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それは、数えてしまえばたったの数秒で、一瞬で。それだけで私は狂うほど幸せになれてしまうのだ。
それが、それこそが一番の愛の証明だった。
ねぇ、私は。貴方となら何処へだって堕ちて行けるんだよ
貴方のいない天国と貴方がいる地獄を天秤に乗せたとしても
私はきっと後者を選ぶよ
だから、もう泣かないで
◆
良い子はすっかり寝静まった深夜。
パソコンのモニターと月だけが光っていた
カチ、カチ…とゲーム音が鳴り響く。
順調に淡々とタスクをこなし、すれ違った人や状況をしっかり覚える。
…なんというか、つまらない。
近アモだったら皆と話せるのにな…なんて考える。が、考えてもどうしようもないので再び画面に集中する。
…あ、mmさん来た。タスクかな。いや、白確定じゃないし怖い…。このタスクは後にしよう。
そう思い、元の方向から違う方向へと向かおうとした…
のだが。
『 うっわ、殺された… 』
『 動画使えねぇだろうがこのくそ村長 』
死んでしまったからには迷惑かけない為にもタスクを進めていく。
『 あーあ、最近全然撮れ高ないなー…ストック使うか 』
こんなこと考えてたらタスクしろ!って怒られそうだけど、もう死んでるんだし後回しにしたってどうでもいいよね。さっきと矛盾してるけど。
◆
アモアスも終わって、今日は少し早めにゲームを終わらせた。夜にやりがちだが、メンバーの殆どは学生だ。私も学校があるし、支障がでては良くない。
ブーッ
ふと、通知音が鳴った。その発信源はスマホだった。
mm< ltさん、このあと時間ありますか?
送り主は村長で、同じ学校でもあるmmさんだった。なんとなく、急ぎめに返信する。
lt< 何か用ですか?内容によって変わるんですけど
我ながら可愛くない返事だなとは思う。
一瞬躊躇うが、まぁmmさんだし。と思いそのまま送信する。
すると、1分も待たないうちに返信が帰ってきた。
mm< 明日の夜、デート行きませんか
…私とmmさんは付き合っている。
といっても、珍しいことにお互いαだ。いつかは離れてしまう運命なのだろうけど、それまでの間はずっとずっと離れたくない大切な人。
でも。
お互いαだから運命の相手がいつかは出てきてしまうのだろう。嫌だ。mmさんの全ては私がいい…なんて。
運命には抗えない。そう自覚してしまう。やだ、やめよう。こんなこと考えたくもない
lt< いいですよ、行きましょ。でも学校で言えば良くないですか?
mm< 直接言って欲しかったですか?
lt< …やっぱやめて下さい。学校で声かけられたら周りにころされますよ…
リアクションがつき、おそらく了承してくれたと見て、電源を落とした。
…私の恋人は、私なんかにはもったいないくらいの人だ。
容姿端麗、頭脳明晰、その上運動も何もかもできてしまう。人気者で、αの代表みたいな、そんな存在だった。
同じα、なんだけどな…
私は全然そんなことなくて、ただ人より少し顔が可愛いくらい。自分で言うのもあれだけどね。
そんな私が声をかけられたら…。周りの反応を考えてゾッとする
こんなくらいなら、Ωになりたかった。
Ωに聞かれたら怒られそうだ。Ω達も世界から拒絶され大変だと言うのに。
近年ではその考え方も変わってきているのだというが。
私はいよいよ眠気に耐えられなくなって、そのまま目を閉じた。
◆
あっという間に学校が終わり、なんとなくやってる部活も終わって、mmさんと待ち合わせする。
数分遅れてきた彼女は薄く笑いながら、良く似合うワンピースを着ていた。
「 行きましょ、ltさん 」
手をひかれる。
彼女の瞳には、私しか映らない
幸せだ。
手の温もりも、暖かい視線も、全てが心地よい。
…今なら私、死んでもいいや
◆
適当に美味しいご飯を食べて、夜景の綺麗な場所に行く。
今までのデートと同じ、それなのに新たな発見ばかりで楽しい。
…好き、だなぁ。
って、他人事みたいに呑気に考えてた、その時だった。
少し前を歩いていた人がいきなり倒れてしまった。
おもわず、急いでかけよる。後を追ってmmさんも。
『 大丈夫ですか!? 』
顔を覗き込めば、頬が紅潮してる男の人と目が合った。
…まって、これ__
ガクン、と力が抜ける感覚があった。
脳が、訴える。
『 …ヒー、ト? 』
?「 …!すみませ、ん、はな…れてくださ…ッ 」
生憎私もmmさんもαだ。怖がった様子で拒絶された。
どうすればいいのか分からず,立ち尽くしているとmmさんが声を上げた
「 すみません!!βかΩの方…!!手伝って下さい!誰か抑制剤を!!!… ぇ 」
そう、彼女が叫んだ直後。
男とmmさんの目が合った
そのまま、2人の目線は外れることなく熱いまま交わる。
その時点で、全てを悟ってしまった。
ずっとずっとずっと恐れていたことが、今起きてるなんて信じたくなかった。
羨望、嫉妬、妬み
色々な感情が入り乱れる
知りたくなかった。全部間違いだと信じたい。
「 …あの、連絡先…教えてくれませんか 」
mmさんが小声で言った。恐らく私への配慮だろう。聞こえないふりをした。
懸命に、その声を、相手の返事を、助けを求める声でかき消した
あぁこの人は、きっと…
…mmさんの、運命の人、なんだな
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