テラーノベル
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「初めからわかっていたんです。あなたが何を考え、何をしようとしているのか……」
玲奈は布巾から手を離し、ゆったりと穏やかに、人差し指で自身の頰から唇を愛撫した。その第二関節から第三関節を唇で咥えた。そのまま龍は、前牙でそれを噛む。唇に乗っていた指先までもが口の中に入れられ、赤子のようにそれを吸った。先刻までの彼女からは想像できないほどの、下品と穢れ。
一歩。また一歩と迫ってくる彼女に、私は抗うどころか動く事すらできなかった。その圧倒的とも呼べる威圧に下ってしまっていた。
長い舌に指先を乗せ、そのまま外へ出される。不快な透明度と粘度を兼ね備えた液が、指全体を絡めている。彼女はそれを拭き取ろうというのか、そのまま舌で舐め取った。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。
――高月玲奈。晃一さんと同じ人事部、その先輩です。あなたは?」
肌が一気に寒気を覚え、産毛に至るまでの全身が、彼女の存在を否定している。
しっかりしてよ私。お願い、お願い! この心に封じた愛は偽物だというの?!
彼女は先程の汚れた指を私の唇に付けた。
「私と彼で、一昨日ホテルに行ったんです。そこで晃一さん、特別なキスをしてくれて……。だから、お裾分けしなきゃ」
高月玲奈、彼女――いや、コイツは化け物だ。だが、この奇妙な感覚を私は知っているぞ。この、私たちの暮らす世界の向こう側であり、本質でもある、常識などの他の通用しない、この感覚は【エゴ】。
「私とあなたは同志。合ってますよね? 私、仲良ししたいんです。頑張って考えて、私を揺れ動かそうとする姿勢に私、感動しました! はいっ、拍手ー!」
小説を書く時、散々身に宿し、吹き込んだエゴ。もう何年もそれはしていないが、動画を作る際の台本づくりや、あの日しのちゃんが見せてくれた小説のおかげで、きっとどこかに、まだその残滓があるはず。
それならば、まだ戦える。剣を握れる。
「自己紹介、でしたね? ……はじめまして。
久我美蘭改め、旧姓:誉田美蘭。今後ともよろしくお願いします」
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