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翌朝――。
うきうきと、カリーヌは軽い足取りでやって来た。
「サオリ様、おはようございます！ リバーツェの名前、決まりましたわっ。聞いていただけますか？」
カリーヌは、ふふふと嬉しそうに微笑んだ。
「『リュカ』にしました！」
「リュカですか？」
「はい！ 意味は、光を与えるものですの」
「とても素晴らしい名前ですね！」
「ありがとう存じます。この、可愛らしいリュカが、素敵な未来を運んでくれそうでしょう？」
（確かに、リュカが……いや、ステファンが、カリーヌに素敵な未来を見せてくれたらいい――）
そう沙織は思った。
足下を見ると、リュカという名前を貰ったステファンリバーツェが、本当に嬉しそうにカリーヌを見上げている。
カリーヌはしゃがみ込んで、フワフワのリュカの頭や首元を撫でる。されるがままに、目を細めて気持ち良さそうにしているが……。
（これは、ただカリーヌに見惚れているだけだな……）
リュカが寮を出入りできるように、窓を細く開けておくと、癒しのひと時に満足したカリーヌと共に、学園へ向かう。
（まあ。ステファンだし、人間に戻れば自分で、窓でも扉でも開けて出て行けるとは思うけど……）
女子寮で、うっかり男性の姿が見られてしまったら、きっと大騒ぎになってしまうだろう。沙織もそんなリスクは冒したくはない。
見た目はカワウソそっくりだが。木の上で生活するリバーツェは、リスに近いのか塀も軽く登れるようだし、問題はないだろう。
男子寮の前で、いつものようにミシェルと合流すると……ちらりと探るような視線を沙織に送ってくる。
「サオリ姉様、リバーツェをお飼いになったのですか？」
いきなりの質問に、思わず後退る。
「な……何故、それを？」
ミシェルは、ニヤリと口角を上げる。
ステファンリバーツェがやって来たのは、昨夜のことだ。同じ寮のカリーヌならまだしも、男子寮のミシェルがなぜ知っているのか……。
（なんて情報の早さ！ 恐ろしい子っ！）
おっとりカリーヌは、ミシェルの質問に全く疑問を持っていない。
「そうなのよ、ミシェル！ と〜っても、可愛らしい子なの。名前はリュカよ。ミシェルも可愛がってあげてね」
（いやいやいやいや！ もしも、リュカがステファンだと、ミシェルにバレたら……ひいぃ！！ 絶対に会わせないようにしなきゃっ）
途中でイネスに会い、カリーヌとイネスはリュカの話で盛り上がっているが、沙織は気が気でない。
ミシェルがこっそり耳元で囁いた。
「昨夜、宮廷のステファンの所へ行かれたのですか？」
ゾワッと鳥肌が立った。
声優ばりの良い声と、美形の顔が近くに来たせいでもあるが。
（コッソリと行った、私の行動まで知られているとは……）
それを知っているのは、当事者の沙織とステラのみ。
とはいえ、ステラはガブリエルに報告をしているはず。ミシェルは、そっちから聞いたのかもしれない。
（もしも、ミシェルが……学園のことを、逐一ガブリエルに報告し、情報を共有しているのなら？）
ステラがガブリエルに伝えた内容は、ミシェルの耳にも入ると思った方が良い。さすがにステファンが王子だとは、身内でも言わないだろうが。
「はい、行きましたよ。ステファン様に、魔法の扱い方のアドバイスを貰ってきました。今日の実習で、失敗したら大変でしょう？ 私、魔法なんて一度も使った事がないですから。ね？」
「なるほど。それで、使えるようになりましたか？」
「ええ、ステファン様の結界を壊せるくらいには。結界があんなに簡単にバラバラになってしまうなんて、ビックリです。あれでは、襲われたら危ないですよね？」
「……は？ ……彼の結界を？」
沙織が頷くと、ミシェルは呆れたような視線を向ける。
「いいですか。実習でそれは、絶対にやらないでくださいね。とにかく、魔力は少なく使ってください。持っている一割程度の量で十分ですから」
しつこいくらい念を押されて、ミシェルと別れた。
教室に入ると、オリヴァーがニコニコしながらセオドアを連れてやって来た。
「おはようございます！ サオリ嬢！ 昨日は、大変失礼しました。こっちは、セオドアっていいます」
「サオリ嬢、セオドア・エヴァンズと申します。今日の実習は同じチームですので、宜しくお願いします」
「セオドア様、よろしくお願いいたします。私、セオドア様とオリヴァー様と、一緒のチームなのですね？ 実習は初めてですので、色々と教えてくださいませ」
「「お任せ下さい」」と、二人はそれだけ言うと、自分達の席へ戻って行った。
間近で見たセオドアは、深紫の髪をキチッと結び、銀縁眼鏡がより神経質そうな印象を与えた。
オリヴァーとは真逆。細身でスラっとした、整った顔立ちのイケメンだった。
どうやら、実習は三人一組で行うらしい。
（カリーヌやイネスと一緒じゃなくて残念……）
沙織が入ったのは、スフィアが抜けたチームのようだ。
カリーヌとイネスは、アレクサンドルと一緒のチームだが、アレクサンドルは来ていないだけなので、欠席の扱いだった。
（それにしても。アレクサンドルは、どこへ行ったのかしら？）
実習が始まれば、オリヴァーとセオドアともっと接触できるので、探りを入れるチャンスかもしれない。
ちなみに、その授業の担当はデーヴィドだった。
（何だか、ヒロインの攻略対象が多いなぁ。実習……何も起こらないといいのだけど。不安だわ――）
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