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朝。
窓の外では鳥のさえずりが静かに聞こえていた。
布団の中、みことはシーツに顔をうずめたまま、ぴくりとも動かない。
「……みこちゃん、起きて」
すちが優しく肩を叩くが、返ってくるのはくぐもった声。
「むり……体が……おもい……」
「そりゃそうだろうね。昨日、あれだけ……」
言いかけて、すちは口をつぐむ。
みことの寝癖だらけの頭を見て、つい笑ってしまった。
「可愛すぎるよ……もう」
「笑ってる……すちくん、なんでそんな元気なの……ずるい……」
すちは苦笑しながら、自分も実は腰がちょっと重いことを黙っていた。
内心では「ヤバいな……張り切りすぎたかも」なんて反省している。
でも、みことがぐったりとしながらも幸せそうな顔で「すちくん、すちくん……」と寝言のように呟くのを聞いて、
「ま、いっか。俺も……完全に落ちたなぁ」と心の中で笑った。
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朝食を終えたふたりは、ロビー近くの売店で小さなお土産を見ていた。
すちは浴衣の上に羽織をかけ、みことは少し顔を赤らめながらも隣にぴったりと寄り添っていた。
昨夜の余韻が残っていて、ふたりの空気はいつもより、どこか甘い。
「これ、すっちーに似合いそう……」
「いや、それみこちゃんが欲しいだけでしょ」
そんなやりとりをしていると、すっと後ろから旅館の女性スタッフが近づいてきた。
「おふたり、昨夜はごゆっくりお休みいただけましたか?」
みことはビクリと肩を揺らし、顔が一気に真っ赤になる。
すちは一瞬固まったあと、涼しい顔で答えた。
「はい、おかげさまで。とても静かでいいお部屋でした」
「それは何よりです。……あっ、でも少しお部屋から物音が……その、盛り上がっていたようで」
みことの耳が一気に真っ赤になり、慌てて売店の商品棚の影に身を隠す。
すちは咳払いを一つして、軽く会釈した。
「……あぁ、ゲームで盛り上がってまして。ちょっとはしゃぎすぎたかもしれません」
「ゲーム、ですか……ふふ、最近はそれも人気ですものね。お気をつけてお帰りくださいませ」
スタッフが去ったあと、みことがそろそろと顔を出す。
「すっちー……ほんと、終わったかと思った……!」
「平常心が大事だって、いつも言ってるでしょ」
「言ってるけど!無理だよあんなの……っ」
みことはまだ顔を覆いながら文句を言っていたが、 すちはその姿を見て微笑んだ。
「……でも、ちょっとドキドキしたね?秘密の関係って、そういうとこも悪くない」
「……すちくん、やっぱりちょっと意地悪」
そう言いながらも、みことの口元は少し笑っていた。
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車内は、心地よい静けさに包まれていた。
山道を抜けて街へと戻る高速道路。
外の景色が流れていく中、みことは助手席で窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……なんか、あっという間だったね」
すちがハンドルを握ったまま、ちらりとみことを横目で見る。
「そりゃ、寝てる時間が長かったからね。主にみこちゃんが」
「……それ言う……?」
「事実」
みことはふくれっ面で腕を組み直し、でもそのまま言葉を続ける。
「……でも、ほんとに、楽しかった。全部」
「俺も。……正直、帰りたくないな」
「……ね」
ふたりの間にまた静けさが流れる。
けれどその沈黙は重くなく、むしろ心地よい距離を保っていた。
しばらくして、みことがぽつりとつぶやいた。
「次、いつ行けるかな……また、ふたりで」
すちはブレーキを軽く踏みながら答える。
「次の連休、見ておくよ。もっと長く、ゆっくりできる場所がいい?」
「うん。温泉もよかったけど……次は海とかもいいな」
「みこちゃん、海水浴とか絶対すぐ疲れるんだろうな」
「じゃあ、部屋にこもってればいいじゃん。……すちくんと、ふたりなら、それだけでいい」
すちはハンドルに視線を落とし、少しだけ頬を緩めた。
「……そう言ってくれると、調子乗るよ?」
「乗っていいよ」
「じゃあ、次は……もっと大胆に計画するか」
「な、なにその意味深な言い方!?」
みことが慌てる声に、すちの低い笑い声が響いた。
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