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実技の授業は二時間目からだった。
女生徒は、乗馬服に着替えてから訓練場に集合だ。
(実習室ではなく訓練場? それに、なんで乗馬服……馬にでも乗るのかしら?)
沙織は全く理解出来ないまま、更衣室へ向かう。制服と一緒に届けられていた、乗馬服に着替えた。
サウナスーツ以来の、久しぶりのパンツスタイルだ。実習用に、髪はポニーテールにしてある。
更衣室から出ると、同じ服装のカリーヌとイネスが待っていた。
「やはり、サオリ様はお似合いだわ!」とカリーヌ。
「カリーヌ様の仰った通りですわ。本当に女性騎士のようで素敵過ぎます!!」
イネスまで興奮気味だ。
他のクラスメイトからも、きゃあきゃあ言われたり褒められたりで、沙織は少し気恥ずかしくなる。
この学園では、体育着的な役割りで乗馬服を着るらしい。騎士服以外に、貴族女性のズボンは乗馬用の服しか無いようだ。
(確かに騎士服よりは、まだ乗馬服の方が需要はありそうだけど……色々と不便な世界だわ)
みんなで訓練場移動すると、着替えの早い男子生徒達はもう揃っていた。
やって来た沙織を見た男子生徒が息を呑む。
身体の線が出やすい乗馬服を、スタイルの良い沙織は着こなしていた。出る所はちゃんと出ているが、引き締まった体つきは剣でも持てば――正に女騎士のようだった。
当の沙織は全くの無自覚だったが……。
全員が揃ったとこで、それぞれの実習チームに分かれた。
「サオリ嬢は、剣でも習ったことがあるのですか?」
唐突にオリヴァーが質問してきた。
「剣ですか? 習ったことありませんわ」
意味が分からず首を傾げる。
「……全く。オリヴァーは言葉が足りなくて申し訳ありません。乗馬服がよくお似合いだったので、まるで騎士のように見え、剣でも習っていたのかと訊きたかったのだと思います」
セオドアが訳してくれた。
「まあ! 似合っているとお褒めいただき、光栄ですわ」
とは言ったが。
(……体育着的な服装を褒められて、喜ぶべきなのか? そりゃ、もともとパンツスタイルの方が好きだし、伊達にジョギングやボクササイズしてませんけどね)
――鐘が鳴り、デーヴィドがやって来た。
デーヴィドは沙織の凛とした姿に一瞬見惚れたが……ハッとして表情を取り繕うと授業を始めた。
実習の内容は、魔力障壁を作るというものだった。魔力を纏わせた壁、それが魔力障壁。
沙織たちは最終学年の三年生のため、実習は今まで習ってきた応用編のようだ。
(魔力による攻撃を跳ね返す為のものだから、大きな盾……みたいな感じかな?)
結界はもっと大きな範囲のもので、物理攻撃にも対応可能らしい。
取り敢えず、どちらも身を守る為に覚えておきたい――そんな思いで沙織は熱心に授業を受けた。
グループで一人ずつ順番に障壁を作り、残り二人で魔力による攻撃を行い、強度を確かめる。
これではスカートはやりにくい。やっと着替えた意味がわかった。
このチームは、転入生の沙織に配慮したデーヴィドの指示で、手本となるようセオドアから行った。
セオドアは、両手を伸ばして魔力を放ち障壁を作る。透明感のある、盾のような壁がセオドアの前に出来上がった。
隣からデーヴィドが声をかけてきた。
「やはり、セオドア君は魔力の扱いが上手だね。サオリさんも、彼を参考にしてやってくださいね。では、そのままオリヴァー君、障壁に向かって魔力攻撃を」
オリヴァーが、ファイヤーボールを作り勢いよく投げ付ける。それを魔力障壁が跳ね返す。
「わぁ! 凄いですねっ!」
興奮気味の沙織にも、デーヴィドは何か攻撃をしてみるように言うと、次のチームを見に行った。
(えーと、昨日の一割の力でいいのよね)
「セオドア様、行きますよー!」と手を指鉄砲のように握り、パンッ!と小さな水の球を飛ばす。
セオドアの障壁は見事にそれを跳ね返した。
だが、障壁は壊れなかったものの、ヒビが入っていた。――呆然とするセオドア。
「最初のオリヴァー様の衝撃で、亀裂でも入っていたのですね! 流石、オリヴァー様! ヒビが入っても壊れない障壁を作るセオドア様も、本当に凄いですわっ!」
それはもう……必死で誤魔化した。
「いえ、サオリ様の水球のスピードが凄かったのです。正直、もの凄い衝撃で驚きました。やはり、貴女は騎士志望なのですね。今の時代、女性でも騎士になれます。大丈夫です、誰にも言いませんから」
「……え?」
「二人だけの秘密にしますね」と、セオドアは沙織に耳打ちした。
全く誤魔化せていなかったうえ、訳の分からない誤解をされてしまい沙織は困惑する。
(……な、何だったの、今のは? 二人だけの秘密? 剣すら触ったことない私が、騎士? セオドアは思い込みが激しい人なのかしら? ……怖っ!)
沙織が恐怖を感じていると、暢気な声が。
「おーい、今度は俺が障壁作るぞっ!」
やる気満々のオリヴァーが障壁を作った。
そして、セオドアが攻撃すると、あっさり壊れてしまう。今回は沙織の出番はなかった。
オリヴァーは、デーヴィドに魔力の込め方を指導されている。
気を取り直して、今度は沙織も魔力障壁を作ってみた。昨夜を思い出し、魔力を練りセオドアを真似て手を前に突き出した。
(……イメージよね、壁の! 防弾ガラスみたいに……硬いガラスに、衝撃吸収出来る柔らかいのを挟んで、更に硬質のガラスの壁をっ)
目の前に魔力障壁が出来上がった。沙織は純粋に、それの強度を知りたくなる。
「セオドア様。これの強度を知りたいので、ヒビが入るまで、徐々に攻撃を強めていってもらえませんか?」
「そんな危険なことっ――! 怪我でもしたら……いえ、それが貴女の望みなのですね。承知しました」
(ん?)
ちょっと独りで何を言っているか分からないセオドア。
先ずはオリヴァーの障壁を壊したレベルから、スタートしてもらった。次々と攻撃を繰り出してもらうが、障壁はびくともしない。逆に、セオドアの息が切れる。
「サオリ嬢……すみません。僕の方が限界みたいです」
「あ、ありがとうございました! 意外と丈夫に作れたみたいで良かったです」
――そして、授業は無事に終了した。
◇◇◇
「それで、どうも勝手に……私は、騎士志望だと思われてしまったみたいなの」
ケーキを食べ、渋めのストレートティーを飲みながら、今日の実技実習結果をステファンに報告した。
『本当に、貴女という人は……』
リュカの姿のステファンは、短い前足で頭を抱えた。