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なるほど🧐でもなぜ芳乃ちゃんは覚えてなかったんだろう🤔
気が済むまで泣いてボーッとしていると、暁人さんがホットミルクを作って「どうぞ」と手渡してきた。
「……ありがとうございます」
起き上がった私は、少し蜂蜜の入ったそれをありがたく飲み、溜め息をつく。
「……私、暁人さんを傷つけていましたか? 『覚えていない』と言われても心当たりがなくて……。本当に、ごめんなさい」
私はまず、彼に謝った。
暁人さんと話し合って今後の自分の身の振り方を考えるなら、まずはお世話になった人に感謝と謝罪をし、それから前に進むべきだと思ったからだ。
「芳乃先生」
と、いきなりそう呼ばれて私は目を丸くする。
驚いて暁人さんを見ると、彼は苦笑いしていた。
「芳乃さん、大学生の時に家庭教師をしていましたよね?」
「え……、ええ」
いきなり大学生時代の事を指摘され、私は戸惑いながらも頷く。
確かに私は、大学時代にアルバイトとして家庭教師をしていた。
「でも、どうして……」
「……再会して思いだしてもらうまでは……、って思っていたけど、仕方ないか」
暁人さんはそう言うと、〝昔〟の事を語り始めた。
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俺――神楽坂暁人は、神楽坂グループの御曹司として生まれ育った。
母の旧姓は|仁科《にしな》と言い、仁科家も代々ホテル業を営んでいた。
両親はお見合い結婚だったが馬が合ったらしく、幸せな結婚生活を送り、長男として俺が生まれた。
幼等部から通い始めた学校は、エスカレーター式の富裕層向けの所だった。
同級生は、俺と同じように金持ちの子息、令嬢たち。
成長するにつれて告白される事もあったが、自分と似た環境で育った女の子に興味は持てなかった。
それが悪い訳ではないし、いずれ自分もどこかの令嬢と結婚する。
けれど恋愛が自由な学生時代ぐらいは、変わった価値観を持つ人と触れ合い、視野を広めたいと思っていた。
芳乃と出会ったのは、俺が高校生の時だった。
『最近成績伸びたみたいだけど、どうしたんだ?』
俺が尋ねたのは、親友の|幸治《こうじ》だ。
彼とは家が近い事もあり、幼馴染みとして接していた。
幸治とは価値観が合ったし、成績こそ競い合っているものの、他はヒリヒリとした感情を持たずに接する事ができて、心地いい関係にあった。
俺に聞かれた幸治は、嬉しそうに表情を輝かせる。
『伸びたって思う? よし! 最近、T大のお姉さんに家庭教師してもらってるんだよ。教え方がうまいし、俺も綺麗なお姉さんが相手だと〝結果出したろ〟って思うから、相乗効果かな?』
『不純だなぁ』
俺が呆れて笑うと、幸治もケラケラと笑う。
『……でも、家庭教師でそんなに成績が上がるなら、アリかもな』
俺は考えるふりをしつつ、幸治の肩を組む。
『で、どんだけ美人? 写真持ってる?』
『暁人も不純だろ!』
二人で笑い合ったあと、幸治は『ホームパーティーの時の写真』と言って、家庭教師の写真を見せてくれた。
液晶画面に写っているのは、艶やかな黒髪ロングの美人だった。
服装はベーシックな感じで、あまりお洒落を気にしているタイプには見えない。
品のある顔立ちをしていて、雰囲気がとても〝綺麗〟だ。
笑顔がとても素敵で、素直に「美人だな」と魅力を感じた。
『彼女、三峯芳乃さんって言うんだ。ちょっと抜けたところがあって危なっかしいけど、そこがまた可愛いよ。擦れてないっていうのかな。でも頭はいいし、教え方がマジで上手い』
『芳乃……さん』
俺は食い入るように画像を見て、彼女の名を呟く。
『もしかして一目惚れした?』
からかうように言われても、いつものように軽口を叩けなかった。
幸治に言われた通り、俺は写真を見て芳乃に一目惚れをしたのだ。
『……年下、嫌いかな?』
真剣に言う俺を見て、幸治はからかうのを止めてまじめに答える。
『彼氏はいないっぽいぞ?』
『ホントか?』
俺はしばらく、どうすれば芳乃に近づけるか真剣に考えていたが、これしかないと思って親友に尋ねた。
『芳乃さんを家庭教師として紹介してもらってもいいか? 幸治の成績が上がったって言えば、親も前向きに考えてくれると思うんだ。勿論、彼女の顔を潰さないように、勉強はまじめに頑張る』
そう言うと、親友はポンと肩を叩いてきた。
『協力してやるよ。でも家庭教師と恋愛関係になったって言ったら、芳乃さんの信用に傷がつく。その辺りは上手く考えろよ?』
『分かってる。ありがとう』
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