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社長室に入るなり、聖壱さんによって身体をソファーへと投げ出される。
「大事な妻とやらをあまり乱暴に扱わないでくれない? 確かに口が悪かったかもしれないけれど、今回は私の方が被害者なのよ」
ちゃんと分かってるわよ。聖壱さんは私のとった行動が、貴方の妻としてふさわしくないから怒っているんでしょう?
だけど今回の事は刀山さんが執拗に私を煽ってきたのも、こうなった理由の一つじゃないの? 私はてっきりそう思っていたのだけれど……
「そうじゃない。香津美、お前は俺が怒ってる理由がちゃんと分かっていない」
聖壱さんはそう言って、ソファーに倒された状態の私に覆いかぶさってきた。
……ちょっと待って!? ここは社長室よ、聖壱さんは会社では公私混同はしないんじゃなかったの⁉
「り、理由? 考えるから私の上からどいて頂戴!」
近い、聖壱さんとの距離が近すぎるのよ。私は慣れない状況に焦ってしまい、頭がきちんと働いてくれない。
「駄目だ。香津美は俺の言う事をきちんと聞こうとしていない。だから……」
聖壱さんの言う事を聞いてないわけじゃないのよ。あの時は刀山さんの態度にイラついて、ちょっとだけ忘れていただけなのよ。
今、聖壱さんはいつもみたいに自信満々な笑みを浮かべていない。笑みどころか、怖いくらいに無表情で……
「だから……?」
「香津美には俺の言う事を聞かなかったらどうなるか、今からしっかり教えておこうと思ってる」
恐ろしい事を言い始めた聖壱さんから少しでも離れようと、必死で彼の胸を押してみるけれどビクともしないの。聖壱さんの冷たい瞳、彼がいま何を考えているのかが全く分からなくて……
「冗談じゃないわよ、脅せば私が素直に貴方の言う事を聞くとでも思っているの?」
「俺は冗談を言ってるつもりは無いし、脅してるつもりもない。香津美にちゃんと夫婦とはどうあるべきかを教えるだけだ」
教えるって……何を? イヤな予感しかしなくて、背中につうっと汗が流れた。真剣な様子の彼がこのまま止めてくれるとも思えない。だけど……
「どうあるべきかですって? そんなの全てにカップルであり方が違うはずだわ。これが私たちの夫婦関係だと思えばいいじゃない」
「香津美には悪いが、これは俺は譲れない。愛しい妻が危険な事をしないように教えてやるのは夫として当然のことだろう?」
つまり聖壱さんは私が刀山さんを怒らせ手危険な状態になったこと、それをとても怒っているみたいで。危ない事をしたのは認めるわ、だけど……
「……これは私の元々の性格なのよ? 貴方はこんな私を好きだって言ってくれたんじゃないの?」
こんな気が強くて我が儘な私でも、夫に特別に想われているのかと少しだけ嬉しかったのに。やっぱり聖壱さんもこんな妻では安心出来ないってこと?
「香津美の性格を変えて欲しいわけじゃない。強気な我が儘も俺の前なら好きなだけ言えばいい。だが……香津美が今後、危険な事をしようとするのを許すつもりはない」
聖壱さんが私の事を心配して言ってくれてるのは分かる。だからって、そんなに過保護にならなくても……
「貴方が私の事を気にしてくれるのは嬉しいわ。だけど、私だって大人の女なのよ? 自分の事は自分で何とか出来るつもりよ」
「分かってる、香津美は強い女性だ。それでも……お前の事は俺が守りたい」
守りたい? 気が強くて性悪女だとばかり言われるような、こんな私を?聖壱さんの瞳を見つめ返すけれど、まっすぐな彼の眼は嘘をついているとは思えない。
「私は、守ってもらうほど弱くは……」
何度か周りの人に言われたことがあるわ。「香津美さんは強いから一人で大丈夫だね」と。強い私は守ってもらう訳にはいかないの。
「そうじゃない、俺にとって香津美が強いか弱いかは関係ない。お前の事が好きだから守りたい、それだけだ」
聖壱さんは今まで私が言われてきたことと反対の事ばかり言ってくるの。嫌われてばかりの私を気に入り、危険な事はするなと怒る。そして今度は、今まで守る必要はないと言われてきた私を守りたいなんて……
「そんな事言われても……困るわ」
こういう時、私は素直に「嬉しい」とか「ありがとう」が言えないの。私は今まで強がって「一人で大丈夫」だと言い続けてきたから。
「夫が愛する妻を守りたい、これは当たり前のことだ。ゴチャゴチャ言わずに香津美も少しくらいは俺に守られてろ」
私の大嫌いな命令形なのに、胸がキュウってなるのはどうして? 私も本当はこうやって誰かに守られたかったの?
「え、偉そうに言わないでっていつも言ってるでしょ? 私は別に貴方に守られなくったって……きゃっ!」
こんなに言ってくれてる聖壱さん相手でも、やっぱり素直になれない。だけどいつものように可愛くない返事をしていた途中、聖壱さんがいきなり私のスーツのジャケットの中に手を入れてきたの!
「やはり俺にキチンと教えられないと言う事を聞く気が無いって事でいいんだな、香津美?」
聖壱さんの射貫くような瞳に見つめられ、さすがの私も体が震えた。この人……本気で私を躾ける気だわ。
腰のラインをゆっくりとなぞって少しずつ上へと進んでいく聖壱さんの両手。身体を他人に触られることがほとんどなかった私は、その感覚に戸惑い泣きたくなってしまう。
「聖壱さ…んっ! こんな事は……」
「俺に守られるって言え、香津美。言うまで、終わらないぞ?」
シャツの上から大きな手が少しずつ胸のふくらみに近付いて来る。どうすればいい?何といえば聖壱さんを止められる?
とうとう彼の指が私のシャツのボタンを外しにかかった、その時――――
【コンコン、カチャリ……】
社長室のドアがノックされ、こちらの返事を待たずにそのまま開かれた。
「……何をしてるんですか、聖壱。僕はここをお前の仕事場だと記憶していましたが?」