一年生がレッド、二年生がグレー、三年生がグリーンで学年毎に統一されている。
髪はステラに編みこんでもらい、エレガントなハーフアップ。
身支度を終えた沙織は、鏡の前でクルリと回ってみる。
(ザ・お嬢様って感じだわ。この世界でミニスカの制服着てたら、破廉恥だと叱られそうね……)
サウナスーツを脱いだ時の、みんなの反応を思い出すと苦笑してしまう。
「よくお似合いでございます」
「ありがとう、ステラ! では、いってきます」
部屋を出てカリーヌと合流し、一緒に寮を出る。
「サオリ様、その制服……本当にお似合いです!」
やはり、褒められるのは嬉しいものだ。
「ありがとう存じます! カリーヌ様も素敵です」
「うふふっ、お揃いって嬉しいですわっ」
二人で和気あいあいと歩いていると、少し先で、ミシェルが木に寄りかかり姉達を待っていた。その姿は余りにも様になっている。
(ちょっとシャクだけど、カッコいい。男なのにあの美しさって……羨まし過ぎるわ)
「おはようございます。カリーヌ姉様、サオリ姉様」
「「おはよう、ミシェル」」
ミシェルは、じぃーっと沙織を見たかと思うと……一言。
「サオリ姉様、制服がよくお似合いですね。カリーヌ姉様ほどではありませんが」
後半部分はカリーヌに聞こえないよう、小声で沙織だけに言った。
(昨日の話……うん、やっぱりミシェルは絶対無いな!)
「ありがとう存じます、ミシェル」
軽く受け流した沙織は、二人と一緒に学園に入って行く。
美貌の公爵姉弟のカリーヌとミシェルに、黒髪黒眼の美(?)少女の沙織が並んで歩く姿は、注目の的だった。
二年生の廊下を通ると……昨日の二人の令嬢が早速やって来て、沙織たちに挨拶をする。
「「おはようございます!カリーヌ様、ミシェル様、サオリお姉様っ!!」」
「おはようございます、ディアーヌ様、ジュリア様……」
(んん!? 最後、私だけ敬称がおかしくなかったか?)
ディアーヌとジュリアは、頬を染め嬉しそうにお辞儀して去っていった。
思わずミシェルに目をやると、肩を竦めている。カリーヌは、またもやキラキラした瞳で沙織を見ていた。
「流石ですわ、サオリ様! もう、お友達がお出来になったのですねっ」
「ははは……そのようですわ」
ミシェルとはそこで別れて、沙織とカリーヌは三年生の教室へ向かう。
扉を開けて教室に入ると――カリーヌと、その隣に立つ沙織に気づいた生徒達の間に静寂が広がった。
このクラスで、一番地位が高いのは王太子のアレクサンドル。次いで、公爵令嬢のカリーヌだ。クラスメイトと言えど、そこは貴族社会。馴々しくは出来ない。ちなみに、このクラスは王族がいる為、平民の生徒はいないそうだ。
一人の女生徒がこちらにやって来る。
「おはようございます、カリーヌ様」
ニッコリと挨拶するのは、小柄で大きな瞳の少し幼く見える可愛い顔立ちの女の子。ツインテールの髪型が、更にそれを際立たせているのかもしれない。
「おはようございます、イネス様。こちらは、今日からこの学園に入った、サオリ様です」
カリーヌから、沙織を紹介してもらった。
「サオリ様、私はイネス・ランベールと申します。カリーヌ様からお聞きして、お会い出来るのを楽しみにしておりました」
「サオリ・アーレンハイムと申します。これから、よろしくお願いいたします」
イネスは侯爵令嬢で、カリーヌの良き友人だそうだ。美人のカリーヌと、可愛らしいイネスは一見すると正反対みたいだが、二人共ほんわかした優しい性格だ。
会話を聞いていると、それがよく伝わってくる。
(癒されるなぁ〜)
三人でお喋りをしている姿を見て、他の生徒達のピリっとした雰囲気も無くなった。先程の空気感が、黒い髪や瞳の色が原因だと、沙織自身よく解っているので気にもならない。
カリーヌの隣に用意された席に、荷物を置いて座る。
何気なさを装って、教室内を見回す。
数人ずつのグループがあったり、一人で席に着いていたり、普通の高校生と何ら変わらないように見えるが――きっと、近い身分の者同士が集まっているのだろう。
後ろの方の窓際では、深紫の髪に眼鏡をかけたインテリ風のイケメンと、クセのある赤茶髪で筋肉質の大柄なイケメンが立ち話をしていた。
(――居た。ヒロインの攻略対象、セオドアとオリヴァーだ。確かこの二人は、断罪の時にアレクサンドルとスフィアの側に立っていた。……私があの時の、黒尽くめだとバレないといいけど)
二人は真正面から沙織を見たはずだ。
セオドアとオリヴァーに気付かれないよう、すぐに視線を外してカリーヌ達との会話に戻る。
暫くすると、チャイムみたいな鐘の音が聞こえた。
生徒達が自分の席に着いた頃、担任のデーヴィドがやって来た。沙織を見つけると、熱のこもった視線で口元に甘い笑みを浮かべる。
デーヴィドは簡単に朝の挨拶をすると、沙織を前に呼んで皆に紹介をした。
快適な学園生活を送れるよう、ガブリエルの配慮で、紹介の内容は事前に教師側に伝えられている。
デーヴィドは、沙織がアーレンハイム家の養女で、黒髪の多い友好国から来た親族であること。魔力が高く優秀だと紹介した。
(まぁそう言っておけば、私に嫌がらせする人間はまず居ないだろうけど。ただ、優秀っていうのは…… プレッシャーだわ。本当に私に魔法が使えるのかしら?)
沙織はクラスメイト全員を見渡し、公爵令嬢に相応しい仕草と最高の笑顔で「よろしくお願いいたします」とお辞儀した。
セオドアとオリヴァーの反応も、しっかりと確認しながら――。