「ひばり、行くよ!」
「おう、ばっちこい!」
幼い頃、渡会雲雀とはいつも一緒だった。
イタズラして先生に怒られたり、かくれんぼで全然見つからなくて焦ったり。
私にとって彼は特別で、誰よりも一緒にいたい存在だった。
でも、大人になるにつれて、いつの間にか話さなくなっていた。
会えば軽く挨拶するくらいで、気づけばそのまま疎遠になった。
忘れたわけじゃない。
むしろ、ずっと心のどこかに引っかかっていた。
――私の初恋の人、渡会雲雀。
ある日、道を歩いていると、目の前に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「……雲雀?」
思わず名前を呼ぶと、その背中がピクリと動いた。
振り向いた彼は、一瞬驚いたような顔をした後、懐かしそうに笑った。
「おー! 夢主じゃん! 久しぶり!」
私の肩を軽く叩きながら、昔と変わらない笑顔を見せる雲雀。
――いや、昔よりも少し大人っぽくなった気がする。
「元気してた?」
「まあね。あんたこそ、相変わらずだね」
「おいおい、もうちょいカッコよくなったとか言えよ!」
そう言って笑う彼を見て、胸がズキンと痛んだ。
懐かしい。けど、それ以上に、また話せたことが嬉しい。
それから、私たちはちょくちょく会うようになった。
昔の話をしたり、くだらないことで笑ったり。
「夢主、覚えてる? あの時、俺らで学校の放送室ジャックしようとしたやつ」
「バカすぎて思い出したくもないんだけど」
「でも、あれ楽しかったよなぁ」
変わらない雲雀に、私はどんどん惹かれていった。
――でも、それは子供の頃とは違う気持ちで。
ある日、彼がふと真剣な顔で言った。
「俺さ、やっぱ夢主と話してると楽しいんだよな」
胸が跳ねる。
「……そりゃ、昔から一緒にいたしね」
「いや、それだけじゃなくてさ……なんていうか、落ち着くっていうか」
雲雀は少し照れくさそうに笑った。
落ち着くだけじゃない。
私は、もう一度、彼に惹かれている。
幼い頃とは違う、恋としての気持ちに。
――ねぇ、ひばり。
もし、私があの頃と違う関係になりたいって言ったら、どうする?
そんな言葉が、喉元まで出かかるけれど、まだ言えなくて。
ただ、彼の笑顔を見つめることしかできなかった。
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